世界大恐慌が始まった１９２９年３月９日、アメリカ・ニューヨーク州のハーレムでクリーニング屋を営む男性イシドール・フィンク（当時30歳）が自宅アパートで殺害された。
当日22時30分頃、フィンクの隣人が隣の部屋で争うような音を聞き駆けつけた。が、ドアや窓が内側からロックされており、中に入れない。
そこで隣人は警察に通報。現場に到着した警察官が正面ドアの上の明かり採り窓のちょうつがいが壊れて開いていたことに気づき、小さな男の子をこの窓から中へ入らせ内側から鍵を開けさせたところ、部屋の中で左手を１発、胸を２発撃たれ息絶えていたフィンクの死体が発見される。
遺体の状況から、至近距離から撃たれ即死だったことは明らかだった。
事件は謎に包まれていた。現場はニューヨークでも治安の悪いところで、フィンクは強盗を怖れ、常にドアにも窓にも鍵をかけていた。この日も例外ではない。また、フィンクは真面目な商売人で恨まれる動機も皆無。
では物取り目的による犯行かといえば、店の金も含め全て手つかずのまま。さらに、いくら探しても凶器や空の薬やっきょう莢が見つからない。部屋はまったく整然としていて、荒らされた様子は一切なかった。
この界隈ではギャングが小さな店からみかじめ料を強要することは日常茶飯事だったが、フィンクが金を強要されていた証拠は見つからず、ギャングにつきまとわれているのを見たという者もいなかった。現場に銃がなかったことから自殺もありえない。
ドアや窓は全てロックされ、唯一、開いていた明かり採り窓は小さすぎて大人にはとて
も通り抜けることはできない。現場に残されていた指紋も全てフィンクのものばかりだった。
警察の懸命な捜査にもかかわらず、結局、事件は解決せず迷宮入りとなる。いったい、犯人は何が目的でフィンクを殺し、密室とも呼べる部屋からどのように脱出したのか。謎多きこの事件は、アメリカ初の完全犯罪として今も語り継がれているそうだ。
