本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

偽装結婚させ薬や酒漬けにした保険金殺人事件ターゲットにされた本人の恐怖

署の裏口は100名を超す報道陣に囲まれていた。 
パシャッ まばゆい光のなか、中年男が拘束された両腕をあげる。

「社長ー次の会見は?」

「すぐやるよ」

男の名は八木。埼玉県で起きた保険金殺人事件の犯人だ。

自分の愛人と偽装結婚させた3人の男に総額20億もの生命保険をかけ、薬や酒漬けにした上、 うち2人を殺害。

世間に広く知られた男である。ブラウン管を通し、ヤツの自信に満ちた顔を見てオレは思った。 もしかして八木は無実なのではなかろうか。いや…そんなワケがない。 八木は10年、いや50年にー人という悪の天才

なんせ、長年付き合った オレにまで保険金をかけていた人間ではないか。ここでもし、逮捕されなければ、次に殺されていたのは間違いなくオレだったのだ。 


八木と初めて会ったのは今から12年前、オレが23才のときだ。当時、 
家業の建材屋を手伝っていたオレは、酒とギャンブルに金を注ぎ込む自堕落な毎日を送っていた。

生まれ育った埼玉県本庄市は中山道最大の宿 場町として知られ、現在もスナックや飲み屋が数多く点在している。

男 たちの娯楽はオートレースかフィリピーナ。オレはその両方にハマった。 そんなある日、たまたま訪れたフィリピンパブ。そこのマスターが八木だった。

オールバックに色白、鼻筋の通った端正な顔立ち、ホストのようなスーツに身を包み、巧みな話術を操る男に、オレの心はすぐに奪われる。

「黒田ちゃん、ゴメン。今日はいい女いなかったろ。別の店で飲み直そ うか。それともメシでも食いに行こうか」 


八木は親分肌で面倒見がよか った。

こちらがなつけば、倍にして可愛がってくれる。ヤツもオレのこ とを気に入ったのだろう。とにかくオレたちが短い問に、客とマスター という関係以上に親しくなったことだけは確かだ。

前から欲しかったセダン『クラウン』の口ーン審査に落ちたのは、 常連になって半年ほどたったころか。口クな収入も無ければ 当然なのだが、分不相応にグチだけは言いたくなる。

「マスター、やっぱダメだったよ」

「そうか。なら、知り合いの車屋に口きいてやるよ」

こうしてオレは250万の口ーンを八木に組んでもらい、月10万ずつ 返済するようになる。が、計算通りにいかないのが世の常。

「マスター、今月の分ね」

「はいよ。ん、どうした?最近、元気ないなあ」 

「ちょっと支払いがきつくなってきちゃってさ」 
「ふーん。キッチリ返済できるんなら、オレがどうにかしてやろうか」 


八木は言った。実は、裏で闇金融をやっている

困ったときは遠慮 なく言え。力になる

渡りに舟だった。すでに酒と女で借金まみれ。

ヤクザ者の高利貸し、いわゆる忙しい金もつまみ負債は200万にまで膨れ上がっていた

さっそく事情を打ち明けると、車のローンと合 わせて月20万の返済で肩代わりしてくれると。なんと頼りになる男

こ の人には絶対足を向けて寝られない。知らず知らずのうちに、オレは八木に心を掌握されていった

ある夏の日。事務所(金融の方)に行くと、ヤツが上半身裸で電話している場面に出くわした。

「てめえ、借りたもん返すのは当然だろーそれとも死んで返すか ああんっー」

背中に玉をくわえた龍と女が躍っている。追い込みをかけるその後姿はまんまヤクザだ。

「おっ、黒田ちゃん、いたのか」

「や、八木さん。言いにくいんだけどさ・・」

「どうした あらたまって」

「こ、今月どうしても15しか用意できなくて…」

「ナニ?」

「す、すいませんー」

「しょうがねーなー。じゃ来月、25万だぞー」

「は、はい・・」

今まで見たこともない八木の姿がそこにあった。 


利根川で水死体を探してくれないか? 
6月。飲んでいると、八木と愛人の、通称アンナ(37才)が隣にやってきた。 ちなみに八木は当時、他に森田(40 才)と、武(35才)という2 人の愛人を持ち、森田にはママを、武には小料理屋を買い与え女将をやらせていた。

「なあ、黒田。ちょっと頼みがあるんだけど…」

「なんすか」

「実は、借金のある人間が利根川に飛び込んじゃってさ」

「へー、そりゃまた・・」

「でさ、その水死体を探してきてくれないか?」

「は?」

何を言ってるのかさっばりわからない。マスター、ギャグにしちゃ、センス悪いよ。 「家族がさー、保険がおりないと借金返せないって言うんだよ」

「ソウダョ、 本気ダョ」

横からアンナが口を挟む。

「お礼もちゃんと払うからさ。考えておいてくれよ」

「はいはい、わかりました」

その場は適当に聞き流したオレに、友人の浜田(仮名)が 興奮した口調で電話をかけてきたのはその数日後のことだ。

「おいー八木がおかしなことを言ってるぞ」

どうやらヤツも同じ話を聞かされたらしい。 

「警察よりも早く発見したらー千万の賞金だとよ」

どこまで本気でどこまで冗談なのかわからない。なぜ早くとせかすかも不明。が、ー千万とは大きく出たもんだ。いいだろう。かつがれるのは承知で、八木のゲー ムに乗ってやろうじゃないか。

「2人で探そう山分けしても借金がチャラになるぜ」

「ムリムリ、場所も、いつ飛び降りたかもわからないんだ ろ?死体ってガスがたまらないと浮かび上がってこないらしいぞ。そ れに何かヤバそうじゃない」

「じゃあ、オレだけでやるよ。あとで悔しがんなよ」

翌日、ー人で板東大橋へ足を運んだ。

辺りでは、自殺のメッカとして 知られる橋で水死体が流れつくことでも有名だ。探すならここしかない。 河川敷に下りて、小ー時間ほど探索するが成果はゼ口

その後も5時 間ほど利根川沿いをドライブしながら注意深く川面を見つめてみたもの の、死体らしき影はない。バ力らしい。やっぱ浜田の言うとおりじゃな いか・・。

肩を落として自宅に戻り、以後4年間、オレはこんな一件が あったことすら忘れてしまう。 しかし、もう少し粘り、もう少し下流を探していたら、ー千万はオレ のものになっていたかもしれないー。 以下は八木の疑惑が発覚した後、報道で知ったことだ。 オレが板東大橋に行った数日後の6月14日。20 キ口下流の武蔵大橋で ゴミをためておくためのネットに半腐乱の水死体が引っかかった。遺体 は元工員の佐藤さん

彼こそが、八木が企てた保険金連 続殺人の最初の犠牲者である。

八木に借金のあった佐藤さんはアンナと偽装結婚、約3億円の生命保険に加入させられる。そして連日のように八木に無理矢理、 酒を飲まされ、体はボロボ口。遺体発見時の内臓は末期ガンのような有様だったという

犯行があったのは6月3日。八木の指示で武が佐藤さんをトリカブト入りの饅頭で殺害、八木とアンナの3人で板東大橋の近くから流したらしい。

つまり、八木がオレや浜田に死体探しを依頼し たのは、警察に見つかって余計な詮索をされる前に、一刻も早く保険金 を手にしたい焦りによるものだったのだ。 
 
その年の秋。八木は奥座敷で金融会社を設立する。 一見、闇金融かり力タギの金貸 しになったようにも思えたが、実 はまったく逆。手口はさらに悪質 化していた。

「黒田ちゃん、ウチもまっとうな 商売だからさ。もうこれ以上は貸 せないなあ」 「そ、そんな…」

「ま、オレだって鬼じゃない。知 り合いの金融屋に頼んであげるか ら、そっちかり借りてうちを一度 完済しなよ」

「そりゃいいけどさ」 
しばらくして、怪しげな男が現れ「プリンス商事」と書かれた名刺をオレに差し出した。

「八木社長の紹介じゃ断れないよ。25%を先引きさせても らうけど、それでもいいね」 「ええっー」

10万円を借りて、ー週間で12万5千…。いくらなんでも法外だ

「黒田ちゃん、貸してくれるだけありがたいと思わなきゃ。な、悪いようにはしないから、とりあえず一回キレイな体になろうよ」

何のことはない、「プリンス商事」は八木のダミー会社だった。

借金で苦しむ者を更に高い利率で追い込む典型的な迂回融資。

そんな事と は露知らず、オレは何の疑いもなく借用書に判を押していた。 こんなこともあった。

携帯に連絡して5万ほど貸してくれと頼むと、

「今、一杯やってるからそこで渡すよ」 

出向けば確かに5万が用意してある。

が、そこですんなり帰してはくれない。

「せっかくだから飲んでいこう。たまには付き合えよ」

なんて言われて、飲めゃ食えゃで3万円也。手元には当然2万しか残らない。自分がいい力モであることは感づいていた。それでも、オレが 頼れるのは八木しかいない。そのことは八木もよく承知しており、実に うまくアメとムチを使い分けていた。

時期は忘れたが、オレが懲りずにヤクザ者から200万ほど借金をこさえたときの八木の行動は今も忘れられない。

「あんな連中から借りてたら工ライことになるぞ。とりあえず、これで 返してこい。いいな」

ポンと渡された金が40万。感謝感激。両手を合わせてすぐに返済に向か…わなかった。 「金か入ったから、ちょっと遊びにいかねーか」

浜田を誘いピンサロヘゴー。延長に次ぐ延長で3時間ぺ口ぺ口ぺロぺ ロ。今考えても、我が人生であれほどフェラチオされた日はもう2度とないだろう。

とどめに高級ソープで遊びまくれば、金はきれいさっぱり無くなった。

どうしようもない愚か者である。八木にはとても本当のことは言えない。

しかし、なんせ狭い土地である。ヤクザ者から未返済を聞いた八木からすぐに怒りの電話が入った。

「オマエはバカかー全部使ったんだろー」

「す、すいませんー」

「黒田ちゃんに貸したもんだから自由だけど・・いくら何でもー日で使うかよー」

普通ならこんなバカはタコ部屋でも送り込まれるところだろう。

が、 驚くなかれ、呆れながらも八木は、再び200万という大金をオレに貸し出してくれたのだ。もう一生、この人に頭が上がらない。この人のた めなら何でもやる。オレは八木に命を預けたも同然だった。

「そろそろ自分でダンプでも転がして、オレも一本立ちしようと思うん だけど」

春。少しはマトモに働いてみるかと、オレはダンプ屋家業を想い 立つ。自分の車を転がせば、かなり儲かる商売だ。八木も若い頃にダン プ屋をやっており、賛成だという。しかし、先立つものは金。頼る相手 は八木しかいなかった。

「それで、車を買う口ーンを組みたいんだけど…」

「なあ…どうせだったらウチの従 業員になんねーか。その方が借金も早く返せるよ」

給料は60万。そこから月10万ずつ返済に引いていくという。破格の条件である。断る理由はどこにもなかった。 こうしてオレは八木の長男が経営する人材派遣会社「ラッキーハウス」 (仮名)に入社、出向するダンプ運転手となる。

そしてすぐに、聞かされるのだ。

「黒田ちゃん、生命保険に入ってもらえないかな?」

「えっ?」

「大きな車を運転するから、もしものときのためだよ。受取人をオフク 口さんにしとけば何かと安心だろ。親孝行だと思ってさ」

一理ある。この仕事、常に危険がつきもの。

月々の保険料の支払いも給料かり引き落としなら面倒もないだろう。オレは何の疑間もなく、総額5千万の保険に加入することを承諾した。

数日後、八木の親しいN生命の外交員と一緒に病院へ健康診断に向か った。結果は健康そのもの。その足で事務所に戻り、八木に言われるま ま、鉛筆で丸を囲む。

「ほら、こことここにサインするんだよ」

「う、うん」

「はい、結構ですよ」

書類をチェックする外交員。と、ここで初めて気がついた。受取人の 欄が空白になっている。確か、そこにはオレの母親の名前が入っている はずでは…。

「あの、これ…」

「あっ、そこはこちらで書いておきますんで」

特に疑間に思わなかった。根手はプロ。すべてお任せすればいい。そう考えた。 

後の報道によれば、この時期、八木グループ2人目の犠牲者となっ てしまうパチンコ店従業員の関さん(当時61才)も森田と偽装結婚させ られ、ー億円の保険に加入していた。オレと同様、世話にな っていた木下さん(当時38才・仮名)も然り。合計17口、総額10億円の保険をかけられ、全ての受取人は偽装結婚の相手、アンナだった。今考え ると、八木は木下さんを徐々に死の追い込みにかけていたふしがある。

98年暮れ。「国友」の忘年会をやったときのことだ。 「よしっ、それじゃゲームでもやっかー」

宴もたけなわで、八木がふいにサワーグラスに並々とブランデーを注ぎ始めた。

「これ全部飲めたら正月のこづかいをやるぞ。おい、オマエからやって みろ」

「ええー、オレっすか」

「忘年会なんだから文句言わずやれ?5万やるぞ」

女将の武がカラオケを歌ってる間に酒を飲み干して、その後3分間吐くのを我慢できたら勝ち。指名された木下さんに選択の余地はなかった。

「よーい、スタートー」

ゴクッゴクッ 

苦悶の表情を浮かべながら ヘネシーを流し込む木下さん

ー分、2分経過、一同は真っ 青な顔をした彼と時計を見比べている。

「3分ーやったな、オイ」

「オェッーウェッー」

八木が肩を叩こうとした瞬 間、店の外へ猛ダッシュして いく木下さん。その姿を見て、 八木は実に楽しそうな笑みを 浮かべていた。

「次は誰だ」

「オレやりますー」

「よしやれー」

金につられてトライするが 見事撃沈。木下さんはよく飲 めたものだ。と、外に様子を うかかいに行けば、果たして 彼は前の道路でぶっつぶれていた。

木下さんが夜中に突然「薬を飲まされたー 殺されるー」と病院に飛 び込んで警察に保護されたのは、それから半年後のことだ。 

ー新聞見たかーこれって八木のことじゃね 
浜田が驚いた声で電話をかけてきた。

朝刊に腰が抜けるような記事が載っていたのだ。 

5月22日、埼玉県のアパートでパチンコ店従業員の5さん(61) が変死体で発見された。翌日、塗装業Kさん(38)は「殺される」と本庄 署に保護

2人は共に金融業者Y氏(49 )から多額の借金をしており、Y 氏の親しい女性M (38)とフィリピン人女性A (34)と偽装結婚させられて いた疑いがある。Aが3年前に結婚していた、パチンコ店従業員Rさん (42)は利根川で自殺。遺書が残されていたが、不審な点も多か った。

「3人の男性が総額20億という」生命保険に加入してい たことに重大な関心をよせており、5さんの死因を特定するともに、近 くY氏及び関係者に事情を聞く見込み一

Y氏が八木、K氏が木下であることは明らか。思わず大きな深呼吸が 一つ出た。

翌日から周辺は報道陣でごった返すようになった。それに対し、取材に応じる場所を定め、ひとり 3千円(後に6千円)を取る八木。前代未聞の有料記者会見が始まった。

正直、対岸の火事だった。オレが知るのは木下さんと利根川の一件のみ。残りの2人は面識すらないし疑惑など何がなんだかさっぱり。

ショックがないといえばウソになるが、オレにとって八木は、10年前に知り合った面倒見のいい兄貴。それは今も同じだ。だから、ーカ月 ほどたって、本庄署から事情聴取に呼び出されたときも自分とは無関係と思っていた。あれを見るまでは。

「これ、キミのだよね」

「ええ…」

取調室の机に刑事が紙切れを2枚置いた。ー枚にN生命保険契約書とあり、オレの名が記されている。何気なく、受取人の欄を見てビ ックリ。なんと、そこに母の名はなく「国友商事」の社印か押されてい たのだ。

「八木の仕業だよ。アンタ、狙われなくてラッキーだったな」

「、-・・・、・・・・・・……」

刑事の言葉が耳に入らない。ウソだろ?まさか八木がオレを…。

疑心が日増しに強まっていったある日、八木から久しぶりに連絡があ った。

「いい小遣い稼ぎしない?ちょっとインタビュー受けたら4、5万もらえるぞ」

「ああいいよ」

小遣い目当てもあったが、何より八木に会いたい。聞きたいことが山 ほどあるのだ。 「社長、ごぶさた」

「おお、待ってたよ」

八木は少し痩せたようだったが、エネルギッシュな口ぶりは以前と何も変らない。

「黒田ちゃん、絶対に緊張するから飲んどいた方がいいって」 マスコミの前でしゃべるなど初体験

オレは八木にすすめられるまま、 焼酎をストレートで一気飲みしていた。

午後6時。前回の会見で「次はゲストを呼ぶ」と八木が語していた こともあり、80人以上の報道陣か待ち構えていた。 バシャッバシャッ ホロ酔い加減で登場したオレに容赦なくフラッシュがたかれる。 ゲッー机がマイクだらけだ。いったいどこを見て、どのマイクに話 しゃいいんだ

「まず八木さんとの関係ですが・・保険についてですが・・」

極度の緊張と酒で頭がボンヤリしてきたオレに質間が浴びせられる。

うっとおしいーそんなこと聞かれても急に思い出せねーよー

「聞いた話なんですが、利根川に死体を探しに行ってくれと頼まれたそうですが、本当ですか?」 
それなら知ってるぞ。なかなかいいこと聞くね、アンタ。 
「ええ、社長に頼まれて」 言った途端、周囲がどよめいた

「それはいつ」

「どの辺に行きました」

おっ、いい反応。待て待て質間は順番だぞ。

「ええと…あれは確か4年前の6月で…」

緊張しつつも、どうにか会見を終え席に戻ると、八木 に店の裏手へ呼び出された。 「黒田ちゃんーオレは死体を探して来いなんて言ってねえだろ」

「えっ?」

「ホラッ、オマエは酔ってるんだって。な、そうだろ」

にこやかだが目は笑っていない。どうやらオレは言ってはいけないことを口走ったらしい。

「す、すいません・・」

「次はオレがフォ口ーしてやっかりさ」

オレは打ち合わせ通り、前言を撤回した。

「すんません、さっきは適当なこと言って。昔のことなんで、誰に頼まれたかは思い出せません・・」

「さっきと違うぞー・」

「こいつ酔ってんだ。力ンベンしてやってくれよ」

いつもの冷静沈着な態度に戻った八木がオレの肩を叩く

それが、オレが八木を見た最後だった。