本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ここで殺されるか崖から飛ぶか選べという拉致話

一発屋から出て、漠然と歩き出した。気分はモンモンとしている。このやり場のない気持ち、誰かに聞いてもらいたいんだけど…。
新地を出て、信太山駅のほうまでやってきたときだった。通りの先で、30半ばくらいの4人組のニーちゃんたちがワイワイしていた。
これから移動して飲もうといったような会話をしている。
ふいに思った気持ちが口をついて出た。
「すみません。よかったらご一緒させてもらえません?」
4人がこちらをまじまじ見ている。ラグビー稲垣啓太っぽい風貌のニーちゃんが口を開いた。
「何なんいきなり? キモイんやけど」
「急にすいません。自分、一人なんで、誰かと一緒に飲みたくて」
「意味わからんし。あれか、おごってもらおうとしとるんか? 自分、日雇いやろ」
 他の3人も「雰囲気そんな感じやな」「確かに」と続けた。
 …えらく口調が荒いな。ガラの悪い連中かも? 
 しかし、なぜかそのまま突っ走りたい衝動に駆られ、ポケットから財布を取り出した。
「勘弁してくださいよ。ほら、お金なら持ってますから」
「どうせ空やろ」
「いやいや、入ってますよ、旅の途中なんで」
こちらの旅の事情を語らせてもらう。先ほどの新地での一件も併せて。
 稲垣似のニーちゃんがニヤニヤ笑いだした。
 
「へー。そりゃあ残念やったなぁ、ニーやん」
 ニーやん? 親し気な呼び方をしてくれたぞ。打ち解けてきたんじゃね?
 
「とりあえずその財布しまってや。けっこう酔ってるみたいやし、落とすで」
「じゃあ、飲み連れてってくれます?」
「まぁわかったわ。オレら泉大津へ行くんやけどええか?」
 さっそくタクシーで一緒に移動することに。泉大津の駅そばの鉄板焼き屋へ入った。
 男5人でテーブルを囲む。
「改めてご一緒させていただき、ありがとうございます」
 オレが自分のグラスを差し出すと、稲垣似のニーさんが力強く乾杯してきた。
「はいどうも」
 聞けば、彼らは全員35才で同級生で、地元は泉大津の隣、岸和田だという。また、稲垣似のニーちゃんは、名前がタナカさん(仮名)、仕事は植木屋とのことだ。
 
「岸和田ですか。気性が荒い地域というイメージがあるんですけど。なるほど、ニーさんたちから受ける印象は納得ですわ」
「まぁ、オレとこっちのコイツとかは祭りやってるから、特にそういうとこはあるかも」
 コイツと呼ばれたニーちゃんが、『だんじり祭り』のことについて説明してくれた。祭りのメンバーは子供のころから何かと揉まれてきているため、そのへんが性格に影響しているそうな。
 
タナカさんがオレのグラスを指さす。
「でも、ニーやんもヒッチハイクとかしてるんやったらタフやろ。ほら、グイっといったらんかい」
「いや、ぼくはすでにけっこう飲んで来てるんで」
「まぁ行こか」
「ちょっと待って。これもやっぱり岸和田の気性ですか? 性癖はドSでしょ?」
「ドSについてはまぁ否定はせんよ。ほら、話をそらさんでグイっと行こか」
押してくるねぇ。こりゃあスゲー飲まされてしまいそうですな。
酒が進むにつれ、彼らの押しの強さはいよいよ派手になってくる。グラスを置かさないほどのペースで「行こか行こか」だ。
そのうちに、隣のテーブルの女の子たちにも、イケイケで声をかけ始めた。
「おねーさんら、この後、カラオケでも行かんか?」
「やめとくわ」
「いやいや、何値打ちこいとんねん」
「うっさいわ、ぼけ!」
これがこのへんの飲み方ですか。男はもちろん、女も熱いな。愉快じゃないか。
そんなわけで、たっぷり地元のノリを味わっているうちに深夜1時に。鉄板焼き屋の閉店時間となり、宴会が終了となった。店の外に出ると、タナカさんが声をかけてきた。
「ニーやん、大丈夫か、かなり酔ってそうやけど」
「まぁ、何とか」
「何ならうち泊まる?」
 えっ、いいの? 
「明日の朝、オレ、仕事早いから早よ起こすけどな」
気性は荒いけど優しいところもあるんだな。めっちゃうれしいんだけど。
他のニーちゃんたちと解散後、2人でタクシーに乗り込んだ。
タナカさんの自宅は、岸和田市の隣の貝塚市内のマンションだった。通されたリビングには、小型犬が2匹いた。
「犬、飼われてるんですね」
タナカさんが奥の部屋から布団を持ってやってくる。
「そうそう。こいつらがオレの癒しやわ」
「ちなみに、カノジョとかは?」
 苦笑いが返ってきた。
「ヨメは出て行ったわ」
 いけね。余計なことを聞いてしまったか。
「…すみません」
「いやいいよ。もう寝よか。おやすみ」
 タナカさんは片手を上げ、奥の部屋へ入っていく。オレは布団に横になり、すぐに眠りに落ちた。28
日、朝7時、二日酔いがひどかった。まだ酔っぱらっているような状態だ。
 台所のほうで、タナカさんが歯を磨いている。すでに作業着っぽい格好だ。
「酒、残ってるやろ。オレもひどいわ」
 水を持って来てくれた。
「完全に飲みすぎましたね」
「ははっ。でもオレ、今夜も飲みに行くんよ」
「そうなんすか?」
「行きつけの飲み屋が今日、年内最後の営業やからその挨拶がてらなんやけど。よかったらニーやんも行こうや」
 今はまったくテンションが上がらないお誘いだが、せっかくだし誘われてみますか。夜までには体調も回復してるだろうし。
 タナカさんは夕方には仕事が終わるとのこと。そのあたりの時間に合流する約束をし、一緒に自宅を出た。最寄り駅で別れた後は、ネットで調べた付近のビデオボックスへ。とりあえず昼間は寝ときましょう。
夕方4時、仕事が終わったタナカさんから連絡がきた。車でビデオボックスに迎えにきてもらった
ころには、二日酔いもほぼほぼ抜けていた。
行きつけの店は、貝塚駅そばの小さな居酒屋だった。
カウンター席に座り、タナカさんが自分のネームタグの付いた焼酎の一升瓶をテーブルにドンと置いた。
「じゃあ、行こか」
了解です。今日も酔っぱらっちゃいそうですな。
例のごとく「行こか行こか」で焼酎を煽っていく。
「ニーやん、映画の岸和田少年愚連隊に出てくるカオルちゃんって知ってる?」
タナカさんが思い出したように言った。カオルちゃんって、たしか、暴力大魔王みたいなヤンキーだったっけ。
「あのカオルちゃんって、モデルになった人がいるんやけど。その人も、昔、この店の常連やったんやわ」
「へー。そんな常連さんが。でもそういうタナカさんも、実はけっこうヤンチャだったりするんじゃないの?」
 深い考えはなく、緩いキャッチボールのようなノリで言ったつもりだったが…
「ヤンチャって言えばヤンチャになるやろうな。散々、悪さもしてきたし」
「そうなんですか?」
「そもそもオレ、人をいたぶるのが好きやし」
 どういう意味だろう。薄気味悪いんだけど。
「…そう言えば、性癖ドSと言ってましたっけ?」
「別にセックスに限ったことじゃなくて。相手は男女問わず、普通にいたぶるのが好きなんやわ」
「…また冗談を」
 そうあってほしかったのだが、タナカさんはうっすら笑みを浮かべながら語りだした。
「こういう話は、もちろん普段はあんまりせんのやけど。例えばね…」
 
20代前半のころ、暴走族の連中とツルんでいたそうな。ある日、その連中とバイクで走っていたら、一台の軽自動車が追い抜きざま、自分たちに向かってエアガンを撃ってきたという。頭に来て、軽自動車を追いかけ、助手席の男を拉致し、高さ10メートルほどの崖の上に連行。首にスタンガンを当てながら「このままここで殺されるか崖から飛ぶか選べ」
と迫り、いたぶったらしい。
「そのときは、そいつ、泣きじゃくりながら飛び降りたわ。確実に両足折れてるっしょ。こういう拉致話がいっぱいあるわ」
ヤバ過ぎだろ。聞いていて気持ち悪くなるって。
「…どう反応していいかわからないし。ちょっと話題を変えますか。エロい話しましょうか」
「じゃあ何やろ? ぶっさいくなニューハーフのケツにチンコ突っ込んで、突っ込んだまま小便してイジメてやったことあるとか、そういうの?」
 …この人、本物だ。本当にいたぶるのが好きなんだ…。
その後は、再び会話は普通の内容に戻り、楽しい時間を過ごしたのだが、やはり互いに昨夜の疲れが残っており、2時間ほど飲んだところでお開きにすることにした。
居酒屋を出て、貝塚駅前での別れ際、タナカさんがニコっと笑った。
「また遊びに来てよ」
「もちろんですよ」
「もし、万が一、岸和田で誰かに絡まれて殴られたりしたら連絡してや。助けに行って、そいつ詰めたるから」
優しくてちょっと怖いお言葉、ありがとうございました。