本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ヤミ金の借金の取り立ての実態

植村さんが営む金融業クラウン商会(仮称)は、駅からほど近いマンションの1室にあった。
広さ2LDK。ソファ、テーブル、冷蔵庫など、おおよその生活道具が
一式揃い、一見普通の住居に見えるものの、そこがヤミ金の事務所とし
て使われているのは、室内に散乱するFAX用紙を手に取れば明らか。
そのほとんどが、債務者の弁護士か
ら送りつけられたのだ。


試しに1枚読んでみると、
〈…本日、貴社は暴力団風の男8名
を介し、当依頼人に対して暴力的な
方法による金銭の要求をしましたが
この行為は恐喝罪、威力業務妨害罪、
不退去罪、弁護士法等に反する明か
な犯罪行為です。法治国家日本にお
いて二度とこのようなことなき様強
く警告します〉


少し、説明を加えておかねばなる
まい。昨夏に営業開始したというこ
のクラウン商会は、いわゆるヤミ金
とは多少性質が異なる。いや、八ツ
キリ言えばもっとタチが悪いかも知
れない。


ヤミ金の利子といえば、トイチやトサン、近ごろではトゴなんて業者
も珍しくない。
しかし、クラウン商会はその上を
行く。借り手の商売の状態や金回り
の善し悪しによって利率をコロコロ
変えているのだ。
その振り幅、トイチから卜八チま
で。例えば卜八チなら、10万借りて
も、金利を差し引かれたった2万円
しか手渡してもらえない。ムチャクチャである。


客集めも、植村さんと親しいヤクザ連中に借りのあるカタギの人間を
次々と紹介してもらい、半ば強制的
に貸し付けているというエグイやり方。

その中にはショバ代を滞納したスナック経営者、負けがかさんだ麻
雀仲間、恐喝中の土建屋社長などいろいろな人間がおり、クラウン商会
の口座には毎月計200万〜300万のカネが振り込まれているという。

ムリヤリ融資を迫り、オマケに金利は目ン玉が飛び出るほど高い。と
くれば、その取り立てが苛烈なのは想像に難くない。

「おはよつす」
事務所に着いて1時間。植村さんとアレコレ世間話に花を咲かせてい
ると、玄関から威勢のいい声が聞こえた。クラウン商会の社員、阿南氏
(仮名)、川野氏(仮名)のお出ましだ。これでメンバー全員集合。いよいよ業務開始である。
とりあえず両人に挨拶を済ませ、ジャマにならぬよう部屋の隅に陣取る。

と、阿南氏がおもむろにポケッ
トから1枚の紙切れを取り出し、机
の上に広げた。見れば、3人分の住
所、氏名、勤務先、電話番号が言き
つけられている。何すかコレは。
「不届き者リストだよ」
不届き者。つまり、昨日までの入
金期日を守らなかった不幸な方々のことらしい。
通常、払い込みを滞納した場合、
サラ金であれヤミ金であれ、最初は
電話での催促が常である。が、クラ
ウン商会は違う。いきなり相手の自
宅および勤務先に取り立てに行くというのだ。
「期日を破るヤシに電話でお願いし
たって言うこときかないよ。ガッー
ンと行かなきゃ、ナメられちまうって」
「あの、オレはどうしたらいいんすかね?」
「藤塚クンはここにいてよ」
取り立てにはいつも3人で行く。だからオマエは事務所で電話番でもしてろ。川野氏は言うが、せっかくのチャンスである。ぜひ、そのガッーンと行くところをこの目で見たい。
「一緒に行っちゃダメつすか?」
「行きたい?いいよ、オレが留守番してるから」
こうして事務所には川野氏が残ることになり、我々の乗ったベンツは一路東へと発進した。
のどかな山あいの町を右へ左へ
車はとある建設会社の前に止まった。本日最初のターゲット、
片山某の勤務先である。
何でも片山さんは、2カ月前、クラウン商会から借金。以後、きっちり利息だけ
は返していたものの(利子はトゴ)、
ここにきてついに力尽きたらしい。

事前の探りで、今日の出社は確認
済み。ケータイで植村さんが近くの
喫茶店に呼び出すと、1分も経たないうちに本人が飛んできた。

服装は作業着姿でなかなかの男
前。しかし顔色は蒼白で、いまにも
泣き出しそうなのが見ていて辛い。
「くうおら片山心おどれ××××××××」
片山さんが席に着いた途端、正面の阿南氏がいきなり声を張り上げた。

あまりに早口でまくしたてるので、
何を言っているのかよくわからない
ところがあるが、その迫力たるや鬼
のごとし。ちなみにこの方、かつて
殺人未遂を起こし、長らく塀の中にいたという過去を持つ。
店内は重い空気に包まれた。客が
見守る中、2人の強面から顔にコッ
プの水をかけられ、怒鳴りつけられ
る片山さん。グーの音も出ない有様だ。

うわ早く終わってくれ。緊張しっ放しでノドがカラカラだ。


結局、話は片山さんが嫁の両親に
無心し、利息にプラス迷惑料を明日
キッチリ支払うということで落ち着いた。

何とかヤマ場を乗り越え安堵した
のか、片山さんはうれしそうな表情
を浮かべ、念書を書いている。
〈明日、振り込みができなかった場
合は、私の所有する車2台を貴社に
お譲りします〉
にしてもなぁ。この2カ月間で彼
はざっと90万の利息を払い続けてき
たワケで、明日の分も合計すると、
115万円を失ったことになる。わずか30万のために。
今さらだけど、なんで一括で返さなかったか。いやむしろ、恐るべき
はやはりクラウン商会か。たった1日の滞納でプラスってアンダ。
いいのか、こんなんでいいのか世の中よ・残りの取り立ても実にスムーズだ

った。2件目は、居留守を使い自宅
アパートに立て篭もる夕lゲットを、
壁やドアを何度も蹴り上げて、相手
をあぶり出し、念書を書かせて一丁
あがり。3件目は会社に訪問する直
前に入金があり、その場で迷惑料だ
けを取って終了した。
実にアコギな手口ではあるが、植
村さんに言わせれば「アイッらカタ
ギって言っても、元々はヤクザとつ
るんでいた小悪党」で、同情の余地
はまったくないという。
ただ、こちとら素人である。ここ
まで生々しい取り立て現場に居合わ
せると、実にシンドイ。見たいって
言ったのは、こっちなんだだけど、
正視できませんよ、マジな話。
ちなみに、取り立てが未完のうち
に警察や弁護士が動けば、ほぼ10
0%カネは取れない。逮捕の可能性
すらある。ために、この激しい追い
込みは相手を徹底的に恐怖に陥れ、
逆に下手な行動を取らせまいとする、彼らなりのビジネス術といっていい。
午後3時。ようやく事務所に戻る
と、クラウン商会の面々がそれまで
のスーツ姿から、ラフな私服に着替
え出した。あれ、なんか別の仕事で
もあるんすか?
「いやいや。今日はもう終わりだよ。
いまから遊びにいくの」
「一スワ・」
考えてみれば当然かもしれない。
客の大半をヤクザからの紹介で得て
いる彼らは、余所のように電話、ビ
ラ、DMを使ってあたふた営業活動
をする必要がない。客からちゃんと
期日にカネが振り込まれていない場
合のみ、追い込みという仕事をやる
だけなのだ。
まったくナメてるというか羨まし
いというか。まあいいや。じゃオレ
もサウナにでも行って、冷たいビー
ルをキューつと一発…。
「ダメだよ」
「はい?」
「藤塚クンは事務所にいなきゃ」
「だってもう終わりですよね」
「違う違う。それはオレらだけ」
クラウン商会の定時は7時。藤塚
は舎弟分の代打なんだから、居残る
のは当然とおっしゃる。八ァ〜いい
ように使われとるなぁ。
けど、いいもん。ボクちゃん、アしを観てヒマを潰すんだから。
黒木瞳と優香の⑳ビデオ.何でも、
植村さんと親しいヤクザが極秘ルー
トで手に入れたいわく付きのブッで、
近々これを大量にダビング、1本5
万円で密かに売り出すという。その
マスターテープがこの事務所にある
と、昼間、小耳に挟んだのだ。
植村さんたちが車に乗り込んだの
を確かめるや否や、オレは事務所の
棚からそっと2本のビデオテープを
取り出した。クク、さすがヤミ社会
や。よもやこんなエグイ代物が出回
っとるとは。んじゃまず、侵香のテ
ープを…。
映し出された映像は、彼女が出演
するバラエティ番組の録画だった。
そして、残りの1本は黒木瞳主演の
火曜サスペンス劇場『鬼畜』・無言
のまま、小脇に抱えたティッシュを
元の位置へ戻すオレ。
長い1日が終わった。翌朝9時。事務所のソファで寝て
いるところをたたき起こされ、植村
さんにまたまた留守番を命じられた。
何でも、本日の入金分はすべてと
どこおりなく、昨日追い込んだ片山、その他もう2名のカネもちゃんと振
り込まれていたため、本日の仕事は
ゼロ。他のメンバーは今からゴルフ
に行くのだという。
「えI。またオレー人つすか?」
「ちゃんと留守番しててよ。いつお
客さんがくるかもしれないし」
ちぇ、昨日だって来客はおろか電
話1本鴫らなかつたってのに。どl
せ誰も来やしないよ。
ところが、来た。昼頃、近所の惣
菜屋で弁当を買い、事務所に戻って
くると、ドアの前に恰幅のいい中年
男が立っていたのだ。やたら目つき
が鋭いけど、八テ、どちらさん?
「キミこそ誰や。植村んとこの若い
モンか?」
ビビッた。あの方を呼び捨て
にするとは、きっとどこぞの親分に
違いない。
とりあえず男を丁重に事務所へ招
き入れ、自分の素性、立場を説明。
改めて身分を尋ねると、男は某ヤク
ザ組織の組長で、クラウン商会の金
主だと名乗った。
「近所に用事があってな、ついでや
から、新しい商売のビラを持ってき
たんや」
「ビラ?」
聞けば、組長はクラウン商会に従
来の金貸しの他に車金融を始めさせるつもりらしく、その手に分厚いチ
ラシの束がギッシリと握られていた。
ざっと500枚はありそうだ。
「けど植村がおらんのやったらしや
lないな。茶ぁ飲んだら帰るし、こ
のビラ渡しといてや」
「はい」
しかし、組長はなかなか帰らなか
った。どころかテレビに釘付けと
なり「タマちゃん、釣り針刺さって
かわいそうやんけ」「あの白装束の
ヤシら気色悪いのお」と世間の珍事
に興味津々のご様子である。あの別
にいいんですけど、やっぱオレとし
ては何つlか、非常に気疲れするっ
つlか……。
ふと、組長がこちらを向いた。
「そや兄ちゃん、お手伝いに来てん
ねやろ。それやったら、このビラ、
撒いてきてんか」まったく、なんでオレがチラシ配
りにまで駆り出されにゃならんの。
タマらん、タマらんなI。
だが手抜きは許されない。何とい
っても組長直々の指令である。町中
の駐車場という駐車場をくまなく回
り、汗だくになって仕事をこなす。植村さんからケータイに連絡が入
ったのは、チラシの束がようやく半
分に減ったころのことだ。
『藤塚クン、どこにいんの?」
『外なんですよ。実は…」
これまでの経緯を説明すると、植
村さんは大声で笑い、要件を切り出
してきた。
『こっちも急な仕事入ってさ。ビラ
は後回しにして、ちょっと来てほし
いんだ」
「どうしたんすか?』
『それがさ、前に飛んだ野郎が見つ
かりそうなんだ』
飛んだとは、つまり逃げたこと
を意味する。
31
その男Ⅱ川岸さん(仮名硬才)は
今から4カ月前、ある暴力団関係者
とトラブルを起こし、120万円の
借金を負った。例によってクラウン
商会が登場し、全額を肩代わりした
のだが、間もなく川岸さん本人は自
宅アパートから妻とともに姿を消し
てしまう。
即座に捜索が行われたものの、行
方はようとして掴めず、半ばあきら
めかけていたのだという。
だが、川岸さんは近くにいた。今
日、偶然植村さんの知人が、車に乗
ったヤシの姿を見かけたのだ。
釦分後、事務所前で合流すると、
植村さんが興奮気味に口を開けた。
「あいつ、絶対嫁の実家か妹の嫁ぎ
先に隠れてるんだよ」
根拠は一つ。川岸さんと思われる
車が、高速道路で隣県方面へ向かっ
たという情報だ。その方向にいる川
岸さんの親類縁者は前記の二者しか
ない。
ただちにクラウン商会は二手に分
かれ、追跡チームを編成。阿南、川
野両氏は嫁の実家Y県へ、オレと植
村さんは妹の嫁ぎ先Z県へと向かう。
いまや川岸さんの借金は膨れに膨れ
て750万。みなが色めき立つのも
ムリはない。
車中、植村さんに肩を叩かれた。
「悪いね。こんな面倒なことまで手伝わせちゃって」
何をおっしゃる。昔から刑事ごっ
こには目がないつlの。
すっかり日も暮れかかった午後6
時過ぎ、車は目指す家の裏手に止ま
った。場所は小さな町の住宅街。人
影はまばらだ。
「いますかね?」
「5分5分じゃん?2カ月前も来
たんだけどさ、そんときは3日3晩
張り込んでもスカだったよ」
できれば、家の窓まで近づいて中
の様子を探りたいところだが、辺り
はまだ明るい。そこで散歩がてら家
の周辺を探索することにした。居酒
屋2件、スナック3件。ふむ、後で
調べておこう。
用水路の脇を歩いていると、大呈
のボウフラが飛び交っていた。その
様子を眺めつつ、オレはまだ見ぬ川
岸さんに思いを馳せる。
なんでワザワザ危険を犯してまで
X県に舞い戻ったんだろう。さては
愛人でも残してきたんだろうか。追
われの身だけど、それでも会いたい
女。いいなぁ、きっときれいなんだ
ろうなあ。そういうセックスって燃えるだろうなぁ。セックスしてえなぁ。
どうにもオバカな妄想をかき立て
ていると、前方で植村さんが手を振
っていた。なんでしよ!。
「阿南たちもいま嫁の実家に着いた
って。まだ何にも見つかんないよう
だけど」
「はあ」
「ウロチョロしててもしょうがない
し、車に戻ろうか」
「そうですね」
1時間、2時間。時は刻々と過ぎ
ていくが、依然夕lゲットの家に人
の出入りはない。試しに先ほどの飲
み屋関連にも顔を出してはみたもの
のすべて空振り。そっと家の壁に耳
を当ててみても、家人の声すら聞こ
えない始末である。阿南・川野チー
ムからもまだ色よい報告はない。
深夜2時。結局それらしい手がか
りが何も掴めぬまま、これ以上はム
ダと判断した我々は、とりあえず車
内で仮眠を取ることにした。植村さ
んは、明日もう1日頑張ってダメな
らあきらめると意気消沈である。耳をつんざくような怒声に目を覚
ましたのは、外がまだ薄暗い早朝の
ことだった。
声の方を見ると、植村さんが小柄な中年男性を引きずり回している。
何や、このオッサン。
「コイッコイッ。コレ川岸」
「えゃマジつすか”」
川岸さんが捕まったことよりも、
オレはその風貌に驚いた。薄い頭髪
に小太りで、顔は林家こんぺいソッ
クリ。ヤクザと操めるわ、借金取り
から逃亡するわで、てっきりアウト
ローチックな男を想像していたのに。
ちょっとショック。
捕り物の決着も、何ともショボか
つた。今日未明、自販機でジュース
を買っていた植村さんが後ろを振り
向いたとき、何と川岸さんがぼんや
りと順番を待っていたらしい。知人
と隣町で朝まで飲んでいたらしく、
まったく植村さんに気付いてなかっ
たという。バカじゃん、アンダ。
昼ごろ、事務所に連れてこられた
川岸さんは、植村、阿南、川野の3
名に取り囲まれ縮こまっていた。額
から滝のように汗が流れている。
当然つちや当然か。泣く子も黙る
クラウン商会の借金を踏み倒そうと
したのだ。さぞ地獄の気分を味わっ
ているに違いない。植村さんが口火を切った。
「苦労したよ、川岸さん。あんたい
ったいどういうつもりなの」
「すいません、すいません」
「今さらそんなことばは聞きたくな
いの。どうやって払うのかって聞い
てんの。750万」
「すいません。それはその…」
「ドカーンと生命保険に入っちゃえ
ば?1億くらいのさ」
「いやlその’…」
マズイ、マズイよ}」んぺいちゃん。
いつまでもウヤムヤなことばっか言
ってちゃ、ホント殴られちまうって。
と、突然、川岸さんがソファから立ち上がった。真っ青な顔色で、テ
ンカンでも起こしたように体がガク
ガク揺れている。
「わ、私、どうしたらいいかわから
ないので、ちょっと考えさてくださ
い。あ、頭の中が本当に真っ白なん
です。お、お願いⅡ」
動転した様子で事務所を出ていく
川岸さん。クラウン商会の面々はそ
の姿を黙って見つめるだけで、誰も
止めようとはしない。なぜ?
「いいのいいの。これ以上追いつめると自殺しちゃうよ」
納得…。

『とりあえず、川岸の土地の権利圭昌
押さえたから一安心だよ」
3日後、植村さんから連絡が来た。
半年待って返済のメドが立たないと
きは、さっさと売り払うつもりだと
いう。
上機嫌の声が続く。
『で、ガッポリ入ったら車を買い換
えようと思ってさ。いま乗ってるア
ーマーゲー(ベンツ)、150万く
らいでいらない?」
『いやいいつすよ、カネないし」
『バカだな貸してやるって』
「金利は?」
「藤塚クンならトイチでいいよ」
勘弁してください。