本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ペットの犬をぶつける当たり屋の恐喝手口

軽い思いつきで始めたペットの当たり屋。

これが一発目で当たったもんだから、続けない手はない。

この犯罪のウマイところは、相手が「蝶いてしまった」という負い目を持つにもかかわらず、その代価があまりにも小さいことである。少なくて5万、多くても10万だから、財布も大して痛まない。万一、後で不審に思ったところで警察にかけ込むほどの額でもない。
注意すべきは決して自ら「金をくれ」と言わないことだ。法律的なことはよくわからないが、恐喝されてると相手に受け取られるのはマズイ。交渉は、あくまで善意や同情を引き出すのが目的だ。

そんなこんなで約1カ月。俺は犯人の主婦に犬を当て、そのうち4人から計50万をむしり取った。つまり、6人は失敗したのである。主婦で多いのが「主人に相談します」というリアクションである。被害に遭ったのが犬だからか、そもそも金で解決するという発想が出てこない。だからって旦那に相談されちゃ、こっちの身がヤバイ。自然、この類はあきらめざるをえなかった。
犬好きのオバサンってのも困る。自分がひいたことなど忘れたかのように、異常なほどお節介を焼いてくるのだ。
「アタシ、いい先生知ってるのよ・そこに行きなさい。すぐ治るわ。ウチの犬もかかりつけなの。紹介してあげるから。ね?ほら、今電話したげるわよぉ」
その図々しさは、まさにオバサンの専売特許。とても太刀打ちできる相手じゃない。
そこで、考えた次のターゲットが飲み屋帰りのオヤジ連中だ。
俺の住んでいる街は郊外なので、車で飲みに行く連中も多いが、飲んだ後はたいていタクシーの代車(タクシー会社から運転手を2人呼び、片方に自分の車を運転させて帰ること。田舎では不可欠なサービス)で帰るのが一的。飲んだら乗るな、が常識だ。
しかし、中にはいるのだ。しこたま酒を飲んだにもかかわらず、ハンドルを握ろうとするバカが。自分の運転テクヘの過信か、あるいは代車料金がもったいないのか。いずれにせよ、夜の飲み屋街には交通事故の未遂犯がウヨウヨしている。そんなヤッラにホントに事故ってもらおうというのが俺の魂胆だ。
決行はやはり夜、それも2次会が終わるあたりの夜10時前後がベストだろう。それより後は犬の散歩にしては時間が遅過ぎる。4月中旬の某日、夜9時30分。ドリーを仕込
み、飲み屋街の駐車場でターゲットを物色していると、道の脇からスーツ姿の男がフラフラと駐車場の中の方へ歩いてきた。
見たところ、40才弱。歩行が怪しいところから見て、そこそこ飲んできたのは間違いない。駐車場から男の乗ったセドリックが出てきた。切り返して、スピード発進。よし今だ。オレは車のボディをステッキでひと殴りした。ガキッ!
「オイ、ドリーー.大丈夫か」
急停車したセドリックから男が慌てて飛び出してくる。すべてシナリオどおりだ。
「大丈夫ですかぁ」
「あなた今、ウチの犬ひきましたね。見えなかったんですか」
「え、飛び出してきたのはそっちでしょう!」
「なに言っているんですか。ライト点けてなかったですよね」
「点けないで夜走るバカがいるか!アナタのしつけが悪いんだ」相手は男、しかも酒が入っているだけに口論になるのは予想済み。だが、俺にはとっておきの脅し文句があった。
「わかりました。じゃあ警察行って話しましょうか」
「あ・・・・」

男が絶句して当然である。酒気帯びが警察にバレたら、立場あるサラリーマンとしては何かと面倒なはずだ。
アンタ、捨て身覚悟で突っ張るのか、それとも急場の金でカタをつけるか。分別ある大人なら答えは聞くまでもないだろ。
「今、手持ちがあまりないんだ。とりあえず、これを治療費に当ててくれんかね」
男が差し出した万札はたったの3枚だった。
「少なすぎるよオッサン!」
ノドまで出かかったことばをグッと飲み込む。この《仕事》はすべて即金勝負。欲を出し、話を翌日に持ち越せば、それだけリスクが増えるのだ。
「…すいません。こっちも言い過ぎました。でも、やっぱり酒気帯びはよくないと思いますよ」
俺は必死に《良い人》を装いながら、3万円を懐にしまい込んだ。

飲み屋帰りの酒気帯びサラリーマンを狙った作戦はおもしろいほどに当たった。どうしても相手の懐具合に頼らざるをえないので1回の儲け額は少ないが、成功率はほぼ100%・いくら酔っていても、警察の2文字にはさすがに目が覚めるらしい。
だが、こんな手口で小銭を稼ぐのもだんだんイヤになってきた。毎日、とにかく寝覚めが悪い。

真夜中、イヤな夢から覚めたら汗ビッショリ。そんな日が続くのだからたまらない。どうやら、足を洗うときが来たようだ。