本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

手足や体が震えやがては死に至る牟婁(むろ)病の多発する地域を歩いてみた

日本のとある地域で、手足や体が震え、やがては死に至る謎の病気が蔓延しているという。

その地域とは、和歌山県・古座川町。

熊野灘を望む紀伊半島のほぼ最南端に位置し、古来より林業の盛んな山間部の田舎町だ。同町は昭ともあれ、にわかには信じがたい話である。

医療技術が未発達だった大昔の和30年代に5つの山村が合併してできた自治体だが、問題の病気が多発しているのは古座川町全体ではなく、それら旧村の一部に限ってのことらしい。
話ならいざしらず、現代の日本で、そんな迷信じみた出来事が起きてるなんて。
噂が事実だとするなら、怪現象の原因はいったい何なのか。そして、村の住人はそのことをどう受け止めているだのろう。

12月某日、昼前。目的の集落を目指し、最寄り駅からレンタカーを走らせた。

太平洋に面した海岸線をしばらく進み、 途中、内陸部に向かってハンドルを切る。

と、 それまでの漁師町風情ただよう景色がたちどころに一変した。

すぐ目の前にせまる緑ぶかい広大な山地。

そこから流れ出る大きな川(二級河川・古 座川)の両岸には民家がポツポツと建ち並 び、それがはるか上流までずっと続いてい るように見える。

海岸と山渓の風景がここ まで祈接しているとはずいぶん珍しい地形だ

山中に向けて車はさらに進む。曲がりくねった山道を右に左にと行くうちに標高はあがり、道に併走する古座川の水もだんだんと色濃さを増していく。

やがて、森林に挟まれた山道のさきに集落が現れた。

奇病多発エリアとされる一帯にようやく入ったらしい。車を道路わきに停め、周囲を歩いてみる。パッと見は何の変哲もない山あいの村だ。 

のどかというにはあまりにも閑散としていて、ところどころ空喜蒙も目につく。

このあたりも他の田舎と同じく過疎化が進んでいるようだ。人影はほとんどない。

たまに車が通ったり、軒先で雑用をしている老人を見かけたりするのがせいぜいだ。あたりはシーンと静まりかえり、ときおり、雑木林から聞こえる葉ずれの音がかえって静寂を強調する。

ふいに納屋のような小屋から農家の出で立ちをした男性が出てきた。

歳は30代後半くらいか。何気なく彼の動きを目で追っているうちに、妙なことに気づいた。明らかに歩き方がおかしい。両ヒザの動きがやけにギクシャクしていて、まるでロ ボットの二足歩行を見るかのような不自然さというか。

一歩踏みだすたび、男性はカックン、カックンと体を揺らしながら進み、民家前に停めてあった軽自動車に乗り込むと、そのままどこかへ走り去っていった。

奇妙という他ない。足腰の弱った老人な らともかく、なぜまだ若い人があんな歩き方を?ふいに浮かぶ奇病の二文字。

困難は、例の奇病の症状のひとつだ。もしや今の人も・・

奇病多発エリアは案外と広範囲で

(と言 っても、大部分は人が住んでいない山林地帯だが)

その中に小さな集落がいくつか点在している形だ。

次の集落へ移動しようとふたたび車を走らせたところ、3分もしないうちに道の駅を見つけた。喫茶店も併設されているっぼいので、休憩もかねてコーヒー飲んでいくことに。

隣りのテーブルには、60代男性3人が談笑していた。会話を聞くともなく聞いてみたところ、近所の住民のようだ。

まもなく3人は席を立った。会計に向かう彼らの背中をぼんやり眺める。

・・一人の歩き方がさきほど見かけたロボットとよく似ていた。

カックン、カックンと体が揺れるところも同じで、よく見れば手もぷるぶると震えている。コーヒーを飲み終え、運転を再開してからもちょっと引っかかる光景に遭遇した。 通りかかったバス停や民家の前で、それ ぞれ電動車イスに乗った男性(ともに60代 前半か)を見かけたのだ。

人がたくさん住んでいる地域ならともかく、こんな寒村で電動車イスに日に二度も 遭遇するものだろうか。東京に住んでても 滅多にお目にかからないのに。

いや、それはさすがに考えすぎか。高齢化の進んだ田舎なら、持別おかしいことではないのかも。

「あんたが言うてるのは、 ムロ病のことと違うんか?」

ふたつ目の集落に到着した。 最初の集落と違い、郵便局などがあるせいか、比較的人の姿が目立つ。ちょっと誰かに話を聞いてみることにしよう。 ちょうど郵便局から男性が出て来た。

「すいません。このあたりで妙な病気が流行ってるって聞いたんですが、何かご存じ ありませんか」

「え、病気?どんな?」

「手足が震えるんです」

男性は自分の両手を確かめるように眺め、こちらに視線を戻した。

「知らんな。聞いたことないわ」

続いて、家の軒先を掃除していたおばさん。

「このあたりで手足が震える病気が多発しているようなんですけど、そういう話はご存じですか」

「え、そんな病気が流打ってんの?うつとこ(うち)はみんた健康ゃけどな」

その後も数人に声をかけたものの、返ってくる反応はみな同じだった。 どういうワケなのか。奇病が多発しているのなら、その話で持ちきりのハズなのに。 ところが、近くを通りかかった60代男性に同様のことを尋ねたところ、今までとは 違う反応が。

「あんたが言うてるのは、ムロ病のことと違うんか?」

「え、ナニ病ですか?」

「ムロ病や。多い病気やからそう呼びよるんや」

どことなく学のありそうなその男性は、 知ってるかぎりの情報を教えてくれた。 いわく、ムロ病とは体が徐々に硬直し、 手足が震え、最終的には死んでしまう、原因不明の病気らしい。

「正式な病名は忘れてもうたけど、その病気そのものは持別なものじゃないらしいわ。 患者は全国にどこにでもおるしな。でもグアム島のある地域だけは、なんでか世界的に見ても発生半がケタ違いに高いっちゆう話らしいで」

手足が震え、死に至る病気が多発。まさしく噂どおりだ。

「ムロ病ってもうなくなってるはずやねん」

「え、そうなんですか」

「うん、そやで。わしのじいさん世代には 病気になった人もたくさんおったらしいけ 
ど、今はまったく聞かへんで」

「古座川の水質が問題っていう 説はあります」

いったいどういうことだろう。とっくの昔にムロ病が根絶したのなら、なぜ今にな って噂が?もしかして病気が復活してたりするのか? とある民家の前を差しかかったとき、家 の前で冊の手入れをしている婆さんがいた。

「すいませーん。ちょっとお話よろしいで しょうか?」

「はいはい何でしょ?」

「ムロ病ってご存じです?」

婆さんは一瞬、小首をひねり、それから 「ああ」とうなずいた。

「知っとるよ。小さいころ、私のおじいさ んがムロ病になって亡くなったさけな。大 阪の病院までヘリコプターで運ばれてった の覚えてるわ。あのころはワラビは食ぺた らアカンとかいうてな」

「ワラビって、あの山菜の?」

「そうそう。ここらに生えとるワラビがムロ病の原因やって大人たちは信じてたんやろね」

「なんでなのでしょうね」

「さあ。今はワラビ食べよるけどな」

話をしているうちにだんだん記憶が蘇っ てきたのだろう。婆さんが早ロでつづける。 「そういえば当時、この辺の民宿に大阪の医者だかが何人も泊まり込んで、 いろいろ調査しとったらしいで」

「それで何かわかったんですか」

「はっきり覚えとらんけど、古座川の水がどうとかって、母親が言うとったような」 「いまはどうです?最近、誰かがムロ病になったなんて話、聞いてませんか?」

ぷっと婆さんが吹き出した。

「ないない。あんたムロ病て、どんだけ昔の話やと思うてんのよ」

付近に小さた病院があったので、ついでに医師にも話を聞いてみた。

「ムロ病なんてもうとっくになくなりまし たよ。ここに来る患者さんでALS(筋萎縮性側索硬化症。ムロ病の正式名称)なんて1人もいません」

そもそもALSは有痘準が人ロ10万人で11人程度の極めて珍しい病気、当病院にそういった患者は1人もいないときっぱり否定されてしまった。

「でもALSが、かつてここで多発したの は事実ですよね?原因は解明されたんですか」 「古座川の水質が問題だっていう説はあります。川水のミネラル成分が極端に少ないんですが、それを長い間飲用してると慢性的なミネラル欠乏症になって脳細胞に悪影響を及ぼすという理屈です」

なるほど。現在は水道水やミネラルウォーターも普及しているし、それによってALSが激減したというわけか。しかし医師は言う。

「私個人は水原因説に否定的でして。水源 の、こネラルが欠乏してるっていうなら屋久 島(鹿児島県)だって同様ですけど、ALSが大量発生したなんて話は聞いたことありませんし。私は水じゃなくダ二だと思うんですよね」

以前、紀伊半島の南端ではマダニから感 染するウィルス性の紅斑熱という病気が流行したそうで、そういったダニの持つウィルスがALSの多発にも何かしら関与しているのではとの見解らしい。 
話を聞考級えたその足で、古座川の川辺に降りてみた。川面はこれ以上ないほど澄みきり、底に転がる苔むした石ころを撫でるようにゆっくりと流れていく。 手ですくって飲んでみれば、かすかな甘みがロに広がった。抜群にうまい。

「パーキンソンはたしかに増えてるわ」

そろそろ日は西の空に傾きかけている。 うら寂しいあぜ道をトボトボ歩きながら思案した。 ムロ病が絶えて久しいというのはよくわ かった。でも、それならここへ来た当初に 見た光景は何だったのか。あのロボット歩行や手足の震えた人はいったい

そんなことを考えていた矢先、畑の方から老婆がひょいとあらわれた。

こちらの存在に気づくや、彼女は「こんにちは」とフレンドリーに挨拶してくる。

話を聞いてみようか。

「このあたりで手足の震える人が多いって聞いたんですけど」

「あれやな。パーキンソン病の人が増えてるな」 
ん、パーキンソン病が?そいつは初耳 だ。

「去年は、あそこの家に住んでたおじいさんがパーキンソンで亡くなったし、もっと向こうの方でもパーキンソンになった人がおるって聞いたな。あ、思いだした。そういえばこの家のおじいちゃんもパーキンソンやったわ」

老婆が目と鼻の先にある民家指さした。 そしてひと言、噛みしめるように言う。

「うんうん、パーキンソンはたしかに増えてるわ」

パーキンソン病はモハメド・アリがかかったことでも知られる原因不明の病気で、 主な症状は次のとおりだ。 
・筋強剛(筋肉が緊張し関節の動きがぎこ ちなくなる) ・振戦(手足の震え) ・歩行障害 
日中に見かけた人たちの不墨譲な歩き方 が目に浮かぶ。 日本ではパーキンソン病患者の有病率は およそ1000人に1人。

対し、この村は 人ロ100人にも満たないのに、老婆の知ってるだけでも3人がかかっている。

ちょっと異常とはいえないか?

老婆に教えられた、パーキンソン病のおじいさんのいる家を訪ねてみた。応対して 
くれたのはその娘さんだ。

「突然お邪魔してすいません。ご近所でこちらのお父さんがパーキンソン病にかかったと伺ったんですが、ちょっとお話を聞かせてもらえませんか?」 
娘さんは快く応じてくれた。

「いいですよ。ただお父ちゃんは不在ですけど。昨日からデイケァ施設で宿泊してて」 「お父さんはずっと昔からこの地域に?」

「はい、そうですけど」

「最近、このあたりでパーキンソン病の患者が増えてたりするんです

「いや、私にはよくわからないですけど」

かつてこの辺りではムロ病が多発してい た。ところが現在はパーキンソン病が目立つ

冒頭の噂は、両者がごっちゃになって広まってしまったものなのだろう。

パーキンソン病は死に至る病ではない。そして以下は、あくまでイチ素人の勝手な推測である。 ムロ病とパーキンソン病。本来は有病率が低いはずの、そして共に原因が解明されていない病気が、この土地に限って多いのは、おそらくや同じ理雨に因るのではない か。

それがワラピなのか、水なのか、はたまたウィルスなのか。そこまでは調べようもないのだが