本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ヤクザの暴力団組長の娘と結婚の玉の輿のハッピーと緊張の恐怖

金持ちの娘を嫁にもらうことを〃逆タマ〃という。オレはそれに乗った幸運な男だ。
東海地方の某中堅都市に豪邸を構える妻の父親は、少なく見積もっても10数億の資産持ちだ。

いつも運転手付きベンツで我が家にやってきては、数十万の小遣いを置いていく。

「気前のよさ」とは、義父のためにある言葉といっても過言ではない。
これで嫁さんの性格が歪んでいれば幸、不幸のバランスも取れるのだろうが、実際、女房はよくですきた女。まったく、オレほどラッキーな人間もいない。
しかし、世の中まったくよくできたものだ。実はオレの逆タマには、とんでもないオマヶが付いているのだ。

オレは某旅行会社の営業部に勤務していた。
企業を回って社員旅行をセッティングしたり、ツアーを企画したり。若き部長の肩書きに恥じぬよう懸命に働き、毎月約40万の収入を得ていた。
当然、ストレスはハンパじゃなく、そのため風俗や酒に散財すること数知れず。おかげで10年以上働いても貯金は100万足らずしかなかった。
そんな状況に一抹の不安を感じてか、その頃のオレは結婚に対する願望が日増しに強くなっていた。
ある夏の夜のことだ。地元の居酒屋で仲間3人と飲んでいたところへ、20代後半、若妻風の2人組が店に入ってきた。
「マスター。私さあ、昨日ハーフで60も叩いちゃったの〜」
「ちゃんと練習してるのかい?」
「今日も打ちっぱなしに行ってきたわよ」
2人は店主とゴルフの話題で盛り上がっていた。こっちは野郎3人でシケていたところだ。声かけない手はない。
「どちらのコースを回ったんですか?」
「伊豆の○○ですけど」
「名門コースじゃないですか」
「父が会員権を持ってまして」
「へえ」
これをキッカケに男女5人で大いに盛り上がったのだが、オレが興味を持ったのは茶髪の五十嵐淳子風の女。かなりの美人を相手にここぞとばかりに口説きまくった。
彼女の名は鈴木一枝(仮名)・OLで、趣味はゴルフ、車はベンツに乗っているという。そのテキパキした受け答えからは一本筋の通った性格がうかがえるが、ビールや灰皿など周囲への気配りも忘れないかといって水商売のようなスレた印象も受けない。

躾のよさがそこかしこに見られる。
何者なんだ。ひょっとして地元の名士の令嬢か。とりあえずその日は、ポケベルリ菅号だけ交換し、居酒屋を後にした。
翌日、さっそく目宅の電話番号を彼女のベルに打ち込むと、ほどなく電話がかかってきた。
「斉藤さん?」
「そう。今週の金曜、飲みにいかない?」
「いいわよ・この前と同じ居酒屋で、待ちあわせしましょうか」
相性バッチリとはこういうことを言うのだろう。オレと一枝は会ったばかりとは思えないほど親しく酒を飲み、会話を交わした。この歳になって恥ずかしいが、運命的なものすら感じる。
途中、彼女がトイレに立ったとき、マスターが言った。
「斉藤さん、内緒の話だけど、一枝ちゃんと付き合うなら、十分気をつけてね」
「は?それどういう意味ですか」
「いや、まあ、多くは語れないけどね」
何をワケわからんことを言ってんだ、このオッサンは。ひょっとして妬いてんのか。
結局、その日はキスもせずに一枝と別れた。

一枝とはデートを3回、4回とこなしても、キス以上には進まなかった。詳しい素性は一切語らないし、家まで送ろうとしても頑なに拒まれる。
いったい何を隠しているんだ。
オレのことが嫌いなのか。本心を聞かせてくれよ。
「斉藤さんは優しくてすごく好き。でも、私の身体は普通の人と違うの。見られたら絶対嫌われるわ」
「大丈夫だって。ガキじゃないんだから、気にしないって」
「でも…」
「オレのことが好きなんだる」
「わかったわ。一回キリの遊びとかだったら始めに言ってね。こっちも心の準備ができるから」
「何度も言ってるだる・一枝のすべてが好きなんだ。オレと付き合ってくれ」
「…斉藤さん」
よつしや〜!5回めのデートでやっとこさOKだ。ったく高校生じゃないんだから。
国道沿いのラブホテルにチェックイン。彼女の希望どおり明かりを消した部屋でキスをして、耳、首筋、肩と舌を這わせていく。そして、ガウンから両腕を抜き、わき腹あたりに自分の顔を持っていったとき、何やらアザのようなものが目に入った。
ん?普通の身体じゃないってこのことか。いや違う。赤、青、緑…。見れば、体のいたるところに鮮やかな色が。ひょっとして…。
ベッドと彼女の間に体を滑り込ませ、背中を確認する。
「うわっ!」
なんと、彼女の身体には極彩色に彩られた入れ墨が彫られていた。

「驚いた?」
「本物を見るのは初めてだからビックリだよ。これ、何の絵なの?」
「吉祥天っていうの。ねぇ本当のこと言って。私のことイヤになったでしよ?」
「んなことねぇって」
一応、強がってはみた。が、本心は怖くて怖くてたまらない。ホテルを出た後、コワモテの兄ちゃんが出てきて脅されるのか、それとも殴られるのか。居酒屋のマスターの忠告が今になって身にしみる。バックれるか?いや。ここまで来たらヤルもヤラずも結果は同じだろう。オレはヤケクソになって腰を振った。
と、意外なまでに興奮してしまう。なんせバックでハメると、目の前で一枝と背中の吉祥天が踊りまくるのだ。
聞くところによると、この仏はす仏教界一の美しさを持ち、毘沙門で天の妃と言い伝えられてるという。

「あの……。もしかして旦那がいて、その人がヤクザとか?」
「ん?」

「じゃあ、なんで」
「父が組長なの」
「え!」
ヤクザ。それでね、私もお母さんの真似してこんなバカなことしちゃったんだ」
・・

「でも平気よ・斉藤さんは私の恋人だもん。真剣に付き合っててくれたら、指一本触れさせないわ。お父さんも堅気の人に手を出すような人じゃないし」
「ん」
「その代わり、素人の子と浮気をしたら絶対に許さないからね」
「はい」
こうしてオレと一枝の交際は始まった。

付き合い始めると、やはり一枝は普通の女じゃなかった。オレに心を許していることもあるのだろうが、口にする話題がとにかくぶつ飛んでいるのだ。
金を持ち逃げしようとした若い組員が森の中で大木に吊らされた、借金の支払いを放棄した工場の社長が海岸に埋められた。そんな話を淡々と聞かされては、さすがに寒くなる。
「でも、父は普段は温厚な人だから心配しないで。ちゃんと建設会社もあるし」
聞けば、博徒の一家に籍を置き、数年前に鈴木組(仮名)を興した一枝の父は、現在、若い衆を抱える暴力団の親分で、公共の利権をいくつか掌握しているらしい。
一枝もその建設会社の役員に名を連ね、給料をもらっているという。違う。オレの住む世界とは完全に違う。
が、それでもオレは別れる気はしなかった。よほど躾が厳しかったのか、とにかく一枝は気が利く女で、Hのサービスも満点。まるで非の打ち所がないのだ。これまで結婚できなかったのは、父親のせいとしか考えられない。
付きあい始めて半生後、いよいよオレは決心した。
「結婚しよ」
「えっ?どうしたのよ、急に。ムリしないで」
「イヤなのか」
「そうじゃないけど…」
「オヤジさんのことで躊躇するのもわかる。ウチの両親もお堅い公務員だから、正直に言えば反対するだろう。けどな、一枝と組とは関係ないじゃないか。オレのオヤジとオフクロには建設会社を経営していると伝えれば、ウソにはならないし…。そりゃ、義父さんも気を悪くするかもしれないが、娘の結婚のためだ。理解してくれるって」
「それは平気だと思う」
「オレと付き合っていることを義父さんは知ってるんだろう?」
「堅気の人間なら問題ないって言ってるわ」
「だったら挨拶に行こ」
「…ありがと」
数日後、オレは一枝の実家を初めて訪問する。

小高い丘の上にある敷地300坪の屋敷。それが組の事務所兼自宅だった。豪邸の名にふさわしく周囲は壁で囲まれ、立派な門構えが恐怖を与える。
オレの運転するカローラが正面に止まると、ガガガガガーとトビラが開いた。と、そのとき。
「ウイーーーッス」
「ウイーーーッス」
「ウイーーーッス」

若い衆のお出迎えである。パンチパーマからロン毛茶髪の若い兄ちゃんまで、十数人がズラっと並んでいる。コワーー.
「コチラヘど-ぞ」
初めて訪れるヤクザ事務所。恐怖は限界に達していた。心臓はバクバクで、一枝の言うことがマトモに聞こえない。一介のサラリーマンが組長に向かって、「娘さんを嫁にくれ」なんて言っていいものか。
「オヤジがお待ちです。コチラヘど-ぞ」
「はい」

靴を脱ぎ、促されるまま奥の接客室へ入ると、角刈りの義父が灰皿を呪みつけていた。怖い。怖すぎだ。
オレは極度の緊張のなか、体を震わせながらも、昨日から何度も反錫した台詞を切り出した。
「一枝さんとお付き合いさせてもらってます斉藤といいます。今日はお願いがあって参りました。一枝さんと結婚させてください」
オヤジさんは目をつむったまま押し黙っている。果たして…。
「斉藤くんは、旅行会社のサラリ-マンなのか?」
「はい」
「よし、わかった」
「・・・.」
「嫁にくれてやるから、娘は持ってけ!母さん、酒だ!酒持ってこ〜い」
オヤジさんが号令をかけるやいなや、日本酒、寿司、鯛のお造りと次々に料理が運ばれてきた。
「今日から親子だ。長男の義治とも義理の兄弟になったワケだから、3人で盃をかわそうじゃないか」
「へっ?あの、これって…」
「もちろん、組に入れというワケじゃない」
「はい」
オレはやはりとんでもない世界へ足を踏み入れてしまったようだ。話はトントン拍子で進み、結婚式は半年後の6月と決まった。が、これが一番の悩みどころである。
おそらく義父のことだから、その筋の親戚一同に呼びかけ、ド派手な披露宴を催す腹づもりだろう。
紋付き袴のコワモテの面々が、目の前をゾロゾロゾロゾロ…。
ダメだ、ダメだ。そんな光景を目の当たりにしたら、オレの親族は腰を抜かすに違いない。
「というわけで、ジミ婚にしたいんだけど、お父さん、納得してくれるだろうか」
「わかってくれると思うわ。私も協力するから一緒に話して」
オレと一枝は慎重に事情を話し、
オヤジさんに理解を求めた。と、これが心配していたのがバカらしくなるほどすんなり認められる。ヤクザとはいえ人の親。やはり娘の意向には勝てないようだ。
その代わりというわけでもないが、新婚旅行はとんでもないことになった。
イギリス、スペイン、フランス、スイス、イタリア。オレはこの5カ国を3週間かけて回るコースを計画していた。資金は2人で200万円。式が質素なぶん、豪華にしようと考えたのだ。
と、そこへ義父が突然、若い衆2人を同伴させると言いだしたのだからたまらない。とにかく海外は危険、娘に何かあったらと引かないのだ。冗談じゃない!誰がヤクザをつ
れてハネムーンなんぞに行くか!
と、心の中で憤慨してみたところで、オヤジさんの考えが変わる気
配は皆無。結局、折れるしかなかった。
当日は、成田までベンツで送られ、祝儀に100万を渡された。ちなみに、結婚式での祝儀は300万である。
今回、同行してくれるミッオとカズも含め4人分のチェックインを済ませ、出発の挨拶に向かう。
「おい。2人に何かあったら、おめえら帰って来れね-と思えよ」
「ウィーッス!」
「ウィーッス!」
第二旅客ターミナルで大声を上げる、オヤジと若い衆たち。やめてくれ。みんなが遠目に見ているじゃないか。
飛行機は無事ロンドンのヒースロー空港に着陸。ミッオとカズは初めての長距離フライ
トでグッタリの様子だが、そこは組長からの指令。飛行機を降りるや、荷物を運び、ジュースだタバコだとしきりに気を遣ってくれる。いや-、これはラクチンだ。ホテルでのチェックインも彼らに任せ、オレと一枝はラウンジで紅茶を味わった。
「はぁ、疲れた。オヤジさんも、ほんと心配性だよね」
「フィリピンとかタイはよく行くみたいだけど、ヨーロッパは慣れてないから怖いみたい。どう考えても逆なのにね」
「そりゃそ-だ」
婚約して以来、一枝と水入らずになるのは久しぶり。来てよかった。と、そのとき。
「おいコラぁ!」
ミッオの声がロビーに響いた。
何だ
「いやね、このボーイが予約が入ってないとか言うもんですから」
「本当に言ったの?」
「いや、英語で何言ってるか、わかんなかったんですけど…」
あちやちや。やっぱり2人に任せるんじゃなかった。
「わかった。ここはオレに任せて」
「すんません、兄貴」
「気にすんなって。それより、兄貴って言っのやめてくれない?」
「じゃあ、どう呼べばいいんですかね」
「斎藤さんでいいよ」
「わかりやした、兄貴!」
「。。。。。。」
聞いてんのかよ上トの話。細々とした雑用や手続きはミッオとカズに任せ、オレと一枝は旅行中、毎日のようにヤリまくった。
地中海を背景に〃吉祥天″を拝むのは格別な味わいだ。
そして、帰国してから約4カ月後、彼女の妊娠が発覚する。いわゆるハネムーンベイビーというやつだ。
「やったな」
もちろんオレは大喜びである。
が、それ以上に喜び、イラつく人間が1人いた。言うまでもない。義父である。
「まだ生まれんのか」
「おとうさん、妊娠4カ月ですよ」
「そうか。ベビー服が必要だな」
「.。。。・・」
「金がいるだろう。今から持っていくから」
「もう夜中ですから、明日でいいですって」
「わかった。娘を頼むぞ」
こうした電話が毎日のようにかかってきた。一枝の兄も結婚していたが、子供はまだ生まれていない。やはり初孫が待ち遠しいのだろう。
産気づいた晩は、とんでもない騒ぎとなった。
早朝まで、オヤジは分娩室の前に仁王立ち。オレや義母がいくら席を薦めても、「娘が頑張ってるときに何を言旦と譲らない。無事に男児が生まれると今度はオレを連れて神社に参拝し、半紙にこう記した。
『命名斉藤一志」
絶句したオレはそれ以上、何も言えなかった。
それから3年。息子が3才になったある日、オレは自らの不注意な一言で組に激震を走らせてしまう。それは、オヤジが外に若い衆を待たせているときのことだ。
「雅夫さん、おかえりなさい」
「マコトくん、またこんなところで待たされてんのか。いくらベンツとはいえ、ずっと外にいるのもしんどいだろ。中に入れよ」
「いやぁ、ドヤされっから遠慮しておきます。ところで、雅夫さんは相変わらずカローラですか。大変っすね」
「ははは」
顔では笑っていたが、カチンときた。オレはしがないサラリーマン。ど-せベンツなんか手が出ないよ。
と、この出来事をついオヤジさんの前でこぼしたのがマズかつた。
オヤジさん、急に顔色を変え、家を飛び出してしまったのだ。
「何が?」
「マコト、きっちりやられるわよ」
「やられる?」
「ちょっと考えればわかるでしよ。お父さんにしてみりや、息子をバカにされたワケだからね。そりゃ、元子分も盃分けた間柄だけど、父にしてみりや、自分の教育ができて
ないって言われたようなもんよ」
「そんなものかぁ」
たかが車をバカにされただけのこと。オレに謝ってくれればそれで済む話だ。
が、それは極めて甘い認識だった。なんとマコトが翌日、指を詰めたというのだ。金で責任を取れない以上、方法はこれしかないと本人からの申し出だったらしい。
「堅気のオメーに迷惑かけたくね-けど、これはケジメだから」
「はい」
この日以来、オレはしばらく女房の実家へ足を運ぶことができなくなった。