本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

当たり屋で儲ける組織

だらしない性格が災いし、現在400万もの借金に苦しめられている私。会社も昨年
暮れに解雇され、もはや自己破産しか道はないと頭を抱えていた今年3月、あのヤフー
掲示板で奇妙な書き込みを見つけた。
「お金、仕事の無い方募集。確実に稼げます。茶髪不可。日当3万以上。スーツ着用。休日こちらの都合。1日手伝っていやだったら辞めても構いません。メインになると1日3万円位。応募の方はメールを。こちらからご連絡します」
日当3万とはかなりおいしい条件だ。どうせマトモな仕事ではないだろうが、状況が状況だけに賛沢は言ってられない。さっそく、詳しい話を聞きたい旨をメールに記し送ってみた。
次の日、メールに添えた携帯番号にしわがれ声の男から電話がかかってきた。
「問い合わせいただいたAと言うもんですが…」
「あ…どうも。非常に興味を持ちまして。あの、どういう仕事なんですか?」
「まあ、取り立て関係ですわ。とりあえず詳しい話は一度お会いしてからにしましょ」
「え…はい」
「××駅のすぐ前にある△△という喫茶店、そこに明日の昼12時ということでどうでしょうか」
電話から伝わってくるアヤシイ雰囲気。何かイヤな予感がするものの、せっかくのチャンス。ここは前に進むしかないだろう
翌日、先方が指定した場所で待つこと5分、時間ピッタリに男性が現れた。
ガッチリとした体格にスーツをパリっと着こなした様は、いかにも取り立て屋という風貌だ。
「カタくならずに」
意外と気さくな印象のA氏がさっそく説明を始めた。
その仕事は4人1チームで、全て業界の隠語で呼び合うといいギャラは日払いで、リーダー役の「オヤ」が、10万、「キジ」が5〜7万、「アダ」で8万、「サクラ」が最
低の3万。アダというのが一番花形で人気があるらしい。
気になる労働条件は、9時間で、金、土、日の週休3日制。仕事場所はオヤがその日によって決めるので、今日は九州、明日は東北と日本中を巡ることも珍しくない。宿泊費・食事代ともに全額支給なので逆に金を使う暇がなく貯まる一方だ
とA氏は言った。何やらイイことづくめだが、この手の話にリスクは付きもの。必ず裏があるに違いない。

「ハハ、警察のやっかいになるようなことはありませんから」
私の不安を見抜いたのか、A氏が笑う。手が後ろに回るようなことがないなら大丈夫だろう。
「ただ…ひとつ間題なのは」
「はい?」
「この仕事で一番やっかいなのは倫理観です。いい人は向いてない。あなたは大丈夫で
すかねえ」
探るように顔を覗きこむA氏。どうやらこれは仕事の説明を兼ねた面接のようだ。

「言われてもよくわからないんですが、自分がいい人間じゃないことは確かです」
「そうですか…。ところでここまで話して何の仕事かわかりました?」
「は?だって…」
取りたて屋じゃないの、と言いかけた私にA氏がポッリと咳く
「当たりやです」
「え」
「だから倫理観が問題になるって言ったでしよ。じゃあ、一から話しましょ」
アゼンとする私をそっちのけで、A氏が改めて話し始めた。
まずアダというのは文字どおり単に当たり役。と言っても発進間際のブレーキランプが梢えた瞬間に後ろから両手でバーンと大きな音が出るように叩だけだという。
そのターゲットを見つけてくるのがキジ。回していけば1日、10件ほどイケるらしい。
事故に見せかけたらリーダー、オヤの登場で、怒鳴りちらしてドライバーを責めたて、示談の方向へと持っていく。
アダのケガはもちろん、事前にバラまいた、壊れたカメラの賠償をするのもオヤの役目だという。
サクラは事故現場で

「どうしました?大丈夫ですか?」
と騒ぎたてドライバーにプレッシャーをかける役回りだ。それをオヤが

「たいした事ないですから」と追い返すのがお約束らしい。
キジがサクラの役を兼ねる3人チームの場合もあると付け加えた後、A氏はタバコに火をつけた。
「簡単でしよ。最初はキジなんかいいんじゃない?」
「::」
私は話の内容に圧倒され、返答できなかった。

「ついでに業界のことも説明しときましょうか」
「はあ」
A氏によれば、当たり屋業界は大きく分けて4つの組織に分かれ、彼らもその1つに属しているという。それぞれに弁護士が付いておりトラブればすぐに民事裁判へ。ちなみに、もしヤクザの車に当たった場合でも上の人間同士が話し合いで解決する体制ができ上がっているらしい。
「どうです?警察には絶対捕まらないし、楽な仕事ですよぉ」
私にヤル気があるのか反応を見ているA氏。確かにサポート体制も万全。条件も申し分ない。が、これはレッキとした犯罪である。いくら借金で困ってるからって、一線を越えていいものか。
迷う私にA氏が訪問販売員のようにたたみかけた。
「そうだ、捕まらないという秘密を教えてあげますよ」
A氏は言った。まずは同じ相手を何度も脅すのはタブー。

全てその場だけでケリをつける。そしてあまりハデに脅さないことも重要である。
同業者が捕まった際、即座に解散するというのもポイント。これで芋づる式に逮捕される心配もない。
最後の秘密は意外にも茶髪不可、スーツ着用で仕事をすることだという
「この格好にダマされるんです。アホですよ」

スーツの襟を正しながらケラケラとA氏は笑った。
「ところであなた借金あるんじゃないですか。幾らです?」
話の終わりにA氏が痛いところを突いてきた。
「…400万あります」
「ハハハッ。そんなもの2,3カ月で完済して貯金もできますよ」
もえ決定だ。迷う必要はない。「やる」とひとこと言ってしまえば、借金生活ともオサラバできるのだ。が、ノドまで出かかった言菜がどうしても出てこない。そして私は、代わりにこんな返事をしてしまったのである。
「少し時間をください」
「後日、連絡します」と言って別れたA氏から二度と電話が入ることはなかった。
やはり、少しでも二の足を踏んだ私は面接不合格で、他の人間を採用したのだろうか。それとも、用心深い彼らのこと、どこかで逮捕者を出し解散してしまったのか。