本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

新興宗教の信者だらけの街を歩く・カルト教団から家族や親友を守れるのか

『X』の教義内容については、他の多くの新興宗教がそうであるように、部外者の目からはよくわからない。信じる者がいて、救われている者がいるのだろう、とは思う。

ただ、オレの興味の対象はそこではない。好奇心をそそられるのは一点のみ。そんな町にヨソ者が寄り付けば、いったい何が起きるのか?Xが本部を置く町に向かうべく私鉄に乗り込み、ちっぽけな駅に降り立つ。と、改札を出たところにいきなり、挨拶を奨励する大きな看板が。

宗教法人Xの建物の写真がデカデカと添えられている。これが本部なのだろうか。にしても宗教施設ってのは揃いも揃って、豪華絢爛な作りをするのはなぜだろう。駅前にはコンビニが一軒とラーメン屋があるぐらいで閑散としている。ここから10分ほど歩けばX本部だ。

線路とコンビニの間の細道をぼんやりと歩く。ときおり若い男女が歩いているが、特に不自然な点はない。一級河川にかかる橋に差し掛かったところで私立大学の建物が見えてきた。なるほど、この人たちは学生なんだな。キャンパスを右手にしながら道なりに進む。
と、なにやら堅牢な門が見えてきた。その門へと向かう横断歩道に、白い道着みたいな格好のオジサンが二人で立ち、旗を持って誘導している。
「こんにちは!」
誘導のオジサンがこれでもかとデカイ声で挨拶してきた。
「あ、どうも」
「気をつけて渡ってね!」
横断歩道を渡ったところにいるもう一人もバカでかい挨拶だ。
「こんにちは!」
信者だろうか。デカイ挨拶は駅の看板に書いてあったように、Xの教えのひとつなんだろう。堅牢な門は、やはり本部の入口だった。中へは入れないので、長い塀に沿って歩いてゆく。塀はひたすら向こうまで伸びており、終わりが見えない。
道着姿の男性が一定間隔で立っており、全員が「こんにちは!」の挨拶をしてきた。また、歩いているのも同じ道着姿の人だらけだ。これがXの正装なのだろうか。今のところ私服なのはオレだけである。5分ほど歩いてようやく、普通の格好をしたオバサンが前から向かってきた。近所の人だろう。なんの気なしにすれ違う瞬間、耳元に大声が。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは」
「いい天気ですね」
「ええ」
「お体に問題はない?」
なんだこの人。見ず知らずの男に挨拶してくるのも奇妙だが、なんでいきなりカラダの話をしてくるんだ。思わず口をつぐむオレにオバサンは続ける。
「若いからまだまだ大丈夫だろうけど、歳をとったらいろいろ出てくるし大変よ。そうだ、週末、時間ある?」
「いや、え?」
「そこに一緒に行きましょうよ。同じぐらいの若い人もいっぱいいるから楽しいわよ」指がX本部を指している。勧誘か。にしても、ただすれ違った人間をいきなり誘ってくるなんて。オバサンの胸あたりになにか黄色い物体があることに気づいた。ワッペンだろうか。なにそれ。
「これ? 『●●●●バッジ』よ」「なんですかそれ?」
「これを着けてるとね、血圧が下がったり勇気が出たりいろいろイイことがあるの。週末はヒマ?」
週末に行われる『集会』への誘いが続いた。そのなんちゃらバッジもそこで購入できるんだとか。
気を取り直して歩を進めるが、いまだに右手には教団の施設塀が続いている。再びオバチャン二人組が正面から近づいてきた。これまた胸に黄色いバッジだ。そして大きな挨拶が。
「こんにちは!」
「あ、どうも」
「お体の調子はどう?」
またカラダか。それを言うのが決まりなんだろうか。
「ええ、まあ」
「あらー、今はいいけどね、歳とったらいろいろ出てくるからね。そうだ、週末時間あったりする?」
…胸がゾワっとする。この語り口、さっきのオバサンと一緒じゃないか。ようやく塀がなくなり、さらに歩いたところで国道にぶつかった。パチンコ屋やチェーンの定食屋など、ありがちな田舎の国道沿いの光景が広がっている。のっけから大きな挨拶で度肝を抜かれた形だが、本部沿いの道を歩いたのだから、当然といえば当然ともいえる。ここからは近くの住宅街のほうへ向かってみよう。
似た外観の建売住宅や、古ぼけた一軒屋、アパートなどが連なるなんの変哲もない普通の住宅街だ。小さな公園や空き地もあるが、人の気配はない。平日の午前ならこんなもんか。ふいに腰の曲がった老婆が見えた。胸に例のバッジはない。この人は信者じゃないのかも。が、挨拶がきた。
「こんにちは。今日は天気がイイねぇ」
「あ、そうですね」
「お体は問題ないかい? お腹出てるけどお酒の飲みすぎ?」
「…ええ、そうですね」
「そうかぁ。いやあ、週末にねえ、近くで集会があるから行ってみない? 若い人も多くて…」
またその展開かよ。バッジをつけてない信者もいるんだな。老婆はその集会とやらを詳しく説明して
きた。
「集会はねえ、演劇とかねえ、皆で歌を唄ったりとか、ご飯食べながらお話したりねえ。楽しいよぉ」
典型的な新興宗教の集会だ。どこも同じようなことをやってるんだなぁ。
「ところでお婆ちゃんはバッジつけないの?」
「バッジ? ああ、私はなくてもいいの。もうずいぶん助けられたからねぇ」
「助けられた?」
「前は足がねぇ、しびれてたんだよ。歩くのが辛かった時期があったんだけどね、バッジして集会に行って、色んな人とお話してたらいつのまにか痺れが落ち着いてきたの。バッジは家にあるけど、また痺れがぶり返したらつけようかなと思って」
よく聞きがちなエピソードではあるが、感心したフリをして婆さんとは別れた。その直後、目の前から軽トラックが近づいてきた。横を通り過ぎるとき極端にスピードが落ち、運転席の窓が開く。現場仕事風のおっちゃんだ。
「バーカ!!!!」
は? え、オレ?軽トラは一気に加速して去っていった。いったいなぜ罵られたのだろう。狭い道路とはいえ片側一車線ずつあるわけで、オレが邪魔したはずなどない。モヤモヤしたまま直進。線路にぶつかったので左折。さらにしばらく進み、最初の駅前通りへ戻った。
およそ40分ほどで、何度も勧誘されつつ町を1周したわけだ。この1周で集会へ誘ってきたのは7人。どう考えても異常なペースだ。その後2周目、3周目は住宅街の外周だけでなく内側の細道も含めてひたすら歩き、さらに20人ほどから勧誘された。彼らの誘い文句はまず「カラダはどう?」
と聞いてきて、週末の集会へ案内する流れで、その後はいくつかのバリエーションに分かれる。
「ご家族に病気とかストレスとかで悩んでるかたいない?」
「胸の病気が治った人がいる」
「〝参拝〞を続けて難しい病気が治った人がいるのよ」
「すばらしい場所があるから散歩がてら行ってみない?」
「気晴らしに参拝してみませんか?」
参拝とは先輩信者の話を聞くことらしい。にしても散歩がてらとか、気晴らしにとか、そんな口上でついていく人がいるのやら。夜になり途端に人影がなくなったので町を後に。明日も歩き回るとしよう。