のこのしまは福岡県福岡市の中心部から、フェリーで10分程度で行ける博多湾に浮かぶ小島である。
サクラ、コスモス、スイセンなど花の名所として知られるこの観光地の海岸で、２０１０年３月15日15時頃、足のつけ根部分からヘソ付近までしかない女性の切断死体が、アサリを採取中の地元住民によって発見された。
後に福岡競艇場で腕が、福岡市内の埠頭で胴体と頭部が見つかった遺体の身元は、同県筑紫野市内の医薬品卸会社に勤務していた諸賀礼子さん（当時32歳）。
事件発覚９日前から行方がわからなくなっていた福岡市博多区在住の女性だった。
彼女は同月５日19時頃、勤務先を退社。翌６日は土曜日で、同じ会社の社員や取引先とのゴルフコンペに参加する予定だった。
が、当日、集合場所に姿を見せず、電話にも出ないため、同僚の男性社員が自宅アパートを訪ねたところ、玄関が施錠され返事もなかったという。
７日になっても連絡がつかないため、会社が警察に届け出て、アパートの室内が調べられたものの、私用の携帯電話がなくなっていた以外に不審な点は一切ない。ただ、聞き込みにより、諸賀さんが行方不明になる２、３日前、彼女の住むアパートの入口や通路で男女が言い争っており、男が
「恐れるものがないくらい好きだ」
「おまえを殺すこともできる」
などと大声で発していたのを、近所の住人が聞いていたことが判明。
また６日の深夜、１人の男が、ふらふらになった諸賀さんらしき女性を連れ出し、車に乗せ走り去ったとの目撃証言も得られた。バラバラ遺体の身元が諸賀さんとわかった後、福岡県警は失踪前にアパートで目撃された男性が事件に関与しているものと推察し、彼女の異性関係を徹底的に調べた。
が、以前、社内に交際していた男性がいた程度で、特に不審な人物は浮上しない。どころか、諸賀さんはいたって真面目で、勤務先では“頼れる姉御〟として評判は上々だった。
しかし、警察は諸賀さんが失踪した後、彼女のパソコンから会員制サイト「ミクシィ」にアクセスした記録があることを把握。同時に、ミクシィの日記に、事件が起きる前年の２００９年11月、福岡市内で起こした接触事故について記していたことを突き止める。
以下、その要約である。
︿厄女 ２００９年12月26日。実は先月、会社からの帰りに交差点内で私は直進で、相手は右折対向でバイクと事故をしました。 お互いに少し言い分が違うということで第三者事故調査機関に入ってもらい、また最終的に相手が診断書を提出したらしく物損から人身に変わり、誕生日の日に博多警察署へ出頭。私は被害者扱いの事情聴取。その後、第三者調査機関の公平な判断割合も私が15％で向こうが85 ％。（中略）警察も第三者調査機関も相手の方が加害者で私が被害者の結果になってるから、そこを理解してすんなり話が進めばいいけど、今週の月曜に家の門前にチャリで本人らしき人がうろついてるのを見たから、月曜はいろんな人を巻き込んで帰りが遅くなってしまい、その後もかなり警戒して帰ってきてます﹀
︿今年は… ２０１０年１月３日。突然です！ 休みを狙ってでしょう、大晦日に10回の着信。元旦に７回の着信。そのうち５回がワンギリです！ 昨日は３回がワンギリ着信。今日は２回のワンギリ着信。妹から、着信があったら電話をとって話をしなけりゃ通話料金が相手にかかるんやから、やり返せなぁ～んて言われましたが、私にも我慢の限界ありますが、ここでもう少し我慢します﹀
警察は、この衝突相手の男性が事件に関わっている可能性があるとみて事情を聞いたが、「事故後に電話はしているが、諸賀さんの家までは知らない」と証言。何より、この男性が遺体を運搬する際に不可欠な車を所有しておらず、レンタカーの利用や友人から車を借り受けた事実がなかったことから、捜査線上から外す。ちなみに、この男性は事件から４年後の２０１４年２月、諸賀さんとの交通事故の示談書１通を偽造したとして、有印私文書偽造・行使の疑いで逮捕されている。
メディアが重要参考人浮上として報じたのは、遺体発見から１ヶ月半が過ぎた２０１０年４月28日のこと。生前諸賀さんが身につけていた時計を質屋で換金した福岡市内の30代の男性が窃盗容疑で逮捕されたのだ。
しかし、この男は、「時計は別の質屋で拾ったもの」と供述。
その後の調べで、諸賀さんと接点がないことも判明した。
いったい諸賀さんは、なぜ、誰に殺され、遺体を切断、遺棄されたのか。福岡県警は犯人逮捕につながる情報提供者に最高３００万円の懸賞金を支払う「捜査特別報奨金」を設けるとともに、これまで数千人の捜査員を動員してきたが、未だ容疑者特定には至っていない。
