本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

人間死ぬと重くなると聞いてたが死体はえらく重い

ツレと始めた工務店が傾きだしたのは、ご多分に漏れず建築不況のせいだった。バブルの時代の繁盛は遠い昔の話。たまに頼まれる現場仕事も、そのほとんどが半金半手、あるいは全額手形で、現金など口クロク入っちゃこない。自然、社員の給料も滞りがちになり、もう死んじまおうかと話す毎日だった。

なんだよ、水くせえなあ。オレが金を回してやる

××組の幹部、堀川とスナックへ飲みに行ったのはそんなある日のことだ。建設業界にヤクザは付き物。工務店をやってりゃ、放っておいてもスジ関係者と知り合いになるってもんだ。

「いやあ、そんなこと言われたって、あんたらの金利は月イチだろ。とてもじゃないけど手なんか出せねえよ」

「いやいや、サービスしとくって。月3歩でどうだ」

「3歩か・・」倒産寸前の弱小工務店に金を貸すところなど、他にあるわけがない。相談の結果、オレたちは堀川の金をつまむことにした。すべては、これが始まりだった。
アイツの依頼は断れない

ある年の夏。事務所を閉めようとしていた夜8時ころ、堀川から露詰が入った。

「悪いんだけどよ、ちょっと仕事を頼まれてくれないか」そのロ調から、現場仕事、じゃないことはすぐにわかった・何をやらせよっっていうんだろ

「いや、組の電話じゃサツが聞いてないとも限らんしきかなりヤバイ仕事なのは間違いない◇断ろう。」と、いったんはそう思った。しかし、ヤツからつまんだ金はすでに400万。機嫌を損ね、キツイ追い込みでもかけられた日にゃ、それこそ立ちゆかなくなる。ここは話だけでも聞いておくべきだ。

「ともかく今ソッチに行くから」

田舎道を愛車ですっ飛ばし、××組の事務所へ。堀川はー人で待っていた。
「いやあ、わざわざ悪いね」

「で、仕事ってなんだよ」「運びだよ」「運び?」

聞けば、最近さる事情で3人の男を技致し、とある山の中に監禁しているのだという。「でな、そのうちの2人をダムのタコ部屋に売り飛ばすことになったんだよ。この送迎役を引き受けてくんねえか」

「なんだそりゃ、若い衆にでもやらせりゃいいじゃねえか」

「それがそうもいかねーんだよ。オマエだってウチの事情は知ってるだろ」ああ・・」2日ほど前、堀川の組は敵対する組と派手な乱闘騒ぎを起こし、多くの逮捕者を出していた。難を逃れた幹部連中は地下に潜伏中。つまり、動けるヤツがいないってわけか。「今はだらしねえのしか残ってないんだ。このテの仕事は腕っぷしと落ち着きが肝心だからな」

幸か不幸か、オレはヤツから信頼されているらしい。引き受けるしかねえか・

「どんな連中をそろえればいいんだよ」

「お、やってくれるか。まずオマエだな。その他はロがカタくてキモの座ったヤツが2人ほしい」「いつ」「今」

「いやあ、そりゃムリだ。今からじゃ若いモンの都合がつかねえよ。明日でどうだ?」わかった。そうしよう。オレはこうして、ヤッカイな仕事を請け負うことになった。

手伝わせるのは、カラテ部出身の田沼、ヤンキーあがりの跳ねっ返り川岸の2人。ヤツラなら、腕力もあるし口もカタい。
人里離れた廃村に3人の男が監禁されていた
翌日、タ方6時。早々に現場を切り上げ、××組で堀川と合流。ヤツの運転するベンツに先導され、オレたち3人が乗ったバンは目的地へ向かった。本道から逸れた山道を走ること数時間、着いた先は山の中腹にある廃村だった。

周囲を見渡せば、畑には雑早が生い茂り、わらぶき屋根の人家も壁がボロボ口にはがれている。しばらく林道を歩くうち、木々の隙間に灯りが見えてきた。木造の古びた2階建ての入り口に、2人の組員が立っていた。警戒は厳重なようだ。

「何かあったか」「いえ、特には」

建物の中に入ると、クワやスコップ、人工肥料などが並べられている。前は農機具置き場だったらしい。

「こんなとこでも、電気と水道がまだ通ってんだ。絶好の所だろ」

自慢げな堀川の後に続き、朽ちかけた階段をミシミシいわせながら2階にあがる。と、そこは8畳のガランとした部屋。中に、5人の男がいた。木刀を持っている2人は、見張り役の若い衆。残り3人が監禁された連中のようだ。30の痩せ型、同じく30代前半のやや髪の薄い男2人が、足腰を縄で縛り付けられたまま椅子に座らされている。もうー人、ゴザの上でガックリとうなだれる背広姿の50代は、手足が自由だ。オレたちが、,運ぶのは椅子の2人の男だった。

「いいかオメ工ら、ニ度と日の目は見れねえからな。楽しみにしとけ」

堀川の指示で、まず1人目の痩せ形の男に目隠しと手錠をかけ、外に連れ出す。命までは取られないとでも思っているのか、わりと素直だ。が、男をバンの荷公ロに乗せ2階に戻ると、2人目の男と組員たちが取っ組み合いになっていた。縄を解いた途端、抵抗し始めたに違いない。

「冗談じゃねえ、何がタコ部屋だ、バカヤロウー」

「テメエー・この期に及んでジタバタするんじゃねえー」

捉える組員が必死なら、逃げる男も必死。当然だろう。誰だってタコ部屋なんぞに行きたくない。オレたちは、そのドタバタをただ黙って眺めていた。運び、以外にはクビを突っ込む気はない。
若い衆が男の顔に一発パンチをお見舞いしたと、男がグラっとよろめき背後にフッ倒れた。見れば、ひくひ<と痙攣し、口から白い泡を吹き、白目をむいている。よほど当たりどころが悪かったのだろうか

「ヒイ、助けてくれ」「うるせーー」

慌てふためくコザの男に、数回ビンタをかます。男は力無くヘタリ込んだ。
その場から逃れるように外に出てタバコを吸っていると、まもなく堀川がやって来た。「その男はちょっとまだ動けねえな。予定は狂っちまったが、とりあえず」

「わかった・・」

目隠しと手錠をされた男を転がしたまま、バンを出す。可哀想に、これからタコ部屋に売られるのだ。

「でも、コイツら、なんでこんなことになっちまったんだよ。やっば金がらみか」「ん、ああ・・」

堀川はあまり話したくないようだったが、どうやら例の3人が××組の経営する金融屋に悪質な手形を掴ませ、3千万もの損失を与えたらしい。

「若い2人は文無しだからタコに売るしかねえけど、あのハゲオヤジの方はたっぷり絞り取らせてもらうよ」

3時間ほど山道を走り続け、ダムの現場に着いた。林の中のバラックがタコ部屋のようだ。男を抱え上げ、現場の親方に引き渡す。代わりに、堀川は分厚い封筒を受け取っていた。

「5本(500万)ぐらいにゃなった。30代じゃ3本がせいぜいだよ」

上機嫌な堀川を車に乗せ、山道を引き返す。先の廃村に辿り着いたときには、すっかり夜が明けていた。

「じゃ、ウチらは帰るわ」

「おう、これ手間賃な」

渡された30万から川岸と田沼に10万ずつ与える。

「今日のことは絶対にしゃべるな」といい含める。ヤツらもバ力じゃない。口をすべらせたらどうなるかぐらい、わかるだろう。
翌日の昼間、徹夜明けの重い体で現場に出ていたところ、携帯が鳴った。堀川だ。

「もう一晩だけ付き合ってくれねえか?」

「なんだよ、もっ仕事は終わったはずだろ」

それが運んでほしいもんができちゃって一一一いい方にイヤな予感が膨らむ。

「ほら、昨日の泡拭いたアイツ、わかるだろ」

やっばりだ。電話じゃはっきり言わないまでも、恐らくやあの男、当たりどころが悪くて死んじまったに違いない。そういうことならオレの一存じゃ決められんよ。社長(ツレ)にも相談しないとき
「わかった。すぐ行くから」

1時間後。ウチの事務所にやって来た堀川は、オレと社長を前にズバッと切り出した。「港に船が待ってるから、そこまでズタ袋を運んでくれりゃいいんだ。他は何もない。簡単だ。

「こんなことぐらい、自分のとこの若い衆にやらせりゃいいじゃねえか」

しかし堀用も折れない。

「前にも言ったけど、信用できるヤツがいねえんだよ」

身内以外の人間に頼む方がよっぼどリスキーな気がするが、早い話、自分らの手を汚したくないのだろう。

「いやあ、悪いけど、そりゃできねえ相談だ」

そんなアブない仕事が引き受けられるわけねえだろ。社長が突っばねると、案の定、堀川は切り札を出してきた。

「おまえらそんなデ力イ口きくってことは、貸してる金、今すぐ返せるんだろな」

「…そんな金はねえよ」
「だったら、やるしかねえだろ」

「いや、だけど、ウチら力タギなんだぜ。あんまりヤヤコシイ話に巻き込まんでくれ」そう言って社長が力無い笑みを浮かべたところで勝負は決まり。結局死体はオレと川岸の2人が運ぶことになった。
約束の深夜11時、例の廃村に到着。今夜は、建物の入り口に見張りがいない。2階にあがると、堀川と若い衆が3人。50代の男は顔中に青あざを作り、床に転がされていた。男はピクリとも動かない。もしかして、コイツも・・と、そんなオレたちの不審を悟ったのだろう。堀川が男の腹をおもいっきり蹴った。途端に「ウー」と力無い昧き声を漏らす。男しんじゃいねえよ。んじゃ、行くか。もう積んであるから。

見張り1人を残し外に出ると、駐車場に白いバンが1台が停まっていた。車の荷台には大豆などの運搬に使う大きな麻袋がーつ。死体はこの中だ。聞けば、堀川は同行せず、オレたち2人と若い衆2人の計4人で運ぶらしい。結局、ヤツも危ない橋は渡りたくないのだ。港に船が着くのは夜中の2時。車で30分ほどの距離だから、まだー時間以上も待機しなければならない。

「法定速度はきちんと守ってくれな。うっかりスピード違反なんかで捕まったらコトだからさ」

「おいおい、こんな夜中にスピード守ってる車なんかー台もねえぞ。10キ口ぐらいオーバーさせといた方が自然なんじゃないか」

なるほどな。じゃそうしよ一

「それよりオタクの若い衆の格好もなんとかなんねえか」

見るからにヤクザ風の派手なニットの上下。バンの後部座席にこんな男が乗ってるのが見つかったら、一発で怪しまれる。作業着を調達してきてくれよ。それなら現場帰りのマイクロバスに見えるだろう。

「わかった」「それと小屋の中に置いてあったヘルメットとシャベルも持公ロに運び込んでくれ。こうすりゃドンゴロスが入っていてもおかしくないねえから」

我ながら素人とは思えない的確な指示。人間、リスクを背負えばかくも過敏になるのだ。
1時20分。いよいよバンが農村を出発。ドライバーはオレが務める。検間に引っかかった場合を考えれば、他人には任せられない。「あ、その角を曲がってください」隣の若い衆の指示に従いハンドルを切る。ボリュームをめいっばい上げたラジオの音楽。何か音がしてないと、どうにも落ち着かない。腐った臭いがするのは気のせいか。みな口も開かない。30分走って港に到着。背後にセリ市場、眼前の海には小さな漁船が30隻ほど浮いている。

「船に運べばいいんだよ?」

「ちょっと待ってください。合図することになってるんで」
助手席の若い衆が手を伸ばし、ヘッドライトを3回パッシングさせた。少し間を置き、また3回。と、暗がりの中から60近いジイサンがヌッと現れた。コッチへ来いと手招きしている。

「いきましょ」

バンから降り、4人がかりでドンゴロスを運び出す。人間死ぬと重くなると聞いてたが、これがホントにえらく重い。ジイサンの後を付いて行くと、港の隅に大きめの漁船が停泊していた。ジイサンの船か。ということはこのジイサン、漁師か。わざわざそのために用意されたとしか思えない、3つかかった乗船用の渡しを通り、ドンゴロスを中に運び入れる。と、船が少し沈んだ。

「ご苦労さまでした」

若い衆が言う「オレらは乗らなくていいのか」

「ええ、自分らだけで乗るよう言いつけられてますんで」

まもなく、船は黒々とした沖に向かって走り出した。毎ビールが飲みたかった。

★それから3年新聞の地元欄にこんな見出しが踊った。〈失腺中の会社社長、みかん畑から遣体で発見される〉まさか、と思ったが、紙面に載った写真の顔はまさしくあの男だった。社長だったのか。どおりで堀川が金を引っ張れると言っていたわけだ。なぜ、男が殺されたのかは想像がつく。ヤツは、見ていたのだ。仲間が殺された現場を。ヤクザにとってみれば、そんな危ない男を生かしておくわけにはいかなかったということなのだろう。それより、不思議なのは、なぜ見つかりやすいみかん畑などに埋めたのかということだ。こればかりはオレにもわからない。結局、この事件は後に組員の1人が警察に出頭して、一応の解決を見る。新聞には、ホステスの取り合いが原因と報道されていた。ちなみに、堀川との付き合いは未だに続いている。ただし、借金をすっかり返したせいか、危ない仕事は頼んでこない。死体を運ぶことはもう2度とないだろう。