本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

首切りリストラ屋・架空のヘッドハンティング退職追い込みの手口

大手商社「T」の海外資材部A氏のもとにその男から連絡があったのは今年5月のことだ。

男は以前A氏と合同プロジエクトを進めた製鉄会社「N」の取引先を名乗った。用件は新規事業の売り込みという。
ところが数日後、待ち合わせの喫茶店に現れた男はA氏を一目見るなりこう切り出してきた。

「申し訳ありません、新規事業という話はデタラメです。実は貴方と2人っきりでお話する機会が欲しかったもので…」

男は「N」のヘッドハントを請け負い、人事から内密にA氏とコンタクトをとって「N」へ転職するよう交渉を依頼されたと言う。
そして次々魅力的な条件を提示した。年収は「T」のおおよそ3割アップ。3LDKの社宅完備、入社してくれたら課長のポストを守る、云々

「あれだけのプロジエクトを成功させた実績を考慮すればこの待遇は当然ですよ」
男の言うとおり、「N」との合同ブロジエクトでA氏が果たした役割は確かに大きい。にもかかわらず社内での評価は思いのほか低かった。しかし…。

「そんなこと急に言われても…時間をください」
突然訪れた飛躍のチャンスにA氏は大いに戸惑う。男の話はかなり魅力的ではある。

が、勤めてきた「T」を辞めるには相当の覚悟が必要だ。
「それはわかります。ただ、先方も付き合いのある会社から貴を引き抜くというリスクを負ってるんです。猶予は1週間。それ以上は待てません」

果たして1週間後、悩みに悩んだA氏は赤坂にある男のオフィスを訪れる。

 

「この間のお話進めていただけないでしょうか」

待遇・諸条件を書類で再度確認してから深々と頭を下げるA氏。後悔はない。これはキャリアアップへの道なのだから。
「ありがとうございます。では両社の間で波風が立たぬように、これで1カ月ほど休養してください。それが終わったら嫌でもバリバリ働いてもらいますからね」

男は支度金数十万をA氏に手渡して微笑んだ。
それから間もなくA氏は親族が経営する会社に就職すると辞表を提出した。
新天地に向けて全てが順調に進んでいく。
しかし退職した翌日、A氏は再び男のオフィスへと向かった。そこで彼が見たのは、デスク-つ無いがらんとした空室…。男からの連絡も途絶え、慌ててビルの管理者や不動産会社に問い合わせても「そんな人間がいた事実はない」の一点張りだ。

狐につままれたように唖然とするA氏は意を決して「N」の人事担当者に詰め寄った。すると、
「そんな男知りませんよ。それに残念ですが、ウチは貴方を迎えるような話など存じ上げておりませんが…」
このA氏の前から忽然と消えた男こそが今回の主役、陣内氏(仮名)だ。
キャリアを持つヘッドカッターである。
「いくら勤続20年だろうが職場にこれっぽちも不満を抱いていない人間なんていません。隣の芝は青く見えるものでしよ」
短く刈り込んだ髪をムースで固め真っ黒に日焼けした顔。週に3日はジムで汗を流すという体格と人懐っこい笑顔が、いかにもアンバランスだ。
「ヘッドカッティングはそんな心をくすぐってあげるんです。もっとキャリアアップできますよ。今よりもっといい暮らしをしたいでしょって。まだバブルの時みたいな甘い夢を抱いている人って意外と多いんですよ」
しかし、そう語る氏自身がバブル期にはごろごろいたヤングエグゼグティブ風の印象を受ける。なにせゼロハリバートンのアタッシュケースに高級ブランドのスーツ。腕にはシルバーのブルガリが見え隠れしているのだ。
「ハハハ、そうですか?確かに私自身がバブルを引きずってるのかもしれませんねえ。毎日お祭りみたいで楽しかったですから…。この稼業だってあの時代にひょんなことから始めたんですよ」

果たして、彼をヘッドカッターに転身させた〃ひょんなこと〃とは何だったのだろうか。

陣内氏は地方の国立大学経済学部を卒業後、「2年ほど親の金で遊んできた」と言う米国留学を経て大手商社に営業として就職した。
「ま、確かに英語はできましたけど一番の武器は話術。学生時代から口の巧さだけは群を抜いてましたから」
自信に満ちた発言のとおり、氏は入社して4年でトップの営業成績を叩きだすようになった。確かに氏の口調には不思議と人を説き伏せるようなテンポがある。
肝心な箇所で熱っぽく、それでいて決してオーバーではない。

入社7年目。バブル期の商社マンとして仕事もプライベートも隆盛を極めた陣内氏は営業部のマンパワー確保と増大のためヘッドハンティンクを任せられる。

社も発展することしか考えていない時代でしょ。

ちょっとでも優秀な人間の噂を聞いたらすぐに接近してました。巧みな話術はここでも活かされ、ほどなく彼は一流のヘッドハンターとして知る人ぞ知る存在となっていく。だが・。

「Mといっ商社からヘッドハンティングした男が収賄事件に関わっていて逮捕されちゃいましてね。完全に私のリサーチ不足です。幸いウチに入社する前に発覚したので大事に至りませんでしたが・・大失態でしたね」

順調に見えたキャリアに思わぬ汚点がついた。

オレとしたことが・・。落ち込む彼に「M」の人事担当者の伊藤(仮名)がコンタクトを取ってきたのはそんなある日のことだ。
伊藤は彼を銀座でも高級とされる店に招待し、極上の接待でもてなした。

「実はね、あの男は社内ブラックリストでもトップでして、以前から目を付けていたんです」

「そんなヤツを私は…。大マヌケな話ですね」

「そんなことありません。陣内さんのおかけでやっかい者を葬る手間が省けました。ウチにしてみれば大恩人ですよ」

明らさまに氏を持ち上げる伊藤の態度。この男、何を企んでいるのだろう。

「ところで、陣内さん、ヘットハンティングの腕前はかなりなものだそうですねえ」「いえ、そんな・・」

「実は…ウチの会社には彼以外にも辞めてもらいたい人間ってのか山ほどいるんです。ホント人事の苦労は絶えませんよ」
「はあ・・」

「そこで相談なんですけどね」
「ハイ」

「そういった人間を全てヘッドハンティングしてもらえませんか。もちろんお礼はしまます、どういうことですか?」

「まあ、人員整理とでも言うんでしょうか」

不倫相手とのトラブルが表面化しそうな者、企業秘密のリークをする者、そして純粋に会社にとって利益を生み出さない者。伊藤はそういった会社に不必要な人材を切りたいという。
が、考えてみれば自分の会社の人間である。単にクビにすれば済む話ではないか。わざわざ外部の人間を雇って手の込んだことをする必要があるのだろうか。

「いえいえ、皆さん、簡単にクピって言いますけど、実際そううまくいかないんですよ。本人は必死ですからね。懲戒免職なんてよっぽとじゃなきゃできないし、不当に解雇したら裁判を起こす者もいるでしょ。誰が悪いわけじゃないのに私たちを逆恨みする連中だっています。人間追いつめられると何をするか…

人を解雇するってのは実は相当骨が折れる仕事なんでまならば、会社にとって不要な人間は自発的に辞めてもらうのがいちばん好都合。そう、例えは転職などで。」

「伊藤さんに言われたときは正直、目の前がパッと開けた感じでした。これはビジネスになるんじゃないか、ってね」
報酬は首切り社員の月収の3カ月分
さっそく陣内氏は伊藤の依頼で月1~2件のペースでヘッドカットにとりかかる。勝手知ったる仕事。首切り工作はいとも簡単に片付いた。報酬はー人カットするごとに50万。予想以上の大金を手にした陣内氏はしだいに考え始める。

「大企業になればなるほど人事や総務の人間はイレギュラーなことに手を染めなければいけません。伊藤と同様の悩みを抱いている人間は多いんじゃないかって。そこでヘットハンティングのときにできた人脈から様々な業種に探りを入れてこの話を持ちかけてみたんです」

果たして、氏の狙いは当たった。打診した大半の会社が好反応を示し、多いときでー力月に10-12人の依頼が舞い込むようになったのである。奇しくも時代はバフルの崩壊、企業が急速にリストラを迫られるといっ時流も追い風になった。大企業の人事は新しい人材の獲得よりも、不要な人員を整理することの方に頭を悩ませていたのだ。間もなく氏は会社を退職してヘッドカッターを本業に選ぶ。すでに片手間にこなせる仕事ではなくなっていた。

「それもありますが、やはり一番の理由は金です。基本報酬はヘッドカットする人間の月収3-4カ月分。サラリーマンやってるのがバ力らしくなりますって。ただ、必要経費込みなので全てが懐に入るわけじゃない。ターゲットに渡す支度金やら工作費用がありますかりね。ちなみにこれらの金を企業がどこかり捻出しているかというと、ほとんどがターゲット本人の給料なんですよ」

つまり、企業の考え方はこうだ。仮にリストラしたい社員がいても先述した理由から即刻クビを切るというのは難しい。辞めさせるまでに少なくとも半年ほどの期間がかかる。ならば、その間に必要な給料分で陣内氏のようなプ口を雇い、短期間で自主退職に追い込もう

「本当なら退職金すら払うのも惜しいんです。そんな社員は早く辞めてもらうにこしたことはない。企業ってのは基本的に血も涙もないんです」

それにしても「クビ切り」費用が自分の給料から支払われるとは何とも恐ろしい話ではないか。
さて、陣内氏は具体的にどのようなプロセスを踏んでターゲットの「首切り」を行っているのだろうか。素人考えでは同額な給料や魅力的なポストをちらつかせればホイホイと飛びついてきそうに思えるか・・

「そんな甘いもんじゃない。サラリーマンという人種は保守的なんでそれだけじゃなかなかクビを縦に振りません」

ではターゲットを口説くボイントとは?リサーチですよ。私は人脈・学歴・保有資格は当然として、不動産や財産・ローン状況、趣味や家族構成、おまけに飼い犬の種類に通院歴まで徹底的に調べあげます。興信所と変わりませんよ、出されたゴミのチェックまでするんですから。あ、こいつの奥さんは料理しないな、とかね。あらゆる角度からターゲットの弱味を見つけるんです。

相手を恐喝でもするならまだしも、おいしい転職話を持ちかけるのだ。そんなに弱味が必要とは思えないが。

「例を挙げて説明しましょう。ある住宅会社のセールスマンをヘッドカットしようとした時のことです。ターゲットにどんな好条件や好待遇を提示してもなかなか色のいい返事をもらえなかった。今の会社への不満は次から次へと口にするのにですよ。不審に思って調べたら父親が重病で入退院を繰り返してたんです。そこで、彼に次の職場は本社勤務なので転勤とは無縁だ、とつげたら、すぐにコロッと落ちました。人間が最後に決断するところって、そういうところなんですよ」

人の弱味につけこむとはまさにこのことか。いずれにせよ、氏は徹底したリサーチで相手を丸裸にしたところで、ようやくターゲットとコンタクトをとるという。

「これはヘッドハンティングも同様ですが、特別なことはせず正攻法で接近します。加杏ェの会社を名乗って商談を持ちかけたりしてね。第一印象で変な不信感をもたれちゃマズイでしょ。そして、ターゲツト本人に会えたら、さる企業からヘットハンティングを頼まれたと打ち明ける。この依頼先として名を挙げるのは大企業であればあるほど良いですね。これは社内でも内密に進めている、とクギを刺しておけば、ターゲット個人がそんな大企業相手に事実確認をするといっこともありませんから」
後は向こうが食いつきそうな条件(給料・待遇)でおとしに入る。例えば、上司に不満があるようであれば、重要なポストや自由な労働環境をちらつかせてひたすら口説く。「あと、気をつけなければいけないのは退職という条件なんです。今ある安定や収入を捨てて転職することに抵抗がない人はいません。だからなるべくやめるとかは使わない。入社という言葉を繰り返すというのも大事な戦略でね。ひたすら前へ前へ、希望を持たせてあげることが大切なんですよ」

が、それでも現状と秤にかけ、腰が引けてしまう相手には時間を与えないことで決断を迫る。

「事業の状況が変わったとか、先方が急いでるとか言って焦らすんです。ほら、人は期間限定とかバーゲン品ってのに弱いでしょ。これって全部営業の基本なのに案外みんな引っかかちゃうんものなんですよねえ」
キャリアウーマンがふられた腹いせに
ここまで氏の話を聞いても、もっーつ納得できない。いくらヘッドハンティングといえども見ず知らずの男の言うことを信じ込むだろうか。ウマイ話であればあるほど、何か裏があるのではと、疑いを持つのが普通ではなかろうか。

「その疑問はもっともです。もちろんこれだけじゃ信じませんよ。すべてに信悪性と必然性を持たせなきゃ。そのためには辻棲を合わせることが一番大事でね」

有名企業の封筒、プロジェクトの書類や契約書、大企業の人事担当者の名刺などをさりげなく見せるのは序の口。相手を信用させるため、氏は偽のオフィスと秘書まで用意しているという。都内に不動産を多数所有している男がいるんです。そのなかで賃貸契約を結んでいない幽霊物件をいつもー週間ほど自由に使わせてもらってオフィスに仕立てます。ファックスやらパソコンやら一式を運び込んでね。力ットか成功したら夜逃けさながら撤収ってわけです。秘書役は馴染みのホステスに頼んだり・・。まったく人を編すのも楽じゃありませんよ」

ここまで織密に張り巡らされれば編されてもおかしくない。しかし、いくら好条件をちらつかせようか、氏を信用しようが、ヘツトカツトに応じない相手もいる。

「義理や人間関係などの事情で会社を辞められない人はともかく、中にはどうしようもないヤツもいる。その会社にしがみついてしか生きられない人間です。それはさすがにお手上げ。くすぐろうにも向上心がないんだから。まあ、彼らは私がヘッドカットしなくても、遅かれ早かれリストラの餌食となるだけですけどね」

企業が不要社員の首を切るためにヘッドカッターを使う。残酷な話だが、これはまだ理解できる。だが、わからないのは、陣内氏に仕事を依頼してくるのは何も企業ばかりじゃない。

彼が某アパレル会社に勤めるKという男性かり5氏(37才)という係長のヘットカットを依頼されたときのことである。

「いつものようにターゲットの身辺をリサーチしていると、おもしろいことがわかったんです。依頼主のKという男と5氏が同期入社でライバル関係だったんですよ。しかも次の社内人事で重要なポストを巡って争っことが決まっていた。恐らく、あいつを蹴落とさないとオレが出世できないとか、そういういことなんでしょう。結局、5氏が二世帯住宅を購入する予定があることがわかって、社内口ーンや建築する間の社宅など5氏か飛びつきたくなるような条件を並べ立てヘットカツトは成功しました。まあ、私も企業人だったから理解はできますけど、正直そこまでやるかと呆れましたよ」

他に企業以外で多いのが、経済ヤクザかりの依頼。土地の権利書が欲しいから職を奪い破綻させてくれというものだ。

「でも、今までで一番驚いたのはある上場企業のキャリアウーマンからの依頼ですよ。同僚の男をヘッドカットしてくれっていうんですけど、調べてみたらどうもそいつに婚約を破棄されたようで・・。その腹いせに会社から葬り去ってやろうってことですよね。鳥肌が立ちましたよ。本当に女は恐ろしいですね。もちろん、カットは成功ですよ。その男、辞めてから暫くは大阪のサウナで働いてたと聞きましたが」

カットした相手に刺されても文句は言えない様々な理由で陣内氏に「クビ切り」された人間たち。彼らにはその後とのような人生が待っているのであろうか。

「あまり耳に入れないようにしていますが、そりゃま、不辛のオンパレートですよ。とりあえず離婚する人は多い。男って積み重ねたものが大きいほどショックも大きいんでしょうね。なかなか立ち直れないうちに奥さんに愛想尽かされちゃうってのがパターン。イザとなると男はダメですねえ」

まるで他人事のような口振りで淡々と語る陣内氏。ふと、何かを思い出して顔が綻んだ。

「そういえば以前、休みに四国の四万十川に力ヌーを楽しみに行ったんです。帰りに渋滞にハマっちゃってボッーと通行人を見ていたら、なんとー年前にヘッドカットした男が歩いてるじゃないですか。しかもお遍路姿で。人生をやり直すきっかけ作りでもと考えたんでしょうね。そのときは申し訳ないけど笑っちゃいまいましたよ」

彼がこの仕事をするうえで心がけていることは感情を捨てて《マシーン》になることだと言う。なるほど、他人の人生を弄んでいるのだ、余計な威傷を持ってこなせるほと甘いものじゃないのだろう。

「一度、ヘッドカットした相手から血眼になって捜されたことがあるんです。その人、街で私の似顔絵なんか配っちゃって…。さすがにそのときは見つかったら殺される、って思いました。それからヒゲや髪型、眼鏡は仕事のたびに変えてますよ。あと、用心のために人目につくところは行かない。そうそう、私、タイカースファンなんですけどここ数年球場に行ってないんです。これは相当辛い」

おどけたしぐさをしてみせる陣内氏。今までクビを切った人間への罪悪感はないのか。「ないと言ったら嘘になりますか。もしバレて刺されても文句は言えないでしょうね……。ただ、私がカツトした人のなかには自力で他へ転職して今も第一線でバリバリ働いている人だっているんです。リストラや倒産なんてゴロゴロしてる。それ位自分で乗り越えられない奴は、私がやらなくたっていずれ同じ状態になる。遅かれ早かれね。