本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ふられた腹いせに同級生を利用し女医をレイプし殺害

東京・清瀬で起きた19才女性刺殺事件。事件当時、21才だった被告のツツミ(仮名)は、以前交際していた被害者にふられたことに怒り、高校の同級生ベッショ(仮名)と共謀して女性を監禁レイプ。その後、ストーカー行為を繰り返した挙げ句、殺害したというものだ。
一見、単純な事件だが、中身はややこしい。実はツツミ本人はレイプしたわけでも殺したわけでもなく、実行犯はすべてベッショなのだ・・なんて概略も、傍聴しているうちに少しずつわかってきたこと。概要の説明もなく、いきなりレイプ場面から裁判に突入されたら、地裁から追いかけてないと理解に手間取る。おかけでこっちは事件を理解しつつ、なぜ友人がこの場にいないのか、なぜ控訴したのかなど、基本的な疑間を抱えたままの傍聴となった。
不完全かもしれないが、傍聴を元に事件を振り返ってみよう。
ツツミ自身が、被害者女性と以前から肉体関係があったとは言わなかったので、付き合いのレベルはわからないが、発端はシンプル。被害者の女性に好きな人ができて、ツツミと別れただけのことだ。
よくある話なのだが、ツツミはこれが我慢ならず、復讐の意味で「強姦」を思いつく。この短絡的な発想が後の大事件の引き金となるのだ。
そこまでしてもヤリたかつた。単純に考えればそうなるが、実際にレイプしたのは友人のベッショで、ツツミは「やらせろよ」と迫っただけ。女性が開き直り、上着を脱ぐそぶりで「終わったらすぐ帰るわよ」と言い放ったため戦意を失ったらしい。
自分はレイプしなかったものの復讐は遂げた。事件はそこで終わっていいはずだった。が、ツツミの異常さはこの先にある。レイプの一件を女性が誰かに告げることを恐れ、ストーカー行為を始めるのだ。
といっても、きっちり口止めするでもなく、中途半端に付け回すだけ。実に不可解な行動だが、これには理由がある。ツツミは未だ女性に未練たらたらだったのだ。レイプまでしておきながら考えられないが、もう一度付きあえたら、とまで思っていたらしい。
しかし、被告席の冴えない青年ツツミに、彼女を取り戻すため努力していい男になろうという殊勝な発想などなかった。
付けまわしたり電話でネチネチ話しても、さっぱり効果がない(あたりまえなんだがツツミには不本意)。それどころか彼女を怒らせてしまった。放っておけば警察に捕まるかもしれない。
もういい、彼女のことはあきらめよう。その代わり……殺してしまおう。
いや、自分が殺るのはリスキーだから、ベッショに殺させてしまえばいい.何たる身勝手。何たるズル賢さだ。
ベッショに殺意を抱かせるため、ツツミは巧みな嘘でワナを仕掛けた。
「彼女から口止め料を払えと言われているんだ。払わないと警察に告訴すると言ってる。オレも半分出すから用意してくれ」
ベッショには、それが作り話であると見抜ける力はなかった。そして、借金までして作った金をツツミに手渡すのだ。
その金を遊行費に散財したツツミは、さらに嘘を重ねベッショを追いつめる。

「実は、また彼女から金を請求されてるんだ。このままじゃこっちが破滅してしまう。もう殺すしかないだろ。殺しちゃえよ」

何度もけしかけ、ベッショがその気になったところで、、犯行準備にとりかかる。
凶器のバタフライナイフ、変装用の脱色へアダイスプレー、高校生風の服、大きめの靴などをディスカウントストアで購入。といっても、実際に店内で「品」を入手したのは買い物リストを渡されたベッショ。ツツミは店の外で待っていただけである。あくまで、自分の手を汚したくなかったのだ。
犯行当日はベッショだけを現場にやり、自分はアリバイ作りに励んで電話で指示を出しまくった。そして、女性が自宅でひとりきりになったとき、GOサインを出す。
「いましかないぞ、やれ!」
クルマに潜んでいたベッショは、ドアに接近。顔を出した彼女の首や胸など、数カ所を刺して逃走する。が、それも3日間だけ。目撃者の証言からあえなく逮捕されてしまう。
逃走中も、ツツミはベッショと連絡を取り、自分のことはしゃべるなと通告。拘留中にも面会に行き念を押す。
そして取調べには「ベッショくんは脅されていたようだ」と、素知らぬ顔で警察に語った。書いていても気分が悪くなるほと身勝手な《逃け切り計画》だが、こんな幼稚な作戦か通用するはずもなく、その4日後には共謀容疑で逮捕されてしまう。これで事件は白日の下に、と言いたいところだが、まだ先がある。なんとこの男、法廷で無実を主張したのだ。

その間、ベッショの裁判は着々と進み、翌春には懲役12年が確定。粘ったツツミもそのかいなく、実行犯より悪質ということで無期懲役が言い渡される。この判決に、身勝手男ツツミは納得できなかった。どうして殺したベッショが12年で、殺してない自分が無期なんだ。ひどいじゃないか。

ひどいのはお前だよと張り倒したくなる理由で控訴。ぼくが見たのは、その初回公判なのだった。

しかし、被害者への未練が強かったツツミと違いベッショには動機らしいものがない。ツツミの公判を聞く限り、

「言われたからやっただけ。」

どこにも主体性が見えてこない。殺人時にはシンナーを吸っていたらしいが、ラリってたわけでもないだろう。わからんなあ、この男の意思はどこにある。まるでツツミの口ボットだ。前記したように、レイプしたのは確かにベッショである。被害者と面識はあったにせよ、気の弱い男なら、いくらやれと言われたってチンポか立ちそうにない状況で、それをやり遂けている。うむむ、どんなヤツなのか。地味でおとなしそうに見えるツツミに操られるくらいだから、マッチョなタイプは想像しにくい。まあ、どんなタイプも想像しにくいんだが。

だがしかし、勢いとスケべ心と友情(?)でレイプはできたとしても、今度は殺人である。メッタ刺しである。明らかに別次元の犯罪だ。おいそれと踏み切れるもんじゃない。怖すぎる。ツツミが心理的によほど追い込んでいたんだろう。

「おまえがレイプしたんだから、バレたらおまえは終わりだ」
とかなんとか、繰り返し誘導したのだ。そして、自分の小遣いほしさに、自作自演で彼女から脅されている話を握造して金を請求。ベッショはその言葉を疑うことなく、サラ金にまで手を出し、こんなことが続いたらたまらないと、殺害の意思を固め始める。ツツミは待ってましたとはかりに全面支援を約束。それで納得するんだから、ベッショも素直というか、抵抗力なさすぎ。

裁判官によると、

「おれはやってないから罪に間われないが協力する」

みたいなソフトな言い方ではなかったようだ。完全に手下扱い。当初はためらう気持ちのあったベッショに脅し、なだめ、はげまし、怒りなどの波状攻撃を続け、思考不能に持っていくことに成功したんだと思われる。

しかも、なけなしの金まで巻き上けるなんて、ツツミはある意味、天才的。その才能はベッショに対してだけ発揮されるんだが、こうして、ふたりの犯人は一蓮托生のように見えて、実はツツミだけが得をする犯罪の泥沼に足を突っ込んでいったのだ。

「クルマはベッショくんに用意させて、運転もベッショくんがしました」

「ベッショくんから電話で、いま殺したと言われました」
ベッショくんと繰り返すツツミ。今となっては少しは彼に悪いことをしたと思っているような態度だが、当時は高飛車に命令を下しまくっていたのだ。事の重大さすら考えずに手下を操る卑怯者と、《ツツミ信者》のように命令を実行する単細胞。まったく、こんなコンビに殺されたのでは被害者も浮かばれない。

しかも、この事件にはオマケかつく。なんとか罪を逃れようとツツミか放った嘘の数々が後遺症として残ったのだ。

「まるで娘が脅していたかのように報道され、深く傷つきました」

父親はそう証言すると、涙で声を詰まらせた。犯人のデタラメか供述をそのまま信じたマスコミ、いったいどんな報道だったのか。当時の週刊誌を調べていると、週刊新潮と週刊文春に関連記事が出ていた。とちらもベッショとツツミが逮捕された直後の号にーページずつ。薪潮は事件の概要を伝えた後、捜査関係者の話として、被害者がロ止め料を請求していたとふたりが言っていることを紹介している程度で扇情的な記事ではない。

しかし文責は、タイトルから被害者が不倫をしていたことを暴露。相手の妻の

〈他人の家庭を崩壊寸前に追い込むなんて、身勝手すぎると思います〉

というコメントを掲載している。が、何より遺族が可哀想なのは、ツツミたち犯人に口止め料を請求したことが事実のように書かれていることだ。他にも悪質な記事があったのかもしれないが、実名・顔写真入りの誤報。

裏付けもなく、犯人のいうことをそのまま信じて記事にされたのでは、遺族はたまったもんじゃないよなあ。父親は、誤った報道で、いやからせも受けたと証言していた。その元凶はもちろんツツミがベッショを操るためについた嘘。いくら手を下していなくても、すべてツツミが仕組んだ犯罪である。

高校時代の同級生による興味深いコメントが出ていた。ベッショは高校時代からツツミにいじめられていたのだそうだ。ツツミが買ったオートバイの請求書がベッショに送られてくるような関係だったと書かれている。これでやっとイメージがつながる。ベッショは気弱な男であり、ツツミに逆らえない。ツツミは法廷でのしおらしさが本来の顔ではなく、ベッショを私物ぐらいにしか思っていない絶対的な存在。そして、ふたりの関係は高校を卒業しても変化がなかった。

だからこそ、ツツミは当初からためらうことなくベッショにすべての罪を着せるつもりだったし、ベッショは無抵抗に従うしかなかったのだろう。異様さの根っこにあったのは、イジメだったのか。学生時代の力関係が、殺人事件にまで及んだのかと思うと、本当にイヤな気分になる。同情するならベッショである。これでツツミの罪がベッショ以下だったら、傍聴席男のぼくとしても納得できない。
出所後、ふたりの関係はどうなるんだろう
2カ月近く後、判決の日がきた。いそいそと傍聴席に向かっていると、前回は他の公判と重なったためいなかったマニア氏の姿が。ヘンな事件の判決は逃さない。さすがにいい鼻してる。

「どうなりますかね」声をかけると、即座に返事が戻ってきた。

「棄却だろう。殺ってないったってね、まあ無期でしよう」

ドアが開き、入廷したツツミは、傍聴席最前列にいる被害者の父親に深々と頭を下けた。やっと現実を受け入れる覚悟ができた。そんな表情だが、遅い、あまりにも遅すぎる。かすかな不安をうち消すように、裁判官は開廷するなり控訴の却下と無期懲役を言い渡した。

ツツミは逮捕後、窓口となった悪質な弁護士と自分が無罪であるもうひとつのストーリーを作り、闘おうと相談したという。犯人がサイテーなら弁護士もサイテーだ。裁判官は不快感を隠そうともせず長々と理由を言い放ち、シメに移った。

「被告は、ベッショにすぺての罪をなすりつけようとした。じつに卑劣であるー」

くう、いいぞ裁判官。考えてきたね、このセリフは。「じつに卑劣」でシメようと決めてたね。ニクイ。ぽくの目の前にいる被害者の父親も、ホッとした様子である。何か声をかけたい衝動にかられたが、部外者に話しかけられるのも迷惑だろうし、だいいち何を言えばいいかわからない。黙って部屋を出た。ベッショがムショを出るのは、うまくすれば6、7年後。ツツミは模範囚で過ごせば15年ほとで出所の可能性がある。そのとき30代後半になったふたりの関係はどうなるのだろうか。それでもやはりベッショはベッショなのだろうか。