本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

念写、念力、テレポートといった技を持った霊能力者の霊感商法

世の中に「路上ポエマー」なる輩がいる。

作務衣にハチマキ姿で駅前の広場などにゴザを敷き、テキトーなポエムを色紙に書き殴る、アレだ。

普段なら特に興味も沸かない人種だが、先日、見かけた男は、否が応でも目に留めざるを得なかった。

『念写ボラに、お祓いの言葉を書きマス』

住宅街の路地に、謎の貼り紙を掲げた若い男が1人。念写ポラ?なんじゃソレ?
挨拶もそこそこ、男は(小型ボラロイドカメラ)を手に持ち、オバちゃんに向けパチリ。

「まだ筋トレは続いてます?」

「いつもの三日坊主よ。Aちゃんはガッチリね」

「俺は握力が400あるんですよ、両方合わせて嘘八百。なーんちゃってね」

寒すぎて凍えちまいそうな会話だが、オバちゃんは頬を赤らめうれしそう。何だかなあ。

「あ、これはいけませんね」

男がポラを差し出す。見れば、タバコのような煙に取り巻かれた、オバちゃんの写し出されている。

「えーと、右肩に少し霊障が出てますねえ」

「やっばり?そうなのよ」

このモヤモヤが霊障?呆れる私など眼中にないのか、男は平然とポラの裏にペンを走らせる。

『多くの人によろこびという光を伝えて変わる必要はない』

相田みつを、いや326もどきのポ工ムを、オバちゃんは大事そうにハンドバッグへ仕舞い込む。私は迷わず後を追った。

「すみませーん。あの、何者なんですか」「なに?」

「僕も興味がありまして」「あ、そうなの。あの人はね・・」

オバちゃんによれば、あの男、近辺でも有名な路上ポエマーで、ポ工ム以外にも、念写、念力、テレポートといった技を持った霊能力者でもあるらしい。

料金は念写がー回3千円で「お祓い』と称するポエムが付くと5千円。路上ポェマーとしては妥当な値段だが…。

「私なんて、もう30回は書いてもらってるの」

30回?じゃあ合計で15万円?驚く私に彼女は言う。

あの人の念写は自分でも気づかない霊障を教えてくれる。それを破ってもらえるなら、金額は問題じゃない。あの、それって、まるっきり悪徳霊感商法なんですけど。

ポラに映った、自殺した男

ここで、本稿のスタンスを明確にしておこう。まず、私は20年来のオカルト好きである。中学のころ学研の「ムー」にハマって以来、荒俣宏かり少年マガジンの「MMR」まで、その手のネタは端かりチェックしてきた。

しかし、超能力や幽霊の存在は全く信じていない。矛盾するようだが、数々の文献を読み漁るうち、念力やテレポートは手品のテクニックで再現が可能で、心霊やUFOの写真は撮影ミスか多重露光で説明がつくことに気がついたのだ。工ンタテインメントなら文句はない。

しかし、トリックで人を脅すなど言語道断。ヤツには、キッチリ説明責任を果たしてもらおうじゃないか。

4月末日、再び路地を曲がり、Aの前に立った。

「ウイッス。お兄さん、初めて?ここに名前を書いて」

タメ口かよ。なぜ古着屋の店員と路上ポエマーは敬語を知らないのか。手元のノートに目をやれば、すでに10人ほどの名前が並んでいた。適当な住所と電話番号、職業はプログラマーでいいだろう。

記入を終え、力バンに忍ばせたデジタルビデオの電源をオン。コイツで一部始終を押さえ、ゆっくりトリックを暴いてやろう。

「じゃ、撮るから」

うなずく間もなくヤツがレンズを向けてくる。と同時にマシンガントークが始まった。「お兄さんがここに来たのは、宿命みたいなもんだよ。俺がそういう風に仕向けてるんだから。で、俺は今26才なんだけど、ひとが幸せを感じるのは、4つのポイントがあって・・・……」

自分のプライベートを披露しつつ、ビジネス書のような人生訓を織り交ぜる。まずは客との距離を縮める作戦か。前口上を終え、ヤツがポラロイドを取り上げた。ウゲッ、胸元に男の顔が写ってるよー。

「自殺した男が出てきてるね。多分、自分で火を付けたとか、そんな感じ。苦しそうだろ」

初手から剛速球できやがった。

「いま、調子の悪いとこない?」

「いえ、別に」

「家族に病人は?」
「ないですね」

「わかった。お兄さん、今、転換期なんだよ」

「は?」「人生が変わりつつあるんだな」

それ、自殺した男とまったく関係ないじゃん。

「それよ。それが転換期の不思議なところなの。それまではなんとか無事でも、転換期を境にどんどんころげ落ちていく人を何人も見てきたから。素人さんを救っていきたいわけ。どう思う?」

説明の後に必ず質間が続くのは勧誘トークの定番。いったい何が目的なんだ?

「スゲェ大事なことだから、俺の先生に、詳しく見てもらった方がいいと思うんだよね」

先生?バックに別の人間がついてんのか

「うん、俺より全然凄いから」

「それ。お金はどれぐらいかかるんですか?」

「そんなの言えないよ。だって…だいたいこのくらいですって言って、実際の合計の方が高かったりしたらちょっと嫌じゃない?実際払うのは、毎月決めた金額なんだから。そうやって考えた方が楽でしょ」

いつの問にか、口ーンの話にシフトしている。本性を現してきやがったな。

「高そうですね」
「初心者には高価に思えるかもね。ま、シロウトさんが知らないのを責めても仕方ないけど」
おいおい、素人を救うのが目的だったんじゃないのか?だんだんムカついてきたぞぉ。けど、ヤシが超能力を披露するまでは、適当に話を引き延ばすしかない。
「あの、写真について聞きたいんですけど…」
「まあ、燃えちゃったんだね。今はお金がないかも知れないけど、大丈夫・俺は信頼してるから、これからがんばっていく人なら応援しちゃう。貯金はあるでしよ?」

何を言っても金の話に戻ってしまう。
しかも、あまりに早口で突っ込むヒマがない。ほとんど催眠商法だ。話を聞いて1時間、ヤツが新しいネタを切り出してきた。
「目に見えないものは、体験してもらうしかないね。『気孔てわかる?」来た〜!
「まずは、自分の手の平を、僕の肌に触れるか触れないかのところで動かしてみて。フワッとしたものを感じるよね」
「噂なんとなく」「そう。でも、それは気じゃなくて毛だから」
文字で読むと普通だが、淀みない口調とトボけた表情に、つい笑ってしまう。
こりや、奥様方がひっかかるのも無理はないな。
「パワーはテンションでやってくるんだよ。じゃ、ここから本番」
私の右腕に手の平をかざし、上下に軽くサワサワサワ。…感じる。手首のウブ毛が、虫がはうようにケバだってやがる。
「う’ん、ザワザワしますね」
「な!じゃ、これはどう?」
ヤシがテーブルにタバコの箱を置き、拳を握ってうなり始めた。念力を送ってるらしい。
「ハツ」
気合いと共に、箱が私の方にスッ飛んできた。机を揺らしたわけでも、息を吹きかけたせいでもなさそうだ。

「最後に取っておきのヤシね」
そう言うと、ヤシはポケットから500円玉を取り出し、おもむろに机にコスリつけ始めた。と同時に、コインの縁が机にジリジリとメリ込んでいく。
数秒後、チャリンと音が鳴り、500円玉が天板を通り抜けた。机の表面に、傷跡は一切残っていない。…うむ。
「頭にイメージとして描くことが大事なんだよね。だから、お兄さんも俺の先生に会って…」
再び金の話を始めたAに3千円のみを支払い、私はダッシュでその場を離れた。