本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

医者いじめの田舎の上小阿仁村からどうして医者が逃げ出したのか?

数年前、医者いじめの村、医者を追い出す村として話題となった地域だ。
 
ご存じない方のためにコトの経緯をざっと説明しよう。
 
発端は、2007年、同村にある唯一の診療所に、初の公募でやってきた医師が、就任からわずか4カ月で辞意を表明したことだった。
 
その後も村側は、公募で医師を招くのだが、驚くべきことに、やって来た医師は皆ことごとく短期間で村を去ってしまう。
 
具体的には長くて約2年半、もっとも短い場合はたったの1カ月という具合で、中には辞任の際、村民や村役場を公然と批判したり、村民からの嫌がらせやイジメをほのめかす医師もいたそうな。
 
以上が、「医者いじめの村」のおおよその内容だ。当時の村長も村の広報誌に、ある
一人の医師の辞任について「原因は一部の村民のイジメ」と明言している。
 
裏モノ誌上において、これまで凶暴な町、ドヤ街、奇病の村など、数々の変わった土地を訪ね歩いてきたおれにとって、上小阿仁村はかねてから興味関心のマトだった。
 
いったい、ここはどれほど排他的なエリアなのだろうか。いざ現地に乗り込んで、実際の空気を感じ取ってきたい。
 
8月上旬、昼前。秋田市内からレンタカーを飛ばし、目的の村を目指した。
 
市街地を出て、山林や水田の広がるのどかな景色に囲まれながらクルマはひたすら北上していく。
 
およそ1時間半後、いくつものトンネルを抜けた先に民家ががぽつぽつと姿を現しはじめた。上小阿仁村に入ったらしい。
 
この村、地図で確認すると面積はかなり広いが、その大部分は山林などで占められており、人の住む地域はほんのわずかしかない。人口も2600人程度と少なく、人口減少が進む秋田県内でも屈指の過疎地域と言われているんだそうな。
 
運転席から眺める風景は田舎そのものだ。国道の両側には田園が続き、その背後には
緑の濃い樹木に覆われた山々が。そしてときどき出現する民家はどれも年季が入って
いて、廃墟になった商店や打ち捨てられた家屋もちょくちょく目につく。どこか懐か
しささえ感じる鄙びた雰囲気。そんな表現がぴったりである。
 
そうこうするうち、クルマは今晩宿泊する宿に着いた。まずまず立派な外観の和風
旅館だ。ひとまずチェックインして荷物を置き、それから探索に出かけるとしよう。
「ごめんくださーい」
 
誰もいない玄関で何度か声をはり上げたところ、ようやく中から80才近いバーサンがのそのそと顔を出した。
「はい?」
「あの、今晩の宿泊を予約した者なんですが」
「はあ。じゃあ、どうぞ2階へ」
 
バーサンに続いて階段を上り、小ぎれいな和室に通された。
「お〜、なかなかいい部屋ですね」
「風呂は下の階にあります。24時間いつでも入れますから」
 
そう言って、そそくさと立ち去ろうとするバーサンを慌てて呼び止める。
「あ、すいません。まだ部屋の鍵をもらってないんですけど」
 
やや間があって、彼女がゆっくり口を開いた。
「鍵、要るんですか?」
「…え?は、はい。貴重品もあることだし」
「いま取ってきます」
 
もらった鍵でしっかりと戸締りをしてから宿を出た。とりあえず、徒歩で近所をぶらついてみるか。
あてもなく、村のメインストリートである国道287号を北へ。途中、目についた脇道に出たり入ったりを繰り返していたところ、一軒の民家から70近いジーサンがひょっこりと出てきた。
 
こちらの存在に気づいた老人は、一瞬、ハッとした表情になった後、ジーッとこちらを見つめてくる。 
そのままジーサンをやり過ごすまでの間も、やり過ごしてからチラッと後ろを振り返ったときも、ジーサンはおれから目を離さない。
 
それから2キロほどダラダラ歩いた後、いったん宿の駐車場に戻って、クルマで村内を移動することにした。出歩いている村の人間が想像以上に少ないため、徒歩で探し回るには効率が悪すぎるのだ。クルマで人のいそうなところを片っ端からサーチした方がはるかに手っ取り早い。
 
ハンドルを握って5分、さっそく農道付近で何かの作業をしているジーサンを見つけた。クルマを降りて、道を尋ねる風を装って話しかけてみる。
「あの、すいませーん」

一瞬、こちらを見たジーサンは、またすぐに顔を戻し、作業を再開した。耳が遠いのか?
「あの、すいませーん! ちょっと道をお尋ねしたいんですが!」
今度はかなりの大声で叫んだ。しかし、ジーサンはまだ振り向かない。
 
ならばと至近距離まで近づき、相手の目を覗き込みながら「すいません」と言ったところ、ジーサンはぷいと顔をそむけ、どこかへ歩き去っていった。 
ふたたびクルマ移動をはじめてしばらく、面白そうな場所を見つけた。道の駅だ。ここなら村民もたくさんいるに違いない。
 
敷地内に入ってみると、案の定、売店外のベンチに、地元民らしき60代のオッサンが2人、たばこを吸いながら談笑していた。さて、なんと言って話しかけようか。例の医者いじめの件でも聞いてみるか。
「お話し中すいません。いま気づいたんですけど、ここって、ちょっと前に話題にな
った上小阿仁村だったんですね。医者が次次と辞めていったという」
 
通りすがりの旅行者の体で、軽い調子で切り出したところ、オッサンたちは無言で互いの顔を見合い、それからジロジロと視線を投げかけてきた。
「あんた、だえ(誰)?どごの人?」
「東京から来た旅行者です」
「この村さなんが用?」
「いえ、たまたま通りかかっただけなんですよ」
「へえ。で、どこまで行ぐの?」
「特にどこへ行こうというのはないんですけど」
「こごには泊まるべか?」
「まあ、そんな感じです」
 
矢継ぎ早に詮索された後、ようやく彼らの一人が医者いじめの話を語り始めた。
「なんが村の連中が悪者みたいに言われでたけど、おらに言わせりゃ医者も悪いべ」
「なんでですか?」
「うぢのバーチャンも言ってだけど、あの医者、ながなが薬を出したがらながったの。年寄りなんて、薬さえもらえだらそれで安心すんのに、ダメだって。かんたんに薬ば飲む方が体に毒だがらどかなんどか言って」
 
どうやら彼らの非難は、これまで村を出ていった医師全体にではなく、その中の一人に向けられたものらしい。隣にいた別のオッサンもうんうんとうなずきながら口を挟む。

「やっぱりこの村にはこの村のルールみたいなものがあんだっけ。それさ合わしてくれねえんだば反感を買ってもしょうがねがべ」
「じゃやっぱり、イジメの話は本当なんですか」

「さあ、どうだべ。ただ、あの先生を好きじゃねえって人は結構いだけんども」
 
もう少し村人と接触するべく道の駅の敷地内をウロウロしていたところ、トイレの出口付近でたばこを吸っているジーサンと目が合った。なぜか怪訝そうな表情を浮かべ、まっすぐこちらを凝視している。その視線の圧がすさまじくてちょっと気おくれしたが、思い切って話しかけてみた。

「すいません。この辺りにコンビニとかってありませんかね」

険しい表情そのままにジーサンが声を発する。
「おだくさん、だえ(誰)?」
「えっと、通りすがりの旅行者ですけど」
「ふうん、この村で何してら?」
「いや、だからただの通りすがりでして」
「どこがら来だっす?」
「東京です」
 
ここでようやく、うっすらと笑みがこぼれた。
「この間の都知事選、すごかったなぁ。コンビニは、そっちさある国道ば、ちょごっ
と行った先にローソンがあるよ」
 
礼を言ってその場を離れた後、ふと振り返ってみたら、はるか後方のオッサンはまだこちらをじっと見ていた。
村で唯一というコンビニに足を踏み入れた途端、少しホッとする自分がいた。見知らぬ寒村にあってもこの場所の光景だけは、住み慣れた東京で目にするものとまったく同じだ。違うところがあるとすれば、来ている客がすべて老人だという点か。過疎の現実を目の当たりにした気分だ。
 
弁当を買って、車内で遅い昼食を取ったあと、ふたたびドライブを再開させた。
1時間後。村の中をあちこちをさまよった挙句、たどり着いたのはちょっとした住宅街のような場所だ。 
といっても都会で見るような住宅街ではない。トタン張りの古い家がごちゃごちゃと密集していて、それがずっと遠くの方まで続いている、そういう場所だ。クルマを降りて少し歩いてみることに。 
どれだけ進んでもあたりは静寂そのものだ。

人影もなければ走ってるクルマも見かけない。世界中の時間が止まって、自分だけが動き回ってるような、そんな不思議な感覚に捕らわれる。
 
通りかかった民家の軒先で、女の子がシューズを洗っている場面に遭遇した。まだあどけない顔立ちからして、小学3、4年生といったところか。
 
口を半開きにしてこちらをじっと見ているので、「こんにちは」と笑顔であいさつす
る。彼女は、洗いかけのシューズを放り出し、家の中に消えていった。散策を終えてもと来た道を戻ったとき、おれのクルマに見知らぬオッチャンが張り付いていた。ん?
 
何してるんだ、あの人。
しばらくその場で様子をうかがってみる。
オッチャンは窓に手をかざして、何やら車内を覗き込んだり、ナンバーを確認したり
と忙しそうだ。
「すいません。クルマ、邪魔でした?いますぐどかしますんで」
「……」
 
軽く睨んだ後、何も言わずオッチャンは立ち去ろうとする。思わず呼び止めた。
「あの、この村って上小阿仁村ですよね?一時期、医者イジメで話題になった」
 
足を止めたオッチャンが、不機嫌そうな顔を向ける。
「なんでほんたらこと聞ぐの?あんた、だえ(誰)?」
「ただの旅行者ですけど」
「どっからござっしゃた?」
「東京です」
 
オッチャンがポケットから取り出したタバコに火をつける。
「医者イジメっで言うけんど、医者の方にも問題はあるなや」
「そうなんですか」
「んだ。村から給料2千万ももらってるぐせに、ヤブ医者ばっかなんだから」
「なんでヤブ医者だと?」
「ちょこっとした病気でもすぐに紹介状なんが書いで、村外のでかい病院さ任せようとするんだから。そいは3流の医者のすることだべ。なあ?」
 
タバコの煙をふーっと吐き出し、オッチャンはスタスタとどこかへ行ってしまった。
 
午後6時すぎ。西の山に日が沈みかけるころには、いよいよ村人を見かける機会がなくなってしまった。大通りを走る車もほとんどなく、夕暮れの赤い光に照らされた水田には、数匹のトンボがふらふら飛んでいる。
 
いかにもな夏の風情に見とれていると、前方から農作業着姿のジーサンが歩いてきた。田んぼ仕事の帰りだろうか。
「すいません。この辺りに飲み屋さんとかないですかね」
 
夜、村人が集まって酒を飲む店でもあれ、いろいろ話も聞けそうだと尋ねたのだが、ジーサンは一瞥くれただけで立ち止まりもせず、そのままゆっくりと歩き去ってしまった。
 
仕方なくスマホで検索してみたところ、あいにくこの村に居酒屋やスナックの類はないっぽい。まあ、いい。今日はとりあえずはやめに布団に入って、明日の朝また動くとしよう。
クタクタになって戻った宿は、シーンと静まり返っていた。受付カウンターは無人で、灰皿の置かれた休憩スペースや廊下にも人影はない。どうやら宿泊客もおれの他にはいないようだ。
 
ゆっくりと風呂に浸かった後で、コンビニで買った缶ビールを飲みながらテレビを眺める。しかしチャネル数が3つしかない民放番組はどれも退屈で、寝そべりながら見ているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
 
翌朝は、村の中心部を離れ山間部の方へ。
樹木に挟まれた細い道をうねうねと進んでいった先に、こじんまりとした集落が見え
てきた。適当な場所にクルマを停め、徒歩に切り替える。
 
高齢者の多い地域ということもあり、さすがに午前中は人々の活動が活発なようだ。民家の軒先や往来でたびたびジーサンバーサンの姿を見かける。
しかし、そのたびにジロジロ視線を投げかけられるのは、たまったものじゃない。なかにはおれが視界から消えるまでひたすら視線を送ってくる人間もいて、軽い緊張を強いられるからだ。
 
ゆるい坂道をのぼっている途中、民家の車庫の前で地べたに座る3、4人のジーサンバーサンを見かけた。何かの作業中に休憩を取っている様子で、おれに気づいた彼らは、例によって目を見開き、ジロジロと視線を送ってくる。
「こんにちは」
軽く会釈したものの、相手の反応はない。もうこんなのは慣れっこだ。
 
ひととおり集落を一周したタイミングで、またストレートな視線を感じた。ペットボトルのお茶を飲みながら、作業着姿の男がこちらをじっと見つめている。歳のころは40後半くらいか。
 
やだなぁと思いながら前を横切ろうとしたとき、その男から声がかかった。
「あんだ東京の人?」
「え?は、はい」
「村の人間がら診療所の話どか聞いでだが?」
 
首の後ろのあたりがゾゾゾと冷たくなった。なんでそんなこと知ってんだ? 
「あ、あのどうしてそれを…?」
「道の駅、道の駅」
「え?」
 
昨日、道の駅でおれが2人のオッサンと話しているそばにたまたま彼がいて、立ち聞きしていたらしい。  これも何かの縁だ。医者イジメの話を彼自身にも聞いてみよう。
「うーん、おえ(俺)はもどもどあん診療所は使ってなぐて、村外の病院さ行っでるがら、正直、よぐわがんねえんだ。ただ噂みだいなのは聞いだこどあるけど」
「どんな噂ですか?」
 
尋ねると、彼は上を見上げてアゴをポリポリとかいた。
「くだらない話だべ。医者の家にイタズラ電話がかがってきたどが」

「他には?」
「あどは医者の家のシャッダーだがドアだかが壊されだとか、おえが知ってるのはそれぐらいだ」
「ご自身はこの村についてどう思います。排他的だと思いますか?」
「多少は思うべ。特に年寄りなんがは。狭い村だからなおさら、よそ者どそうでねえ者さ区別したがるんでねえの?でも、それっで、こごに限った話でもねえと思うけどよ」
         
★最後に、いま現在、村の診療所に勤務している医師のことにも触れておこう。
 
聞くところによると、この医師は東京からやってきた人物で、村医に就任してから今年8月ですでに丸3年が経っているという。 
どんな様子で働いているのか知りたくなり、腹痛を装って実際に診察を受けてきたのだが、見たところ元気にやってらっしゃるようだった。