本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

地方競馬の八百長レースで儲ける

1人だけオレと仲良く接してくれた馬主がいた。
数頭の馬を所有するT氏だ。
何でもバブルのずっと以前に某私鉄の開発で大金を手にしたらしく、話の端々から聞こえる総資産は少なく見積もっても100億以上。現在は某高級住宅街にビルや賃貸マンション、土地を所有しているらしい。
オレはどういうわけか、このオッサンに気に入られた。屋敷で酒を飲んだり、競馬帰りにパチンコ屋へ連れて行かれたり。ハデな遊びじゃないが、ことあるごとにオレを誘ってくれ、またオレもそれによく付き合った。
「面白いことをやろうと思ってるんだ。よかったら今夜、ウチに来ないか」
T氏がそんな電話をかけてきたのは、知り合って半年後のある日のことだ。何だろう面白いことって。

オレは意味がわからないまま、オッサンを訪ねた。
「しばらく草(地方競馬)に行くぞ。儲けさせてやる」
「えっ。オレ地方は買わないんで、よくわからないですよ」
「検討なんかする必要ない。オレの言う馬券を買えばいい」
「はあ」
「いいから聞けよ」
オッサンは普段は見られない真剣な顔つきになり説明し始めた。
実は彼は、JRAだけでなく優良血統馬を何頭か地方競馬の厩舎に入れていたのだが、その中の1頭Yを使って〃お遊び″しようと言うのだ。
「それって、つまり、…イカサマってことですか」
「ウヘヘ。1度ハマったら、やめられないぜ〜」
マジか本当に八百長が存在するなんて、ウソだろ。
例えばJRAでは係員があらゆる角度から騎手の動きを追っており、不審があればすぐに問いただされる。まず、イカサマなんて不可能だ。
これが地方なら、たしかにマスコミや監視の目も格段にレベルは落ちる。そのため、人気馬をわざと負けさせるくらいなら可能だろう。が、果たして厩舎や騎手が納得するだろうか。
「なんだ、そんなことか。オレが何年競馬をやっていると思う?調教師も騎手も納得ずくに決まってるだる」
「でも、どうやってやるんすか」
「人気簿で勝たせるのは難しいが、人気馬を負けさせるのは簡単だろ。
手綱を引っ張れ″ぱいいだけのことなんだからな」

やはりそうか。引っ張るとは手綱を絞ることで、馬を走らせない
ようにする一種のテクニックだ。
それを1番人気になるであろうYに用い、わざと負けさせようというのだ。
実はこのY、デビュー前に義務付けられている能力試験(通称、能試)で好成績を出していた。血統のいい馬が試走でも走ったんだから、人気になるのは明らかだった。
「そんで、他馬の単勝馬券を買おうって作戦ですか。そんなにウマクいきますかね」
「成功するに決まってんだろう。で、最後は、人気の下がりきったところで、Yに勝ってもらえばいいんだから」
なんだかシックリこないが、オレはとりあえず半信半疑のまま領ておいた。レース当日、オレはT氏とともに某競馬場の馬主席にい
た。やはり地方は汚い。タバコの吸殻まで落ちている。
「さて、何レースだったかな」
オッサンに先導され、テーブル席へ。オレが用意した金は100万円。財布から取り出した。
それにしても、自分が所有する本命馬を負けさせて、他馬で儲けるなんてかなりの悪趣味だ。が、金持ちとは案外そんなものかもしれない。はした金が増えるより、ゲームを楽しみたいのだろう
オッサンが無造作にセヵンドバックから100万円の束をポイッと取り出し、学生風情の兄ちゃんに渡した。
案の定、Yのデビュー戦は人気一本かぶりの単勝110円だった。他馬は軒並み10倍を超えているから、どれが1着にきても儲かる。ファンファーレが鳴り、ゲート入りが始まった。初戦という馬ばかりあって、なかなかスムーズにいかない。Yは大外8枠だった。
「さあ、これからだ」
興奮するオッサンを横目に、オレはまだ疑いを持っていた。が、まもなくそれは信じられない驚きに変わる。
ドンッV
ゲートが開き一斉に飛び出す新馬たちの中、Yがいきなり出遅れたのだ。マジでやりやがった!
中央と違い、地方は先行有利の馬場で直線が非常に短い。新馬にとって2馬身の出遅れは大ダメージである。
先頭が3コーナーを回り直線へ進入するころ、ようやくYのエンジンがかかり始めた。やはり良血馬だけあって、騎手の動きに対する反応はすばらしい。
果たして、Yは勝ち馬から3馬身差の4着に終わった。一生懸命追い込んだが届かず。
次に期待のできる走りだったV
ファンにはおそらくそう見えたに違いない。
「ひひ。これだからやめられんわい」
配当は15倍。Y以外のに均等に張っていたから、払い戻しは150万、差し引き50万
円の儲けである。
「不自然だと疑われませんかねえ」
「あん?お前もまだそんなこと言ってるのか。競馬に絶対はないだろうが」
オッサンが言うと迫力が違う。
責任は全部、馬になすりつければよいのだ。
「全部が全部そうじゃないけど、
草はこうやって小遣い稼ぎす
る連中も多いんだぞ」
オレの八百長レース初体験はこ
うして終わった。2週間後。オッサンに誘われ再
び競馬場に出向く。狙いはもちろ
んYのレースである。八前走は論外。マジメに走れば力は一枚上
当日の競馬新聞のYの成績欄の
下には調教師のこんなコメントが
出ていた。これもオッサンが言わ
せたのか。前売り単勝オッズは案
の定1.5倍のド本命に推されて
いた。


が、結果は3着。善戦するが勝ちきれないというような印象を与
えているので、特に不審がる連中
も見られない。まったく調教師も
騎手もそろって役者である。


ただし今回は、馬券的には旨味
がなかった。的中させた単勝の配
当が低すぎて、トリガミ(回収額
が投資額を下回る)になってしま
った。どうやらこの八百長も100%ではないようである。
もちろんT氏はまったく堪えて
おらず「次、次」と口から泡を飛
ばしている。そして、その言葉を
裏付けるかのようにYは次の3走
目、人気を二分したもう一頭に勝
ちを譲ったのである。100万円
の儲け。こんなことってありか1.
4走目も100万ほど儲けさせ
てもらった後の5走目。Yに対す
る世間の評判は「良血のダメ馬」ということで定着しかけていた。
「今度のレースは××(トップクラスのジョッキー)に乗せようと思ってるんだ」
「あ、そろそろ勝たせるんですね」
「何言ってんだょ。勝負気配を匂
わせ人気をあげておいて、再び引っ張らせるんだっつの」
「えつ」
トップクラスのジョッキーまで
もが加担するなんて。ウソだろ。
が、結果はオッサンの言うとおり。
オレの懐に再び100万近い金が転がり込んできたのだ。
6走目。オッサンはいよいよ仕
上げにかかる。思惑通り、Yの人
気は急下落している。そして、さらに次のような仕掛けを加えたら、疑う者は1人もいない。
①2カ月の休み明け(一般的に、走らない可能性が高いと言われている)
②若手ジョッキーを乗せた(ヘタだと思われている)
果たして、Yの人気は地に堕ちた。締め切り5分前の単勝オッズは約30倍である。

オッサンは単勝の投票数、枠連の投票数を集計し電卓をひたすら叩いた。早い時点で大量の金を入れるとオッズが不自然になってしまう。それを防ぐため、ギリギリまで待って購入したのだ。
結果、Yは楽勝で1着入線を果たす。怪しまれることはない。普通に見れば、走るべき馬が眠りから醒め、やっと結果を出したということなのだ。
オレはこのレースで、Yの単勝に流していた。
最終的に単勝オッズは15倍まで下がり、枠連と合わせて差し引き600万の浮き。これまでの6走をトータルすれば、Y1頭で1千万円近く儲けたことになる。笑いがとまらないとはまさにこのことだ。

それから2年後の本業のクルマ屋が倒産し、間もなく
オレは馬主資格を失った。それと同時にT氏とも疎遠になっていく。
今はオーナー連中とは一切付き合いのない、単なるイチ競馬ファンである。八百長レースで儲けるなどと言葉にすれば、笑い飛ばされるに違いない。

※この話はフィクションです