本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

弁護士と闇金の過払い金をめぐる奪い合い

トサンの闇金に10万借り、1年間利息を払い続けると、いくらになるか。
単純に、日3万で計算すれば、1カ月で9万、12力月後にはなんと108万

出資法で定められた年利の上限は29・2%(3万弱)だから、実に105万近くを
余分に払わされることになる。
今から9年前、オレはこの過払い金に目を付け、金融業者から3年間で3億の金を掠め取った男だ。
若造に、なぜそんな大それた真似ができたのか。事の顛末をすべてお話ししよう。

都内の私大を卒業と同時に、Xファイナンスという中堅ノンバンクに就職した(ノンバンクとは、サラ金やローン会社、キャッシング企業など、銀行以外の金融機関の総称)・
そこは、後に「腎臓売ってでも金を返せ!」という追い込みで有名になった組織の系列で、全国に張り巡らせた数十カ所の営業所で、個人事業主や中小企業相手に1件500〜3千万の融資を生業としていた。
南関東の某支店に配属となったその日、電話だけの殺風景な机に座らされるとガムテープ片手に課長が言った。
「受話器を持て!」
「は、はい」
命令どおり左手で受話器を取り、右手をプッシュボタンの上に乗せる。と、その瞬間、グルグルグルグル…。そう。課長のガムテープ
は受話器を握ったオレの手と頭を固定するためにあったのだ。
「朝から晩まで電話をかけまくれ。それがオマエの仕事だ!」
「。・・・。。」
思わず絶句するしかないが、企業相手の高利貸しは、セールス電話をガンガンかけ、口八丁手八丁で経営者に融資せねば、それこそ自分がクビになってしまう。オレは覚悟したように受話器を取った。獲物を探して、毎朝9時から夜の加時まで、電話をかけること1年。同期が6人に減った。
オレはと言えば、成績至上主義の社風が思いのほか肌に合っていたのだろう。入社1年でヨソの支店長に抜擢され、さらに半年後には本社の管理部という、予想以上の出世コースを歩んでいた。
管理部の仕事は、支店レベルで回収不能に陥った事故物件の処理が主な役目だ。我が社の場合、金に困った事業主にムリヤリ保証人を付け、詐欺紛いの過剰融資を行っていたため日々追い込みである。
とりわけアコギだったのが根保証だ。表向き額面100万の借用害で保証人にハンコを押させ、その実、陰では債務者に1千万を貸してしまう。こんな鬼畜なことをしてれば、自殺者も出る。オレが遭遇した首吊りは、1年半で実に4人にものぼった。

「石神、○×弁護士事務所にコレを届けてくれ」
管理部に配属されて間もないある日、先輩に小汚
い紙袋を手渡された。中を見れば、100万の札束が.なんすかコレ?.
「過払い金だよ。弁護士を通じて債務者に返すんだ」
「過払い金?」
「そそ」
先輩は言った。融資した、お茶の水にある小さな印刷会社が弁護士をたて「過払い金を返せ」と訴えている。裁判前の調停では、明らかにコチラの旗色が悪い。面倒なことになる前に、手っ取り早く500万で手を打ちたい
話はわかった。が、何かおかしくないか。

一方で債務者を自殺まで追い込んでおきながら、簡単に金を返すなんて、イージーすぎるではないか。
オレの頭に邪悪な考えが浮かんできたのは、弁護士事務所に大金を運ぶようになって4度目のころだったか。
会社がこんなに簡単にイモ引くなら、オレも過払い金をふんだくれるんじゃね’の?
少し説明が必要だろう。
オレが勤めていたXは、出資法で定められた利息の上限をきちんと守っていた。先の印刷所のケースも、過払い金は本来なら返す言われのない金だ。

しかし、利息制限法と出資法の関係が、話をややこしくさせる。
この両者「年利を制限する」という同じ性質をもちながら、それぞれ開きがあった。
貸す側にとってみれば、限度枠の高い出資法の方が断然オイシイのだが、法的拘束力の観点では利息制限法が強く、それがため、時に裁判所では次のような訴えもまかり通ってしまう。
出資法に従い契約した利息ですが、それはXの担当者さんにむりやり八ンを押させら
れたものです。私は利息制限法で金を借りたつもりです相手側はこうして利息をむりや
り下げさせ過払い金を発生させ、その返却を求めてくるのだ。
それでも疑問は残るだろう。泣く子も黙る高利貸しが、なぜ、そんな主張を簡単に受け入れるのか。
堂々裁判で争ったらよいではないか、と。
実はXには、争いたくても争えない事情があった。先の根保証を始めとした数々の悪行を裁判官に提出されたら、債務者の言い分が九分九厘通ってしまう。
もし強気で争い、事が表面化したら、全国に散らばった500人からの高額債務者が、一斉に訴訟を起こす可能性も否めない。Xは間違いなく破産だ。
そこで、オレの邪悪な頭が働く。
Xの高額債務者を味方に抱えて裁判(調停)を起こせば、争わずして百万単位の金が手に入るではないか。コトを起こす価値は大いにアリだ。

客となる高額債務者リストは会社の端末を叩いて入手した。効果的な訴状の書き方も頭に叩き込んである。
しかし、計画を成立させるには弁護士という大きなネックをクリアせねばならない。法廷に立つ人間がいなけりゃ絵に描いた餅だ。
かといって、ヤツらに頭を下げるのもどうか。予定している金の配分は、おおよそオレが55%、債務者が30%、弁護士が15%だが、ナメられると、より多くの報酬を請求される危険性が高い。いっそのこと弁護士をハメちまったらどうだろう。
アテは…ある。常日頃、オレが過払い金を包んで参上しにいく先生の中には、都会のど真ん中に派手な事務所を構える切れ者もいれば、汚いアパートの一室で細々と営む貧乏人もいる。後者なら、金で転んでもおかしくない。
ただし、計画の詳細を真正面から話しても、断られるのがオチ。
首根っこをギュッと掴んだ後じゃないと…。
思うが早いか、弁護士を4人ピックアップ。手土産攻勢をしかけた後、食事に誘った。
「先生、このワイン-本5万もするんすよ!」
「石神くんも若いねえ。3年前のボクだったら、最低でも上物しか飲まなかったんだよ」
「先生と違ってボクはしがないサラリーマンなんですから」
バブル時期、勢いでオイシイ思いをした先生方は、プライドばかりが高く、おだてに弱い。
こうして気を許し始めたら、次のステップへ。オレが管理部で抱える債務者を紹介し、任意整理の仕事を与えるのだ。
会社にバレたらヤバイが、金に困った先生には願ってもない話。案の定、4人とも飛びついてきた。
あとは仕事を次々に回し、他の依頼をすべて断らせる。言ってみれば、大手企業と専属の下請けのような関係を築き上げ、適当な頃合いを見て一発かます。
弓云は、知人の弁護士に優先的に仕事を回さなきゃならない事情ができまして。先生とはこれっきりのお付き合いということで」
「ちよっ、ちょっと待ってください。ボクはどうなるんですか。石神さんの紹介がなくなったら大変です」
「大変って言われても。別に契約したワケじゃないですから」
「お願いします。依頼を回してください」
高級ソープで女を抱き、麻布や六本木で賛沢を覚えた連中のこと、コチラに軍配は上がっていた。
会社を辞め、すぐにコンサルタントのオフィスを開いた。目的は裁判所に提出する訴状や、利息の見直し計算書を腰するため.つまり、Xから奪い取った金を、名目上.雲掃成費として弁謹士から振り込ませるようにしたのだ。
これなら税務署に怪しまれるコトもない。
弁護士の新事務所を学のにも骨を折った.

帯の財布のヒモを完全に握るには、部屋代もオレが負担せねばならない。
できれば、ワンルームマンションの部屋をまとめて借り上げるのが望ましい。さらには、地裁まで奉景1本で行けるポイントがいいだろう。
他にも机やパソコン線など、かかった経費は600万。
しかし、ここからが本番。オレは1人、事務所の蔦を手に取り.顔馴染みの中古車屋プシュした。過払い金1千万を超す上客だ。
「もしもし石神です〜。社長、元気にしてました?」
「元気なワケね-だろ。アンダんところの借金でアップアップなんだからよ」
「あれ?言ってませんでしたつけ?ボク、会社辞めて、経営コンサルタントになったんですよ」
「で、何の用?」
「社長どうです、ボクと契約しませんか?」
「あ?何言ってんだ。そんな金あるわけね’だろ」
「よければ借金をチャラにする方法を教えますけど」
「へつ?」
「実はですね…」
用意した資料を元に説明する。
利息を引き下げた場合、1千5百万からの過払い金が発生する。社長の借金はチャラど
ころか新たに大金が転がりこんでくることになる。
「何だか小難しくてよくわかんね-けど、本当一にそんなうまい話があるのか?」
「私がなんのためにXの管理部にいたと思います?彼らの手口も弱みも全部知り尽くしているんですよ」
「。。。。」
「コチラの取り分が1100万。社長には400万を差し上げますよ」
「いや、やってくれるならゼヒお願い…します」
「では、さっそくソチラに弁護士を連れておうかがいしましよ」
翌日、比較的要領のよい弁護士を引き連れ、中古車屋の事務所へ。
社長の委任状をしたため、X宛ての内容証明郵便を作成、相手の出方を待つ。
が、2週間たっても返答はなく、さらにもう一発内容証明を送った1週間後、弁護士に雷話をかけさせた。
「○×法律事務所と申しますが、コチラの書面は拝見していただきましたでしょうか」
「ああ、読みましたよ。けど、先生ね、利息を引き下げろってどういうことです?借用害にはキッチリ%と記されてるんですよ。アナタも弁護士なら出資法をご存知でしょうに」
相手は偶然にも元上司。ふふふっ、ソチラの手はお見通しですよ。
「では逆にお伺いしますが、利息の代わりに強引に手形を発行させたのはなぜです?出資法のみなし弁済とは矛盾しますので、利息制限法の%が妥当かと思われますが」
「・・・◇。。」
敵もさるもの、コチラが不利な材料を示すとダンマリを決め込む。
いいだろう。ならば、調停の場に引きずり出し、根保証を始めとした数々の不手際を列挙していくだけ。徹底的に追い込んでやる。
果たして1週間後、元上司は苦虫を潰したような顔で、200万少ない1300万の返金に応じた。
上出来じゃね-か!
「おおぉ!ありがとうございます。この恩は一生忘れません!」
約束の400万を手にして、肩を震わせる社長。
「あはは。いいですよ。ところで社長、他にも借金あるでしよ?」
「細かいのがチョコチョコと…」
「Xで債務整理したってコトが知れると、一気に追込みくるから気をつけてください」
「え?」
「何でしたら、この際、すべて面倒見ますけど」
「お願いできるの?」
「ええ。この前の弁護士を紹介しますよ」
「ありがとう、うぅう」
涙を流す社長からコッソリ手数料を受け取り、弁護士には当初の規定どおり200万を
渡す。結局、手元には予定より100万多い700万が残った。
1件片つけ自信を深めたオレはすぐさま、次の仕事に取りかかる。むろん、同じ弁護士を続けてXに送り込むなんてバカな真似はせず、4人が交替で担当するよう、ローテーションを組んだ。さらには、ターゲットを他のノンバンクにも拡大する。

当時、Xのようなムチャクチャな貸付を行う金融屋は、石を投げれば簡単に当たるほど業界にいていた。
事は面白いように運んだ。経費を差し引いても、なんせ月に1千万からの金が転がり込んでくるのだ。笑いが止まらないとは、まさにこのことだ。
両親にマンションを与え、念願のポルシェを買い、愛人を作り。
こうなりやハワイに別荘でも買うかと有頂天になっていたとき、ケチがついた。お抱えの弁護士が、より高い報酬を一眼水してきたのだ。
くそっ。訴状の一つも満足に書けやしないのに、生意気なヤシらめ。誰が、金の稼さ方を教えてやったと思ってんだ。
と、強気にばかり出られない。
実は、3年も同じことを繰り返しているうちに、どこからともなくオレの手口を真似する弁護士が現れ、稜きが減っていたのだ。
これまで手にした金が3億弱。
手元にはまだ1億の金が残っているが、この辺りが潮時かもしれない…。足を洗う決意を固めた翌日、オレは4人の弁護士を集め、宣言した。
「仕事はお終い!オレはしばらく海外に消えるから」
2つに折り、そのまま事務所を後に。あのとき、ポカーンと口を開けていた連中の顔は今も忘れられない。