２０００年１月20日深夜３時50分頃、広島県広島市の国道54号を横断する城北地下道（全長２３６メートル）の中央付近で、無職の熊井梢さん（当時16歳）が血を流して倒
れているのを通行人が発見した。
通報を受け、梢さんは病院に救急搬送されたが、約１時間後に死亡。司法解剖の結果、刃渡り10センチほどの凶器で背後から襲われ、両腕の付け根近くの背中２ヶ所と両太ももの裏側２ヶ所を刺されたことによる出血多量が死因と判明した。
梢さんは事件前日の１月19日夜から20日深夜３時頃まで、ＪＲ広島駅付近の繁華街のゲームセンターや漫画喫茶などで女性の知人と遊び、３時15分頃に１人でタクシーに乗車。自宅近くの地下道付近で降りたものの、そのまま家には帰らず、地下道を通って道の反対側にあるコンビニエンスストアに立ち寄った。
３時30分頃、コンビニの防犯カメラに写った映像では梢さんは一人で、特に変わったような様子は見られなかった。
事件はコンビニを出た後、再び地下道を通過したときに発生したと思われる。梢さんが刺された直後、偶然にも友人が彼女の携帯に電話をかけていた。
梢さんは「痛いよ、痛いよ、血が止まらんよ」
と同じことを何度も繰り返し、
友人が「どうしたん？」
と聞いた途端に電話は切れてしまったという。
警察は梢さんの着衣に乱れがなく、財布の中の現金も残されていたことから通り魔もしくは怨恨による犯行ではないかと睨み捜査を開始したが、目撃証言も物証となるような遺留品も発見されなかった。
興味深いのは、事件の直前、梢さんが友人に電話で「とても大事なこと」について話すことを約束して助言を求めていたことだ。
その内容は不明のままだが、これが事件に関係しているのだろうか。
事件から２年後の２００３年１月、梢さんの養母が詐欺事件で逮捕された。梢さんは１９９９年３月に養母の夫が死亡した後、祖母の自宅で２人暮らしをしていたにもかかわらず、養母は民生委員を騙して梢さんを養育しているとの証明書に署名させ、遺族基礎年金計約１３８万円を自分の口座に振り込ませていたという。ただ、この一件が事件と関係があるかどうかはわかっていない。
２０１５年２月、広島県警が最新装置を使い現場を再調査したことが報じられた。壁などに特殊な光を当てることで、これまで発見できなかった指紋や遺留物を浮かび上がらせるのが目的だったが、そこでも新たな証拠は出てこなかった。複雑な家庭に育った梢さんの身に何が起こったのか。事件は迷宮入りの様相を呈している。
