本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

電車の線路に落とす殺し屋ジャピーノ

ここ数年、JR東日本だけで年間400件以上の転落事故が起きている

その大半は飲酒が原因で、足を滑らせ線路に落ちたらしい。他人事ではある

泥酔のあげくの事故なら自業自得とも言えるだろうが、しかし。通勤途中、白線の内側で電車を待つとき、後ろから背中を強く押す者がいたらどうだろう。しかもそれか異常者の狂った行動ではなく、すべて仕組まれたものだったら……。

このリボートの主人公であるリコ・パミントアは、落とし屋を生業としてきた男だ。3年前の来日以降、彼が線路の上に突き落とした人間は数え切れない噂を聞いたときはむろん信じられなかった。が、殺害方法、背景、報酬、依頼の流れ・・。

漏れ伝わってくるその内容がどれも具体的でリアリティに満ちているのだ。今年5月、あるルートを通じて彼と連絡か取れた。まもなく故郷に帰るため、これまでの体験を洗いざらい語って構わないという。取材場所に現れた実にマジメそうな青年の口から告白が始まった。

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父親は買春ツアーに来た、顔も知らない日本人男
みなさんは、ボクのような存在に、とんな感想を持つだろう?殺人鬼、鬼畜、サイコパス…。そんなことばを頭に浮かべ、眉をひそめるのかもしれない。気持ちはわかる。フィリピン時代の自分なら同じ反応を示したはずだ。かつてはボクも、肉親の死に涙を流し、凶悪な殺人事件には恐怖と憤りを感じる、人並みの神経を持っていた。

それがなぜ、何人もの人間を殺すことになったのか。そのことを説明するには、ボクの生い立ちから話さねばならないだろう。今から22年前。ボクは、日本人の父と、フィリピン人の母の間に生まれた。父の顔は知らないが、買春ッァーの参加者だったとは聞いている。幼くして父親に棄てられた日比混血児。

フィリピンには、そんな人問が約2万人いるのだが、彼らは「ジャピーノ」との蔑称で呼ばれ、最下層の生活を余儀なくされている。そんな世間の冷遇の中で、母は毎晩日本人客を取り続けた。女手一つで幼い息子を養う方法など他にない。妹が生まれたのは、ボクが13才を迎えたころだ。またもや父親は、見知らぬ日本人だ。敬慶なカソリック教徒である母に、中絶とい1っ発想はなかった。その母は2年後、過労がたたりマニラの路Lで死んだ。あのときの寂しさと心細さを、どう表現すればいいのだろう。唯一の肉親は幼い妹だけ。なにがなんでも、こいつを養わねば。心に強く誓った。
しかし、現実は厳しい。15才の若造を雇ってくれる先はなく、収入源はゴミ漁りだけ。トンドという町の有名なゴミの山をはい回り、悪臭と腐敗ガスに咳き込みながら、売れそうな鉄くずを探す日々が続いた。
ブロー力ーに頼めば密航船に乗れる
『妹を巻き添えに野垂れ死ぬのか?生き延びたいなら、日本へ行くしかないぞ』

18才になり、ボクは自分に問い掛け始めた。なにせ日本円で5万もあれば、この国では半年は食べていける。そのころ、底辺で暮らす人間たちは、みな日本を夢見ていた。極貧のジャピーノが国を出る方法はたった1つ。密入国しかない。

フィリピンの安い労働力を求め、日本のヤクザが人身ブローカーと密航船の手引きをしているのは、公然の事実だった。問題は、彼らが与えてくる仕事だ。オカマパブでの強制労働に、売春宿の用心棒。キナ臭い噂もいろいろと聞いていた。

『でも、今より状況が悪くなるなんて、ありえないよな……』

そうと決まれば、話は早い。当時のマニラは、歓楽街をちょっと歩けば、その筋の人間がいくらでも見つかった。裏路地で聞き込みを繰り返した結果、阪井という男が浮かび上がった。なんでも、彼の仕事は常に10万単位で動くらしい。

「サカイなら、いつも突き当たりのカジノバーにいるよ」

教えられるまま訪ねると、そこにアヤシイ日本人が1人。アイッに間違いない。

「なるほど、日本で仕事がしたいってか。おやすい御用だ」

外見に反して、彼は異常に親切だった。渡航手続きはおろか、パスポートやビザまで作ってくれるという。

「その前に確認させてくれ。オマエ、ジャピーノか?」「え、ええ---」

「今の仕事は?」「……ゴミ漁りです」「肉親は?」「え?6才の妹がー人…」

「どんな仕事でもやるな?」「も、もちろんー」

いま思えば、何でもやりそうな人材を探していただけなんだろう。が、ボクはすっかり舞い上がっていた。

「6日後、マレーシアの何物船が港につく。オマエはそいつに乗り込め。船名が塗りつぶしてあるから、すぐにわかるはずだ。船員に話はつけておく」あ

まりの展開の速さに戸惑いつつも、慌てて妹を友人に預ける。

「スマン。日本で稼いだ金の一部を、謝礼として送るよー」

19の夏、こうしてボクは、にした。
そうだよ、殺せっていってんだよー
波に揺られること1カ月。船は神戸港へ入った。

「ようこそ日本へ。今日はオレのウチに泊めてやる。ゆっくり休むことだ」

阪井と一緒に東京へ向かい、そのまま彼のマンションへ。そこでボクは初めてお湯が出るシャワーと、柔らかなベッドを見た。安眠の意味を知ったのもこのときが初めてだった。翌朝、阪井が封筒を渡してボクに言った。

「こいつがオマエの仕事だ。一回につき最低50万を出す」

中に、平凡な日本人中年の写真が1枚。そして、細かいタガログ文字で埋めつくされたカレンダーが入っていた。

「標的の写真と、行動パターンだ。頭にたたき込め」

意味がわからない。いったいボクにナニをさせたいんだ?

「簡単な話だよ。その男は、毎日キッチリ同じ時間の電車に乗っているだろう?」「はい…」「そこを狙って、標的を線路につき落とせ」…はあ?線路に落とす?人間を?電
車が入ってくるのにー刀軽いパニックが体を襲う。「そんなことしたら、死んじゃいますー・」「ワハハハハーおもしれえヤツだな。そうだよ、殺せって言ってんだよー・」「・・・……」混乱が収まると、今度は恐怖に支配され始めた。バカな。人を殺せ?「ああ、電車に突き落とすのが一番スマートなんだ。事故死に見せかけやすいからな」「・・・……」

だまり込むボクに、阪井が畳みかける。

「なあ、リコ。その男は、55才になってから、大手町の一流商社をクビになったサラリーマンでな、自分から『殺してくれ』って頼んできたヤツなんだぞ」「えっ?」

改めてカレンダーを見直し納得した。書かれている内容が、本人以外には知りようもない細部に渡っていたからだ。

「昔は『アイツが憎い』とか、そんな依頼がメインだったけどな、最近は自殺志願者ばかりになっちまったよ。自分で死ぬ勇気が無いから、殺してくれだとさ」

阪井によると、依頼はインターネットのニュースグループを経由してやってくるらしい。ヤツは「お悩み相談」なるサイトの管理人で、依頼人になりそうな人間を、毎日物色しているという。
「電車に蝶かれるのは一瞬だ。痛みなんて感じるヒマもない。へタすりゃ、自分が死んだことにも気づかないさ」「・・……」

「まあ、後は自分でよく考えろ。ゴミの山の腐ったガスと、妹の顔でも思い浮かべながらな」

報酬は最低で50万。それだけあれば、フィリピンで4年は不自由なく暮らせるだろう。
おとなしく首をタテに振った。
いよいよ人殺しの仲間入りだ
翌日から、カレンダーを参考に標的を観察し始めた。1日をトレースしながら、落とすタイミングを絞り込んでいくのだ。ターゲットの行動パターンは、単純だった。毎朝7時30分の山手線に乗り、2つ向こうの駅で降りる。会社をクビになったと妻に一言い出せないらしく、そのまま図書館に直行し、日が沈むまで時間をつぶす。それを、毎日延延と繰り返していた。狙うは、早朝の山手線しかない。実行あるのみだ。

来日5日目。朝7時27分。山手線のホームで、ボクは静かに標的を見つめた。

『電車が参ります。白線の内側に下がってお待ち下さい』

おなじみのアナウンスに両手が震え、ヒザが盛大に笑っている。いよいよ人殺しの仲間入りだ。雑踏の間を抜け、静かに男の背後へ回る。列車が滑り込んできたと見るゃ、胸の前に構えた両手を押し出しー。

「あいっー」小さな叫びをあげた標的の姿は、依然ホームの上にあった。両手を振り回し、体勢を立て直そうと必死だ。ヤバいー相手がこちらの顔を見る前に、ボクはダッシュで駅の階段を駆け下りた。帰る道すがら考えた。確かに緊張で震えてはいたが、手加減をしたつもりはない。揮身の力を込めたはずだ。上半身を押すだけではダメなのか。かといって、タックルのように全身でぶつかっては、自分が殺し屋だと触れ回るようなもの。いったい、どうすればいい?

仕事が失敗した落胆と、殺人が未遂に終わった安堵。複雑な気持ちでマンションに戻ると、阪井の逆鱗が待っていた。

「バカめー落とし屋ってのは、一発必中の世界じゃないんだ。標的を消すまで、何度も何度も、しつこく繰り返せー」

そこで初めて知った。過去の落とし屋たちも、1回目で成功するほうが稀らしい。「ま、落とそうとしただけマシなほうだ。中国人を使ったときは、直前にトンズラされたからな」

なんの慰めにもならないエピソードを語った後、阪井はボクの耳に口を近づけいう。「オマエは逃げるなよ。失敗したら妹を沈めてやる」
そして男は視界から消えた
失敗は許されない。むろん妹の身は心配だが、人を殺す前の緊張感に、これ以上は耐えられそうにない。
そこでボクは成功率を高める技術を真剣に考え、1つの結論を出した。『

上半身がダメなら、下半身を攻めろー』

これまでは、背中を押すことばかりを考えてきた。しかし、よく考えてみれば、人間のバランスを支えているのは足なのだ。計画の実行には、ほとぽりを冷ますため1週問のインターバルを置いた。標的の行動に変化はない。今度こそ殺ってやる…。電車を確認してから、標的を落とすのに使える時間は約1秒。背後に回り、バランスを奪って突き落とす。すべてこなして1秒だ。再び7時27分、山手線ホーム。人混みに紛れて、ボクは男の右斜め後ろに陣取った。

10秒ごとに、ジリジリとま合いを詰めていく。不思議なことに、精神は驚くほど安定していた。3分後。緑の車体を確認すると、右足を軽く持ち上げて、男のヒザの裏を軽く薙いだ。「あっ」カスれたような声を出して、全身を右に傾けるターゲット。思ったとおり、バランスを保とうと腰の位置が低くなっていく。ボクは全く別の方向を見ながら男の骨盤に腕を当て、次の瞬間、ほんの1秒間だけ、強く体重を預けた。

視界の隅で男の影がホームから消えた。全エ程は約3秒。そのまま階段へ向かったので、衝突シーンは見ていない。ゴツ。パシャンツ。背後から、机の角に頭をぶつけてから、水風船を割ったような音が聞こえた。すぐさま金属的なブレーキ音。かなり遅れて、乗客の悲鳴が続く。

ヒザが震えて満足に立っていられなくなった。堪らず地面にひざまずき、朝飯をすべてブチまける。腹に食物が無くなっても身体の拒否反応は止まらない。苦い胃液が何度も喉を通りすぎた。ふいに母の顔が浮かんだ。どうやらこれでボクは天国に行けなくなったようだ。

翌日、阪井から約東の金を得ると、さっそく30万を妹に送金した。妹がラクに暮らせることだけが救いだった。ボクの働きで阪井がどれだけの金を手にしたのかはわからない。依頼人に保険金をかけ、生前に限度額まで借金をさせれば、結構な額が搾り取れただろう。いずれにせよ、下っ端には縁のない話である。
帰国しても妹には会わない
「うわああああああっ」人を殺してからボクは毎朝、悪夢で目を覚ますようになった。目をつぶるだけで、形の定まらない肉の塊のようなものが脳裏に浮かぶ。

2人目の仕事は、復讐が目的だった。阪井によれば、ターゲットは依頼人の愛娘をレイプした極悪非道の輩らしい。報酬は80万。二つ返事で引き受けた。手口は前回同様、標的のヒザを崩し、一瞬全身を預けただけ。男は、中央線の線路へ声もなく落ちていった。悪夢はますますヒドくなる。

しかし、人間とは恐ろしい生き物だ。さらに3、4人とこなすと、神経がマヒしたのか、自分の編み出した技術を磨き上げることだけに集中するようになっていた。
下半身を攻める利点は、いかにも偶然といった雰囲気で落とせることだろう。アタック時のモーションが小さいので、ホームが混雑しているほど目立たない。実際、ボクの仕事は全て「事故死」として処理された。

その後も、依頼は定期的にやってきた。ほとんどは50代の自殺願望者で、窓際かリストラ社員ばかり。みんな、魂が抜けたような顔で電車にひき殺された。もはや悪夢は影を潜め、マネキンを破壊するような感覚しかない。その後3年間でどれだけの人間を処理したかは覚えていない。生まれてから食べたパンの枚数を数えてないのと同じことだ。

★今年阪井が言った。

「リコ、オマエはもうフィリピンに帰れ。そして、二度と日本には戻らないと約東するんだ」

ついに来たか、というのが正直なところだ。どんなに優秀な落とし屋でも、3年もやれば、さすがに警察がマークする。次の仕事は後継者に任せて、老兵は立ち去れというわけだ。ボクはフィリピンへ帰る。しかし、妹の所へ行くつもりはない。人殺し風情が、いまさらどのツラ下げて会えるというのか。この金は、いまでも貧困に苦しむジャピーノたちのために使わせてもらうつもりだ。