実態のないモノを信じ込ませるという意味では、霊感商法の右に出るモノはないだろう。昨今のバッシングにも関わらず
「アナタの運が悪いのは、付いてる霊がよくないから」なんて一言にころっとヤラれてしまう人はいまだに後を絶たない。霊媒師の他に宗教団体の教祖という肩書きを持つ彼は、群馬県の某都市を拠点に、過去５年間に渡って金を稼ぎに稼いできた。が、ここで氏の霊能力の問うても、ほとんど意味のないことだ。
「私自身、一応は手相とか仏典なんかは勉強してますけどね、別に霊がああしたこうしたってのはどうでもいいんですよ。寺の坊さんだって、とりあえす仕事としてお経上げて金もらってるんだから」
そう言い切る氏の風貌は、ウサン臭いペテン師というよりは実直そうなサラリーマン風。さしたる凄味も感じられないこの男に、口八丁で儲ける術があるとは思えないのだが。
ハハハ。でも今ドキいますか？派手な車で乗り付けて、キンキラ衣装でワケのわかんない念仏ギャーギャー唱えたりするの。いないでしょ。誰だって信用してくれないよ。大事なのはね、相手の目線と同じ場所に立ってあげること。いかにも「儲げてます」って感じじゃなくて、地味な家に住んで、質素な洋服着てね。ああこんな能力のある先生でも普通の暮らししてるんだなって思わせなきゃ、田舎だとスグに村八分食らっちゃうからね。だから仕事するときでも地味なスーツだし、車だってカローラだよ。まあ、これからする話を聞いてもらえばよくわかると思うんだけど、霊感商法ってのはね、何も大仰な見せかけしなくても、相手を信じ込ませる器量さえあれば金は入ってくるもんなの。
まず、人間ってのは身に付けてるモノがあるよね。それにケチつけられたらどうします？カチンと来るでしょ、ただ、それがケチじゃなくて忠告だったらどうなるか。私ね、この仕事始めたときからちょくちょく飲み屋で小銭稼がせてもらってるの。スナックとかキャバレーなんかの女性が付いてくるところね。スナックには、必ず友達を連れていきます。私のことよく知ってる人間。で、オネーチャンと飲みながら、ソイツにさり気なく
「この人、手相がわかるんだよ。ちょっと診てもらえば？」って振りを入れてもらう。そしたら私が「いや、こんなトコで何を言い出すんだよ」っていっても、「やってやって」とせがまれるハメになっちゃう。ここからだよ、仕掛けるのは。彼女らの手相見せてもらってあーだこーだウンチクたれながら言うんだよ。
「イイ指輪してるね、ソレいつ買ったの」って。お店の女性ってのはね、指輪とかのアクセサリーを身に付けてるもんなの。ほぼ100％そうですよ。だからこそ、こう言われればドキッとするのさ、
「ソレ買ってから嫌なことなかった？そのまま付けてると、なんか良くないような気がしてならないんだよねー」大半の女のコはそっかなって反応しか返ってこないけど、最初はそこまでにとどめておその次店来たときに、同じコを指名して席に呼ぶんだ。
「アレ、こないだの指輪まだ付げてるの？ヤメなって。持ち物ってのは人の運命を変えるっての知ってるでしょ。絶対イイことないから」
女のコも「なんで？なにがイケナイのかしら」って聞いてくるよ。それに対する私の決まり文句ってのがコレ。
「だってさつきから見えるんだよね、子供さんがね、ママ寂しいよって泣いてるのが」これがもし当たってたら、言葉が出ませんよ。場合によっちゃ半泣きしてるからさ。あのね、25才過ぎた田舎のホステスってだいたい結婚してて子持ちだったりするもんなの。バツイチってこともすごく多い。男にはわからないかもしれないけど、この言葉ってホステスには予想以上に重いんだ。
「アタシ、実は子供引き取ってないんです」とか
「オレさ、実は霊媒みたいなこともやっててね、お金は少しでいいから、お祓いと運の開ける指輪を紹介してあげることもできるよ」って言えばまあ7、8割は乗ってくるよ。彼女たちってのはなんだかんだで金持ってるから、お祓いで20万は確実に取れる。指輪は知り合いの宝石商を紹介してマージンをもらったり、自分で安いの買ってきて売りつけることもあるし。
この前なんか5万のを50万にして売っちゃたもん。廃れた旅館を回り、「ヘンな音が聞こえたよ」宣伝などしなくても客はいくらでも見つかるというのが氏の持論のようで、氏はときどき、遠征と称して、地元を離れてカモを探しに出かけることもある。目指すは、古い旅館がひしめく温泉地だ。
なんで旅館かっていうと、まずある程度の金は必ず持ってるってのと、たいていは女将が仕切ってるでしょ。こう言っちゃ語弊があるかもしれないけど、女の人の方がやっぱり霊とかに敏感だから。温泉地に行くと、必ず流行っていない旅館があるでしょ、1晩宿取ればスグにわかるよね。そうでなくとも、地元の観光組合に
「大所帯で泊まりたいから、いつ行っても暇そうな宿を数えてくれ」
って言えば確実だよ。そこへまず、私の協力者でもある女性、まあ早い話が愛人みたいなもんですが、彼女を行かせる。で、朝メシでも貰った後女将にソレとなく耳打ちさせるの。
「昨夜、ガサガサしたり、人の声みたいなのがして寝つけなかっだの。何かあるんじゃない？」当然、彼女は霊媒師なんかじやない普通の女性。ただ、なにかヘンな霊気を感じただけ。そこが大事なんで。だって、ちゃんとした霊能者だったらそんなとこ最初から泊まったりしないよ。彼女には
「こないだ風水に詳しい先生に家を診てもらったの。まだ名刺持ってたから、女将さんにあげますよ。よかったら話してみれば？」ってひと芝居打ってもらう。これを寂れた旅館回って何軒か立て続けにやっていくとかかって来るんですよね、電話が。そこでやっと私の出番だ。すでにこの最初に電話が来た段階から勝負は始まってるんだよ。実はね、協力者の女性には自分が泊まった旅館の資料持って集めさせておくの。それこそ法務局回って土地の謄本だとかを揃えてね。すると、家族構成から地主の名義人、図面なんかもスグにわかるでしょ。これで何をするかって？透視ですよ。
「北向きになってるんだなあ」とか「旦那さんにたたれてもつ１０年ですか」なんてボソボソいってると、相手黙っちゃいますよ。なんでそんなことまでわかっちゃうんだって。それが私の透視で
「いやあ実は私、ある程度見えてるんですよ。お宅さんの物件の悪い部分がね。お客がはいらないのもよくわかります」
でもね、絶対に私が除霊して差しあげましょ、なんて強引に押すのはダメ。
「もし、お気持ちがあるようでしたら、力をお貸しします」みたいに少し謙虚な言い方の方が正解だね。旅館の除霊は最低100万取ってる。
静岡県のあるビジネスホテルなんかその倍は儲けたよ。そこはね、従業員が不祥事起こしたり、知らないで暴力団の客泊めたりして、ほとんど潰れかかってた。もう最初の電話の段階からしてワラにもすがるような弱り様なの。50才のオーナーがどうにかならないかって泣きついてきてさ。
おまけに「3日かけて除霊したい」っていったら、スグに休館にしてくれてね。あっコレはイケるんじゃないかと。そのときは現地まで足を運んだけど、旅館に入った瞬間に「ちょっと寒気がする」って逃げ出して、玄関の外で話した。この時点でオーナー、もういいなりですよ。で、まず方角が云々って話をしてね、次に中の部屋をひとつひとつ見せてもらった。
その間も「幕末辺りでちょっとひともんちゃくあったかきとかね、まあ要はソレっぽければなんでもいいんだよ。実際の除霊は結構大変でしたね。その旅館、部屋が全部で50室あってさ、1部屋だけ「開かずの間」ってことにして、そこに49部屋の悪霊を全部追い込んだの。49ってのがまた説得力あるでしょ。これもパンフレット見ながら前の晩考えたネタだけどさ。1部屋20分、延々お経あげてね、開かずの部屋には米と酒をその都度そなえさせて。いや、あれはホントに疲れたな。でも、3日かけて200万だから。やらない方がバカでしょ。コツはが薄利多売。宗教団体で儲けるが当初は教祖の氏と協力者の女性2人で始めた草の根教団だった。
5年もこういう商売で食ってるとね、常連の客ってのが寄ってくるもんなの。それになんといっても、定収入が欲しい。そのためには宗教興して信者からお布施を取るのがいちばんかな、と。だから宣伝打たなくても、30くらいはラクに集まりましたよ。とにかくわかりやすいよ、ウチのは。
難しい教典や厳しい修行もいっさいないし、お布施だって月謝2万円ですから。ちょっとしたお戒いとか地鎮祭は3-5万。安いでしょ、でも、これくらいがちょうどいい。ダマされたって騒ぐような額でもないし、定収入としてもそこそこ儲かる。奉ってるのは、富士山の奥地で取れる霊本でtこの世でいちばん汚れていない水ってのは、人の心ぜそのまま映し出すってね。
活動としては、月に1回マンションに人集めてね。そこで、報告会ってのをやらせるんだよ。例えば「娘の縁談がまとまらない」とか「仕事が上向きになった」とか、でそういう悩みを打ち明けその中で「この霊水少し飲ませていただいたら、病気の痛みがだいぶ軽くなりました」とか言うやつが必ずいるの。サクラです。学生とか主婦を時給千円で雇ってね。2時間くらいかかるような遠方から呼んで。近くだと顔ワレちゃうじゃないですか。そりゃもうみんなこぞって感心しますよ。
「へえー、霊水ってのはやっばり大したもんなんだ」っていいながら。ただ、時間帯で人数分けしてる。1回せいぜい4、5人くらいですか。毎回別の信者で構成するようにして、同じ信者同士が極力顔をあわさせないようにしてるんだよ。これは、教団に対する不満を抑えるため。人間、寄り集まって言い放題し始めると、1足す1が10にも20にもなっちゃうからね。ちなみに、その霊水ってのは、500ミリリットルで3万円高い？ただね、私信者には口を酸っぱくして言ってるんですよ。
金なんかは別にいい。お布施は自分の心持ちで構わない。それより、一人でもウチのことを紹介した方がもっと功徳があるんだ、ってさ。金なんか要らないってのは聞こえはいいだけど、ある意味で逆説的な物＝口いであってね。私の場合は薄利多信者の戦法で儲けるゾってだけなんだよ。
信者数ですか？ここ半年で70人くらいまで増えてますよ。経費抜いても月々80万は入ってくるから。ヘンな話、お米とか野菜なんかも信者のお供えものでほとんど賄えるし。ま、巷じゃ税金対策のために宗教法人にになろうって躍起になってる教団もいますけど、正式に登録しちゃ、っと、自分の本名から何から全部明かさなきゃならないワケでしょ。百円のミネラルウォーター買ってきて3万でうりつけるよっなヤツがわざわざ自分から足付けるワケないじゃないですか。
