本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

捜査放置でひき逃げの時効を待つ犯人警察の影に絶えず怯える生活

数年間勤めていた防水工事会社を辞め、俺が独立したのは今から7年前のときだ。
独立、といえば聞こえはいいが、従業員わずか2名。資金不足を理由に、事務所、資材置き場、現場用の車などは、知り合いの工務店のモノを共有させてもらっていた。

個人商店に毛の生えた程度と言うのが正解だろう。
が、肝心の経営は、実に順調な滑り出しを見せた

当時、俺が住んでいたX市は、防水工事業者の数自体が少なく、工事の需要はうなぎ登り・発注がジャンジャン舞い込み、気がつけば、毎月100万近くの給料を取れるまでになったのである。
後に我が身へ降りかかる面倒な事件のことなど何も知らず、俺は有頂天になっていた。

6月某日、午前6時過ぎと記憶している。
その日、俺は車を運転し、現場に向かっていた。従業員が別の大きな現場へ入っているため、ここ数日同様、自分1人での出動である。
道は片側一車線の田舎道。早朝のためかガラガラで、他に車の影は1台もない。ハッキリ憶えていないが、スピードはさほど出していなかったように思う。
ズドンッ!
タバコを吸おうと、座席下に落としたライターを拾っていたとき車の左前方部から鈍い音が聞こえた。
慌てて急ブレーキをかけ、後ろを振り返ると………や、や、やつちまったぁ

道路上には、うつ伏せになった中年男の姿が。まったく動く気配がない

犬の散歩中だったのか、ヒモで繋がれたコリーが所在なさげに男の側に仔んでいた。
(た、助けなきゃ)
すぐさまドアを開けようとした瞬間、ピタリと手が止まった。助けてどうするんだ。警察に捕まったら何もかも終わりだぞ。せっかく仕事も軌道に乗っているというのに…。
周囲を見渡すと、依然として人影はなかった。ただ主人の安否を気遣うかのように、けたたましい犬の鳴き声だけが響いている。
クソったれ。5秒後、俺は車のペダルを思い切り踏み込んだ。
いまだ興奮状態の自分を落ち着かせるため、コンビニで一時停車。お茶を買い、ノドへ流し込むとようやく平常心が戻ってきた。
ふう。とりあえず目撃者は誰もいないんだ。大丈夫。このまま知らん顔して、仕事に行こう。時間のロスを取り戻すべく、国道を突っ走っていると、後方から何とも嫌らしいサイレン音が耳に届いた。
ウソだろもうバレたのか”
「白のハイエース。路肩で停車しなさい」
「。・・・・・・・・」.
心臓を高鳴らせつつ、車を止めると警官が窓から顔を出した。
「あのね、ここキロ制限なんだよ。キロもオーバーしちゃダメじゃない」
途端に体から力が抜けた。脇の下は汗でずぶぬれである。
「じゃ免許出して・車検証も見せてくれるかな」
「はい」
素直に免許を提示し、青キップに
住所、電話番号、サインを記入。一通りの手続きを終えると、書官は罰金票を手渡し、去っていった。

翌朝・朝刊を見ると、昨日の事件が小さく載っていた。記事によれば、被害者は、右足骨折で1カ月の重傷だという。そうか、よかった・死んでなかったんだ。
だが、男が生きていたことに安堵を覚えたのも束の間、最後の一文を読み終わったところで、ゴクリと唾を飲み込んだ。
『××署では、道交法違反(ひき逃げ)および業務上過失致傷の容疑で、逃げた運転手の行方を追っている』
改めて、しでかしたコトの重大さを思い知ったが、今さら気弱になっても仕方ない。大丈夫、絶対に捕まらない。捕まるワケがない。
そのことばどおり、以後3日間は何も起きなかった。平穏な、これまでどおりの生活。徐々に心に余裕が生まれた。
しかし、後でわかったことだが、このときすでに警察は俺を容疑者と断定し、すでに二度も自宅を訪れていたらしい。
バレた理由は他でもない。ひき逃げ直後のスピード違反だ。
実は被害者の男は、蝶かれた直後も意識はあり、車のナンバーをハッキリ覚えていたのだという。ただ、足の痛みとショックですぐには動けず、俺には死んだように見えたというワケだ。
そして、事件発覚後、ただちに車は手配されることになるのだが、それは俺が警察からキップをもらい走り去ってから、わずか5分後のこと。
間一髪とはまさにこういうことをいうのだろう。
ちなみに、二度に渡って警察が訪ねてきたのを知らなかったのは、自らの生活パターンに因るところが大きい。
向かう現場にもよるが、朝はだいたい6時前に家を出て、いったん事務所に寄ってから、仕事へ向かう
帰りは帰りでいつも深夜1時近くまで、従業員や現場で出会った職人たちと飲み歩く。おまけにここ数カ月は、仕事のスケジュールが目一杯で、1日も休みがなかった。これでは、いつ家にやってきても会えるワケがない。
もっとも、その時点では、そんな事態になっているなど、夢にも思っていない。事故後4日目、仕事帰りの午後8時過ぎ。珍しく飲みの誘いを断り、事務所に1人立ち寄った。今朝現場へ行く際に、財布を置き忘れたのである。
「こめんくださ-い」
カップラーメンに湯を注いでいると、スーツ姿の男が2人、玄関に立っていた。
誰だ、こいつら。
「××署の者なんですが」
「え…」
自宅を二度も訪ねて会えぬのなら、警察が事務所にやってくるのは当然である(スピード違反の際乗っていた車は、工務店の社長名義となっていた)・
「あの、上多さんはおられるでしょうか?」
ああ、終わった…。あきらめた瞬間、口が無意識に開いた。
「今日は来てませんけど」
言った直後、後悔した・ひき逃げ犯を捕まえにきた警察に、こんな下手なウソが通じるものか。恐らくや、俺の顔写真など免許センターからとっくに入手しているに違いない。しかし、

「じゃ、明日はこちらにいらっしゃいますかね」
一瞬、刑事のことばが信じられなかった。マジで俺が誰だかわかってないのか。もしかして聞き間違いじゃ…。
いや、違う。これはチャンスだ・この場をやり過ごす、絶好のチャンスなのだ。
「いや、俺、向こう(工務店側)の人間なんで、ちょっとわかんないつす」
「ふうん。じゃ悪いけどさ、念のため、あなたの名前と住所、あと年齢を教えてくれるかな」

「はい」
従業員に成り済まし、質問に答えると、刑事はすんなりと帰って行った。どうにかこうにか急場をしのいだものの、警察から追われていることがハッキリした今、何らかの決断を下さぬワケにはいかない。
どうする。今さら自首はあり得ない。
ならばすべてを捨てて逃げるか。いや、それもノーだ。
考えに考えた末、導き出した答は現状維持である。つまり、これまでの生活スタイルを変えず、仕事も続ける
皆さんには理解できないかもしれない。警察に追われている者が住所も変えず、普段通りに仕事へ行くなど言語同断。自殺行為と思われるだろう。
だが、当時の俺にとって、月100万の収入は、あまりに魅力的だった。
例え逮捕される可能性が高くとも、
いま現在の生活をどうしても手放したくない。目の前の欲に目が肢んだ人間の心理とはそういうものなのだ。
いや実を言うと、やり過ごせそうな自信も何となくあった

いつのことだったか思い出せないが、組関係の知人から聞いたこんなことばを思い出したのだ。
『ひき逃げは今被害者が死なない限り、警察も本気にならない』
むろん、何の根拠もない話ではあるが、このことばが俺を勇気づけ、無謀とも言える決意を固めたのも事実だった。
果たして、その珍説が正しかったのかどうかはともかく、事務所に刑事がやってきてからの2日間は、何事もなく過ぎていった。通帳、印鑑、その他諸々の貴重品を入れたリュックを持ち歩き、いつでも逃げ出す用意をしていたのに、拍子抜けである。が、それも時間の問題だった。
コンコン、コンコン
ひき逃げ事件からちょうど1週間目の午前5時過ぎ・パンツ一丁で歯を磨いていたところ、突然アパートのドアがノックされた。
「××署だ。開けろ、おい開け…」
刑事がことばを言い終わらぬうち、リュックを背負い、裸のまま2階のベランダから飛び降りた。
ここは俺のアパートである

前回のごとく他人を装い、やり過ごすことなど不可能。とにかくもう逃げ切るしかない。
「こら止まれ!」
着地地点のすぐ側で3人の私服刑事が待機していた。が、そのうちの1人を突き飛ばし、一気に駆け抜ける。
必死だった。
場所は小さな店がゴチャゴチャ隣接する飲屋街のまっただ中。その路地や裏道を右や左へとにかく走る。
吐いても吐いても走りまくる。止まれば、即アウトなのだ。背後から追っ手の声が聞こえなくなったのは、逃走開始から30分ほどたったころか。
実際には、犯分や1時間たったと言われてもおかしくないほど、長く感じられた。
さ-次はどうする。とにかく、着替えだ。このこつ恥ずかしい格好じゃ、
とても逃げ切れない。アイッを呼ぶか。
辺りを伺いつつ、手近な雑居ビルの非常階段へ。すぐさま付き合っていた女に電話をかけ、車を持ってくるよう命じた。

しばらくの間、彼女の部屋へ転がり込もうと考えたのだ。 ビルの屋上に身を隠すこと15分、 その後、女と合流し、車からそっとN の様子を眺める。刑事たちの姿はなかった。 
もしかしたら 「捜査放置」かも 
女のアパートへ無事に辿り着いても、なかなか心臓の鼓動は鳴り止まない。今日は何とか逃げ切れた

しかし、それは単なる強運。遅かあ早かれもう終わりだろう。 ようやく己のョミの甘さを痛すると同時に、ふと心の中で妙な動が沸き上がってきた。

どうせこのまま逃げ回ったところで末路は哀れ

仕事も失い、コソコソ生きていくのは。コメンだ。ならばいっそ潔く行こうじゃないか。捕まる覚悟で、明日からまた普段通り、仕事を続けてやろう。 いまから考えればムチャクチャな理屈である。もしかして、ノイローゼ になっていたのかもしれない。

翌日。いざ仕事の現場に向かうと、 恐怖心がぶり返した。何といっても 昨日の今日である。連中、躍起になって俺を探しているに違いない。ビルの陰に捜査員がズラーっと並んでいたらどうしよう。ま、そのときはそのときだ。 結局その日、現れなかった。

帰宅時も、コトあるごとに後ろを振り返ったが、尾行されている様子もない。

次の日も何も起きなかった。

翌日、 翌々日になっても、一向に誰も俺を捕 まえには来ない。 不穏な空気すら見えぬまま、淡々 とー週間が過ぎた。いったい全体、ど ういうことだろう。俺にとっては実に ありがたいが、少しおかしくないか。

「それってさー、捜査放置されてんじゃないの」

前記した組関係者の知人にこれま での経緯を話したところ、彼は即座にいった。 何でも、捜査放置とは文字通り、 警察が容疑者の追跡を取りやめてしまう職務怠慢行為のことで、傷害や道交法違反など、比較的小さな事件で起きる現象らしい。

「そんなことってあり得るの」

「あるよ。しょっちゆうってワケじゃないけどさ。つまりな、話を要約するとこうなる。 まず、俺の事件は、ひき逃げとはいえ、 被害者が骨折を負っただけの傷害事件。 
世間が注目するほどの代物ではない。 しかも、先の捕り物の際、裸のまま逃げ回る俺を見て、すでに他県へ潜伏している可能性も考えているのではないか。 つまり、警察はショボイ事件の犯人に多大な労力をかけてまで追跡しない、 」

といわけだ

おまえは知らないかもしれんが、捜査放置って結構報道されてるんだ

にわかには信じられない。そんな都合のいい話があるわけがない。 
女と籍を入れたら 足がつく… 
秋になっても、相変わらず俺は女の家で平和に暮らしていた。

早朝に 家を出て、昼間は汗をかき、深夜になれば、ほろ酔い気分で帰宅する。知人の言うとおり、警察は気配すら見せなかった。 むろん、だからといって安心はしていない。あれ以来、自分のアパートには立ち寄らず、服は置きっぱなしのまま。引き払うことも できず、月4万の家賃も払い続けて いた。 仕事で車を運転するときも同じだ。 スピード違反にならぬよう、飲酒運転にならぬよう、細心の注意を払う。

が、一番頭を悩ませたのは、女の両親に娘と結婚しろと迫られていたこ とだ。付き合いだして5年目の彼女が、 その年の冬に妊娠したのだ。 結婚はやぶさかではないが、籍を 入れることで、足がつかないとも言えぬ。 話が出るたび、俺はのらりくらりと 力ワしていた

とにかく、どれだけ注意しても、 不安は消えない。仕事中でも就寝中でも、いつ来るかわからぬ警察の影に、俺は絶えず怯えていた。 夏の終わりのある日のこと、3カ 月ぶりの休日で、俺は女の部屋のベッ ドに寝転び、マンガを読んでいた。

すると、 ピンボーン 

背筋が凍った・女のアパートには人が訪ねてきたことがない。たまに友人が2人ほどやっては来るが、今日、女はその友人たちと出かけているのである。サッかつ。素早く財布とケータイを掴み、そのまま窓から飛び降りた。しかし、そこは3階だった。
「どうしたんですか。すごい音がしましたけど」
飛び降りた衝撃で右足首を捻挫し、その場でうずくまっていると、新聞の勧誘員が駆け寄ってきた。呼び鈴を押したのは、コイッだったのだ。
何も起きぬ毎日が積み重なり、やがて事件から1年を迎えるころ、俺はようやくある確信に辿り着く。
(もうやってこない。もう大丈夫なんだ)
時効の事については、正直、微塵も考えなかった。警察の追跡に絶えず怯える犯罪者ならともかく、ノホホンとした生活を送っていた俺には、その自覚すら消えていた事件から2年が過ぎるころには、ひき逃げした事実すら、忘れかけていたといってもいいだろう。
そんな慢心が招いたとしか思えない。

スピード違反で捕まった。
俺は必死に知恵を絞り、自分の実兄の名前を出し、免許不携帯を装った。
兄貴に成り済ませば、本人確認の際、両親の名前、本籍地などの質問に答えられるからだ。果たして作戦は成功し、俺はその場で放免される。車はその場で警察に持って行かれたが(不携帯のため)、 2時間後、従業員に取りに行かせると、 あっさり返してもらえた。

が、後で聞いたところによると、この直後に偽装作戦はバレていたらしい。 署に帰った警官が交通課で兄貴の名前を検索した際、家族欄に弟である俺の名を発見。手配中だというのでさらに調べたところ、パソコンから俺の顔写真が出てきたという。

違反時に他人の名を編ったこ とにより、後に俺は有印私文書偽造の罪に間われるのだが、しかしこの時点ではまったく預かり知らぬ出来事 だった。 

判決は懲役1年6カ月、 執行猶予4年 
9月、昼ごろのこと。家で留守番をしていたところ、1人の若い警官が訪ねてきた。住民台帳を書いてくれという。
事件からすでに5年以上。もはや警戒心など皆無に等しく、俺は何気に自分の本名を記入してしまった。
家の前に、黒いクラウンが2台やって来たのは、その2日後の朝のことだ。乗っていたのは警官ではなく、検察官だった。
「これオマエの逮捕状だから読むぞ。道交法違反(ひき逃げ『業務上過失致傷…」
検察官の台詞は、ハッキリ思い出せない。頭の中は、なぜここがわかったんだ。なぜいまさら俺がブタ箱に行かなきゃならんのだ、そんなことでいっぱいだった。
よもや住民台帳の件がキッカケだとは夢にも思っていない。
逃げる間もなく、即座に手錠をかけられ、そのまま警察署ではなく検察庁へ連行された・聞けば、容疑者不在のまま、事件の書類が送検されていたらしい。
取調室に入り、改めて検察官が罪状を言い並べた。道交違反、業務上過失致死、そして有印私文書偽造。ん、ゅういん…?
「あの、ちょっと待ってくださいよ・最後のヤシは何です?」
「オマエ、2年前にスピード違反で捕まったろ・そんとき兄ちゃんの名前使わなかったか?」
「あ…」
「それも立派な犯罪なんだぞ」
「。。:。。。。。」
ふと気になり、なぜ何年も俺を捕まえに来なかったのか聞いてみた。答は、
「警察のことは知らん」
取り調べが終わると、直ちに拘置所に放り込まれた・雑居房にいたのはオーバーステイのイラン人、窃盗犯のオヤジ、中年ヤクザの3人・自分が捕まってしまったという現実を嫌が応でも認めざるをえなかった。
検察官が俺の前に再び現れたのは、裁判2日前のことだ。何とも渋い表情で、彼は言った。
「オマエ、知ってたんだろ」
「はい?何のことです?」
「有印私文書偽造以外の2件は時効が成立してるんだよ」
「よくよく調べてみるとな、道交違反は発生から3年、業務上過失致死は5年で免訴になっていたんだよ」
このときの俺の心情をどう表現すればわかってもらえるだろう。狐につままれた気分とでもいおうか。現実感がまるでない。
1カ月後、判決が下りた。懲役1年6カ月、執行猶予4年。裁判官は何も言及してはいなかったが、私文書偽造ごときで執行猶予が異常に長いのは、やはり他の2件分を加えられたのではないかと思っている。あくまで想像だが。

法律書によると、時効の根拠には次のような説があるらしい。
「犯人が長い逃亡生活の中で、事実上、処罰を受けたと同様の苦しみを受けたから(公訴時効の制度がある」

逃亡もせず、苦しみも覚えず、時効を迎えた俺。我ながらラッキーとしか言いようがない。
その後、俺は晴れて女と結婚し、一児を授かった。仕事は今も順調である。