本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

存在しない車にひき逃げされた謎を追う

息子が交通事故にあった。

友達も電柱に後頭部を強打したらしい。状況を聞くに、息子にも非はあるが、悪いのはどうみてもドライバー。十字路では子供の飛び出しがないか、万全の注意をして当然だろう。しかし、病院に息子をひいた運転手の姿はなく、代わりに助手席に座っていたという〈山田〉と名乗る50代半ばの中年女性かいた。そしてこの女、トンデモナイことを言い出したのである。

「あんたたちの子供が悪いんですよ。一時停止もしないで車の前に飛び込んできて。迷惑を被ったのはこっちなんですからね」

妻、祖父母、学校の担任ともババアの勢いに負け、いいように丸め込まれている様子だ。そこにつけ込み、ババアがさらに責め立てる。私は完全にキレた。

「おいーその言い方はなんだー」「なによ、あんた」

「ウルセーーどっちが悪いかはっきりさせようじゃねえかよ」と、そのとき、「いい加減にしないか」突然、警官が我々の間に割って入った。

「なんだよー」「いいから、こっち来い」

押し問答の末、その場はどうにかおとなしくしたものの、怒りはなかなかおさまらない。が、その興奮状態のなかでも、私は山田にしっかり連絡先を書かせるのを忘れなかった。

住所、会社名、会社の電話番号、携帯番号。もちろん息子をひいた男の名前も。男は今永井というらしい。

「どういう関係なんだ?」「うちの会社の社員よ」

「どうして、ここにいないんだよ」「その、ちょっと出掛けてて」

なんで人を2人もひいた男が出掛けてるんだ。フザけんなよ。…まあいい。名前も連絡先も押さえている。トンズラされることはあるまい。息子は肋骨に小さなヒビが無数に入ったものの、入院の必要はなし。その日、私たちはひとまず帰宅することにした。
なぜ電話1本かけてこないのか

翌朝、私と息子は警察署へ出かけた。事情聴取のためだ。

「あ、待ってました。お父さんはそちらへ。まず息子さんの話を聞きますから。お父さんは黙っててくださいね」

対応してくれた2人の警菅のうちー人は、昨日、病院で私を制した桜田巡査部長である。

「じゃあ、大輔君、事故に遭ったときのことを最初から教えてくれるかな?」

こうして始まった息子の事情聴取だが、途中からどうにも様子がおかしくなった。

「一時停止しなかったからこういう事故が起こったんだよ」

「2人乗りだとね、スピートだって出ちゃうんだよ。それにハンドルも重たくなって、自由に動かせなくなるだろ。悪いのは僕ちゃんなんだよ」

大の大人2人が小学校2生生の息子を次々と責め立てる。ヒドすぎるーと怒りが湧き上がってきたそのとき、息子がいきなり形相を変えて立ち上がった。

「てめえよ2人乗りでこいでみろよ。重たくって死にそうだよ。スピート出てるっていったって、上り坂だかりほとんど止まってるみたいなもんだったんだよ。向こうが止まってくれると思ったのに、いきなり突っ込んできてよ。本当に死ぬかと思ったんだからなーパパ、もう帰りうぜー」

「わ、わかった。ま、ちょっと落ち着きなさい」

興奮する息子をなだめた後、私は桜田巡査部長に聞いてみた。

「息子をひいた男からまだ連絡がないんですよ。どうしたらいいんですかね」

「あ、そう。じゃあ、永井の住所と連絡先、車のナンバーを書いておくから」

渡されたメモを見ると、なぜか住所と電話番号が山田からもらったものと違う。

「どういつことですか、コレ。どっちが正しいんです?」

「こっちだよ、警察が書いた方に決まってるだろ」

「わかりました」結局、その日は永井からも山田からも連絡はなかった。なぜ電話ー本かけてこなんだ?いよいよしびれを切らした私は、翌朝、山田のメモにあった会社に電話をかけてみた。

「しかし…現在、お客様の都合により通話ができません」

続いて、警察からもらった番号へ電話。と、こちらはすぐに相手か。

「永井さんはいますか?」「永井?そんな人ウチにはいないよ」

従業員らしき男が答える。「じゃあ、山田さんはいます?」「社長なら今出てるよ」「社長?」「えーっと、社長さんってあの女性の方ですか」

「あんた何言ってんの。ウチの社長は男だよ」つまり、山田のババアは社長夫人ってことか。

とにかく、永井も山田も会社にはいない。となれば山田のメモに記されていた方に電話するしかない。

「永井?知らねえよ。間違い電話じゃないの」

電話に出たのは、生意気な口をきく若い男性だった。

「じゃあ、山田さんは?」「オレは息子だからわかんないよ。お前、誰だよ」

息子?なんで山田のババアは自分の息子の携帯番号を数えたんだ。まったく、フザけた女だ。それにしても、警察から教えてもらった電話番号と山田のメモにあった番号がなぜ違うのか。そして、川崎工業の従業員、山田の息子とも、なぜ水井という人物を知らないのか。とこか不自然だ。電話を切った後、私は再び警察署に足を運んだ。

「…というわけで、全然連絡が取れないんですよ。保険のこともあるし、困るんですよね。どうしたらいいんですか」
「じゃあ、私か代わりに話を聞いてきてあけるから」

桜田巡査部長が涼しい顔で言う。

「オレに任せてくれていいから。昨日も永井と会ってきたしな」

「えーあ、そうなんですか。でもなんで水井はウチに連絡してこないんですかね」

「うーん」「事情聴取もしたんですよね」「いや、実はまだしてないんだ」

してない?そりゃどういうことだ。交通事故が起これば、その場で現場検証をして、加害者を事情聴取するのは当たり前だろう。

「いや、なんか向こうが忙しいみたいだったから…」おいおい。こっちはてっきり事故当日に済んでるものだと思っていたのに。それを向こうか忙しいからだと。

「大丈夫だよ。ほら、ここに永井の免許証のコピーかあるから」

50代半ばのヤクザ風が映っている。

「そう。心配しなくても平気だよ。じゃあ、こっちからまた連絡するから」

こうしてせきたてられるように家に戻されたものの、それから何日たっても警察からの連絡はなかった。マジメに動く気はあるんだろうか。不安になった私か、改めて署を訪ねてみると…。

「今、調査中だから」「調査中って、どういうこと?」

「いやあ、悪い悪い、もうちょっと待ってくれ」…ヒドイ。ヒトすぎる。あまりに不誠実すぎやしないか。もうこうなったら、自分で調べてやる。一方的に悪者扱いされた息子に報いるためにも、徹底的にやってやろうじゃないか。仕事柄、私には検察や新聞社にも知り合いがいる。彼らを頼れば何とかなるかもしれない。
存在しない車が息子をはねた

まず私は、すでに5万近くもかかっている息子の治療費をどうにかしようと考えた。本来なら、永井の強制保険(ドライバーは全員加入させられる)により、その費用は支払われるはず。が、永井と連絡一つ取れない状態では、それもとうてい期待できない。やはり自分で動くしかないのだ。さっそく、私は横浜市ニ俣川にある安全協会へ出向いた。ここで事故証明をもらい、そこに記されているはずの保険会社(併せて、強制保険の番号も記されている)へ連絡、所定の手続きを踏めば、保険が降りるはずだ。しかし…。「保険の欄が空欄なので出せませんね」「空欄って?」

「はい。ですからこの事故証明を発行しても、保険は下りないんです。紙切れ同然というか・・。とにかく不完全な事故証明を出すわけにはいかないんです」

「どうして空欄なんです?」「いや、そういわれましても」

「とにかく出してください。紙切れ同然でもいいから。オタクらは出す義務があるはずでしよー」「…お待ちください」

しぶしぶ安全協会が発行した事故証明を見ると、確かに保険番号ともに空欄になっていた。どういつことなんだ。が、おかしいことはそれだけじゃない。

事故翌日、私が警察からもらったメモに書かれた車のナンバーと、事故証明のそれが異なるのだ。保険会社は書かれていない。車のナンバーは食い違う。調べれば調べるほど謎だらけだ。

翌日、とりあえず事故証明の件だけは報告しておこうと、署に桜田氏を訪ねる。

「保険の欄が空欄になっていたんですよ。どうしたらいいんでしょう?」
「うーん、そうだな。治療費はどれくらいかかってるの?」

「5万円くらいですけど」「5万か。それなら私が立て替えてやるよ」

「いや、ご厚意は有り難いんですけど、・・。でも私は、永井に払ってもらいたいんですよ。いや、それより何より、永井に謝ってほしい」

だって一度も家に顔見せないんですよ

「じゃあ、こうしよう。私が先方に行ってお金もらってきてあげるから」パーの食い違いの件は黙っていた。私の中に警察への不審感がどうしようもなく高まってきており、とても話す気になれなかったのだ。

さて、次はどうするか。そうだ、車検証だ。みなさんもご存知のように、どんな車でも車検証がないと公道は走れない。この車検証か手に入れば、車の所有者・住所を特定できるのだ。さっそく行政書士に頼み、警察のメモに書かれたナンバーの車検証、及び事故証明のナンバーの車検証を取ってきてもらう(車検証を取るには行政書士の資格が必要)。

まず警察署か書いたナンバーの車検証。名前はなぜか永井ではなく岡村だった。有効期限ー年以上も前に廃車になっている。この車は違う。じゃあ、事故証明の方はどうだ。見れば、こちらの有効期限は期限内である。車種は白のフルーバード。この車が息子をはねたに違いない。ところが、車の所有者の名前は永井ではなく「岡村」。さらには、備考欄に「16条抹消済」と記されていた。「16条抹消済」とは、他人に譲渡してもいけないし、中古車として売ってもいけないことを意味する。要は、解体が運命づけられた車なのだ。つまり、2つの車検証から導き出された結論は1つ。

警察が出したナンバーの車、事故証明に記されていたナンバーの車とも、本来、公道を走ってはいないはずの車なのだ。なぜ存在しないはずの車が息子をはねたのか。
「当事者同士で適当に処理してよ」

ワラをもすかる思いで、ブルーバートの所有者「岡村」に電話をかけてみた(番号は車検証に載っていた住所から104に間い合わせ判明)。

「……ということで、困ってるんですよ。岡村さん、白のブルーバートはとうされたんですか?」「オレは知らないよ」「知らないって・・」

「だって、あの車は新車を買ったときに下取りしてもらったんだ。もう半年も前の話だからね。そのあと車がどうなったかなんてわかんないよ」

「どこで下取りされたか覚えてます?」「協和自動車だったかな」

すぐ協和自動車に電話をかけ、事情を話す。

「で、おたくが下取りしたという話を聞きまして」

「なんでうちのお客さんにそんな説明をするんだー」

「私だって困ってるんですよ」

「警察ならともかく、あんたなんかに答える必要ないよー」

店長を名乗る男の受け答えはいかにもぞんさいだった。が、ここでキレるわけにはいかない。

「ですから、私は下取りした車をどうしたか教えてほしいだけなんです」

「お前、まるでウチが不法に車を処理したみたいな言い方だな」

「いえ、決してそんなことは。ただ、警察も頼りにならなくて本当に困ってるんです。何とか何とかお願いできないでしょうか」

粘りに粘ったものの、店長は「答える必要なし」の1点張り。
確たる返事はもらえず、結局、車のセンは断たれてしまった。どうにも調査に行き詰まった私は、改めて桜田巡査部長の元を訪れた。これまでのいいかげんな対応に相当頭に来ていたが、すでに6月下旬。いくらなんでも永井には会っているだろう。

しかし、すがる気持ちで署を訪れた私に、彼は信じられないコトバを口にする。

「永井とはそっちで直接交渉してよ。こっちも忙しくて時間ないんだよね」

「・・保険取りに行ってくれるって話じゃなかったんですか」

「もう永井は書類送検したからさ、あとは当事者同士で適当に処理しちゃってよ」

書類を送ったら関係ないのか。アンタ、それでも警官か。よし、もうこうなったら、最後の手段に出るしかない。私は検察庁で働く友人に、「警察署か送った書類を調べてくれないか」と依頼した。もちろん、検察庁が一般人に書類内容をリークするのは法的に許されないが、警察が動かないならこっちも非常手段に出るしかない。事情を聞いて納得してくれた知人は、すぐに書類を持って近くの喫茶店に現れた。

「あ、これだ。えーと…あれ?人身事故の扱いになってないぞ」

ファイルをめくっていた知人が手を止め、不思議そうに言う。

「人身じゃないって、どういうことなんだ」「この書類だと物損になってるな」

「だって息子も友達もケガしてるんだぜ。おかしいよ、それ」

「そういうことなら、書類を書いてくれるか。不服な点を列挙してくれるだけでいいからさ。それを上の人間に渡しておくよ」

すぐさま、私がこれまでの不審な経緯を書き連ねた申立書を検察庁の友人に託したことは言うまでもない。
もしや免許証が偽造されてるんじや

一方、私は「住所」の線から永井に近づこうとしていた。警察かりのメモ、山田のババアのメモに記された住所は、同じ市内にもかかわらず、なぜか名が食い違っている。まずは、住民票で確認してみよう。

さっそく市役所に出向いた私は、『交通事故の件で』と住民表を請求した。が、窓ロの女性は、2つとも「そういった方は住んでいらっしゃいません」という。
どういうことだろう。特に警察方の住所は、運転免許証コピーに記載されていたもの。にもかかわらず水井がいないとは。
〈ひょっとして…〉私はある仮説をもとに、警察署の生活安全課の友人(桜田巡査部長たちとは繋がりがない)に協力を依頼した。

「あのさ、水井が最近落とし物をしていないか調べられる?」

もちろん、これまた法的にマズイが、私の困った様子に友人は

「そういう事情なら仕方がないな」と申し出を承諾。そして、永井が免許証を落としていた事実を教えてくれたのだった。私自身、過去に免許証を2回も失くしていてよく知っているのだが、免許証の『免許証番号』は紛失の度に末尾の数字か増えていく。

例えば、一度も免許証を紛失していなければ免許証番号の末尾は「0」。私の場合は「2」だ。念のため、桜田巡査部長に頼んで永井の運転免許証のコピーを見せてもら、つと、末尾はやはり「1」。永井が免許を紛失しているのは間違いない。

次は、その免許が正規の手続きで発行されたかどうかだ。これは、警察独自のコンピュータネットワークで調べてもらうことにした。

「その免許は正規に発行されたもんだね」

「そうか。…ところで免許証を失くしたとき、どうやって再発行するの?」

「簡単だよ。警察に届けたときの落とし主番号と自分の住民票を持っていくだけでいい」
「その2つがあれば、誰でも、再発行してもらえるのかな」「ああ」

「前の免許証の写真と比べないの?」

「しないよ。だって前の免許証の写真はないから、比較しようがないじゃない」
「じゃあ、年齢が近けりゃ別人か行っても再発行してもらえるってことも」

「ありうるだろうな」

やっぱりそうかー断片的な事実が、やっと一本の線につながった気がした。
永井=山田社長、だとすれば…

息子をひいた水井は、実は山田ババアの夫、つまり、社長なのではなかろうか。だってそうだろう。あらゆる手を尽くしたにもかかわらず、永井にたどり着けないってことは、最初からそんな人間はいない、と考えるのが自然ではないか。

実は私が、永井の免許証が再発行されているかどうか調べたのも、この仮説を検証するためだった。つまり、山田社長は自分と年齢が近い水井と共謀。水井が免許証を紛失したことにし、警察から落とし主番号をもらう。山田社長はこの水井の落とし主番号と住民票で免許証を取得した・・ただ、これはあくまでも私の仮説でしかない。なんらかの方法で証明しなくては。どうするか。

打開策を考えあぐねていたところ、たまたま警察署に勤める友人が私の家にやってきた。このとき息子の事故の話になり、「山田っていう男がさ」と漏らすと、友人が驚いたように言った。

「山田?〇〇工業の?」「ああ」「そいつなら今、警察署に入ってるよ」「え?」

「詐欺かなんかで捕まったらしくてさ」「ホントかよー」

マイった。肝心の本人がブタ箱じゃ、永井=山田社長であると証明しようかない。このままうやむやになっちまうのか…。いや、アイツがいる。幼なじみの某大手新聞社の友達が。ヤツならなんとかしてくれるに違いない。

「で、この事件について新聞社のルートで調べてもらえないか」

「確かに怪しいな。うん、わかった。何とかやってみるよ」

多忙な彼がどこまで力になってくれるのか。正直、さほど期待していなかった。が、その後、友人が取った行動は驚嘆すべきものだった。

まず警視庁に出向き、警視長クラスの人間に面会、事の真相を確かめるよう圧力をかけさせ、加えて、自分でも「新聞に発表するぞ」と署長を脅したのだ。観念した署長がすべてを洗いさらい白状したのは、それからまもなくのことだった。
警察は犯人を取り逃がしていたー

事の真相はこうだ。息子の交通事故の通報を受けた桜田・山口の2人の巡査部長が、現場へ急行した。と、そこには加害者である山田社長と妻の山田のババアが。当然、巡査部長2人は免許証の提示を求めた。免許証の名前は『永井』。私の予想どおり、山田社長は、違反が重なり免停を食らっていたため、知人の永井と共謀、永井になりすまし免許証を再発行してもらっていたのだ。

続いて警察が、山田社長に車検証の提示を求めたところ、彼は
「車検証は会社にある。家はすぐ近くだから取りに行ってくる」と言う。実際、事故現場と工業は100メートルほどしか離れていない。免許証も預かったことだし大丈夫だろうと、警察は山田社長に取りに行かせてしまう。ところが、免許証の不正取得が発覚するのを恐れた山田社長は、車検証を取りに行く振りをし、そのままトンズラ。どこかへ消えてしまったのだ。

要するに、警察は加害者を取り逃がしたことを隠蔽し続けようとしていたのだ。もちろん、「昨日、水井に会ってきたから」などという桜田巡査部長の言葉も全部デタラメ。桜田巡査部長たちは、私同様、永井こと山田社長を探し続けていたのである。