本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

女との関係を切らしたくないために会社のお金を横領した経理部長

私が担当していた間で最も重大な犯罪は、経理課の多田(仮名)が引き起こした横領事件だ。
金を扱う部署である経理の人間が不正を行うとやっかいである。会計のルールに精通しているだけに、うまくチエックの目をかいくぐる法を知っているのだ。
大手の企業だと2年に1度、国税局の税務調査が入るし、内部監査も実施しているが、経理担当、特にベテランともなればその時期や内容は承知済み。それだけに、大胆な不正を働くことも可能である。
地方の高校を卒業して就職した多田は、入社以来経理一筋だった。地味だが、コッコッとまじめに働き、勤務態度も申し分ない。上司の評価も高かった。
そんな彼がある日突然、退職を申し出る。上司が理由を聞くと、父親の体調が思わしくなく、田舎に帰り家業を手伝わなければならないと言う。
経理マンとしてしっかり仕事をこなしていただけに、会社としても急に辞められのは困る。何とかあと半年と慰留したものの、多田はすぐに辞めたいと譲らない。
経理課長は仕方なく業務引継ぎの準坐備を進める。が、何かが引っかかる。多田の
口調にどこか不自然な印象を覚えた点、経理の内部監査が近い時期という点…。
単なる思い過ごしならそれまでだ。課長はあくまで確認の意味で多田と同期の社員何人かに彼について聞いてみた。すると、
「多田の父親が具合が悪いということは最近まで聞いたことがない」
「家業を継ぐ気はないと以前話していた」
「同郷の彼女ができて、高価なプレゼントを贈ったりしている」
話を聞くうち、経理謹長は「こりやちょっとヤバいぞ」と直感し、総務人事室長に相談する。結果、ただちに調査が開始されることになった。私の担当は多田の身辺調査である。同僚からヒヤリングすると同時に経理を徹底的に洗い直した。
と、まもなく多田が会社に来なくなる。経理の調査や同僚へのヒヤリングは極秘で行ってはいるが、雰囲気で察知したのだろうか。
居所はつかめない。両親は何かあったのかと非常に不安そうだ。
一方、経理の調査で多田の不正がしだいに明らかになっていく。少なく見積もっても1千万近くにはなりそうだ。真面目な男が何をとち狂ったのだろうか。数日後、興信所の調べで多田の居場所が判明した。他社に勤める同郷の男友達のマンションにいるらしい。
さっそく、経理課長とともに友人宅に向かう。私は緊張していた。事は重大。
慎重に対応しないと、もともとは生真面目な男だけに最悪、自殺でもしかねない。
課長がインターホンを押す。応答はない。居留守なのか、本当に居ないのか。
とりあえずマンション横の喫茶店で待っていると、まもなくコンビニの袋を持った多田が帰ってきた。先に課長が店を飛び出し、私も精算を済ませて後を追った。
エレベータ前で課長と話している多田はもう観念している様子だった。そのまま彼を引き連れタクシーで会社に向かう。さすがにタクシーの中では話はできない。重苦しい雰囲気のまま会社に到着、総務人事室奥の会議室に入った。
「本当に申し訳ありませんでした」
ことばは詫びているが、悪びれた様子はない。しかも、まったくの無表情だ。
「だいぶ調べはすすんでるんだけどな、いつ頃から、どれくらいの金額なんだ」
総務人事室長が切り出した。
「2年くらい前です。ぜんぶで3,4千万にはなると思います」
「え!」
金額を聞いて、そこにいる者全員の顔が引きつった。まさかそこまでとは。
伝票の改ざん、印紙の横流し、仮払い金の不正受給等々、多田はあらゆる手口で不正に会社の金を手にしていた。特に金額が大きかったのが、まったくの架空取引を作り上げ伝票処理、架空の会社の架空ロ座に会社の金を振り込むという手口だった。書類には経理課長の引出しから勝手に承認印を取り出し捺印するという悪質ぶりだ。
「何に使ったんだいったい」
経理課長の問いかけに、多田は「女です」と明確に答えた。
何でも、同郷の友人に誘われて行ったスナックのホステスにぞっこんになったらしい。
最初は彼女の気をひこうと自分の給料の中からプレゼント攻撃をかけていたものの、そのうち、彼女からブランド物のカバンなどをねだられるようになった。
デートも当然のように高級ホテル、高級レストラン。
早い話が、高校を卒業し、田舎から出てきたまじめな男が海千山千の年上の女にメロメロにされてしまったのである。
やがて多田は消費者金融のみならず、会社の金にまで手を出し彼女に貢ぐ。それが唯一、女を繋ぎ止めておく方法だと信じて。
しかし、女は1枚も2枚も上手だった。実は多田が行った架空取引は、彼女の従兄弟という男からの働きかけだった。架空ロ座などもその男が用意したらしい。
状況から考え、その従兄弟が彼女の男であることは明白だ。多田は否定するが、要はカモにされただけなのだ。

実際、多田が「経理の監査が入るためバレるかもしれない」と伝えた途端、男は行方をくらましたという。
ともかく金額が金額だし、社外の人間も犯罪に荷担している。顧問弁護士と相談した上、多田には警察に出頭させることにした。
もちろん会社は懲戒解雇。
上司の経理課長部長が監督責任を問われた。特に課長は鍵の管理が不十分だったことに対する責任を重く見て、課長代理への降格という処分が下された。
ちなみに、多田が横領した額の半分以上は彼の両親が工面し、後に会社に返金している。
多田がその後どうなったか、また彼をハメた男や女の行方については、詳しく知らない。

が、今でも思い出すのは、同期入社の連中が「本当はまじめでいいヤシなのに、かわいそうだ」
と涙したり、彼の両親が会社に詫びにきたときの樵梓した姿である。多田もあの女に出会わなければ今でもまじめな経理マンとして頑張っていたのだろうか。
ところで、多田の犯罪は本人の不自然な退職から発覚したのだが、経理や金融機関等、金を扱う部署では定期的な人事異動や担当換えが不正防止のために有効だ。

実際、我が社では、この事件以降、担当を換え、常に2人以上で業務を担当するという対策が講じられた。