本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ブルガリアでマフィアになった日本人

金のためなら女子供を殺すことも厭わない、

世界を股にかけ暗躍する非合法組織

ハリウッド映画でお馴染みの「マフィア」は、テロリストや独裁者と並び、国際的に最も深刻な社会問題の一つだ。
悪政が続く国の背後にはびこり、貧困と戦争をネタに利権を争う。イタリアやロシアでは毎年約500人が抗争に巻き込まれ、軍隊が対応を迫られることも珍しくない。
もっとも、大半の日本人にとって、国外の刃傷沙汰など映画や小説の一風景に過ぎないだろう。

かつてのオレもそうだった。
が、今は違う。なにせ他ならぬ自分自身が、ブルガリアという東欧の片隅で、
某ファミリーの一員として働いているからだ。極東の島国に生を受けた男が、な
ぜ異国で恐怖と暴力の世界に身を投じたのか。そのいきさつをここに紹介しよう。

マフィアになった日本人、と聞けば、
筋金入りの極道を想像するかもしれない。

しかし、日本にいたころのオレは、セコい債権回収をシノギとする、ただのチンピラだった。
地方の三流高校を卒業後、服飾の専門学校を経て上京。ロクな就職先もないままフーテンのような日々を送っていたところ、悪友に誘われ、都内のあるヤクザ組織に拾われた。

以後4年間は仕事を覚えるだけで精一杯。上の命令にも背かず、地道にやってきた。
そんなオレが、身を崩した理由は他でもない。ギャンブルだ。
週3で地下カジノに通い詰め、一晩で数十万を平気で溶かした。人一倍負けず
嫌いな性格が災いしたのだろう。数万円のへコみすら我慢がならず、その場で闇
金へ走り復讐戦に挑む最悪のパターン。

借り入れ金は膨れ上がる一方で、ほどなく返済の金を別の業者で用立てる、お決
まりの自転車操業が始まった。
月の返済額が利子だけで12万を超え、いよいよ追い込まれたある日の夜、何げ
にテレビで1本の映画を観た。タイトルは忘れたが、借金苦を逃れて高飛びを謀
るサラリーマンを巡る物語。画面に釘付けとなった。
(高飛びしちまうか)
学生時代はバックパッカーの経験もあるオレだ。国外逃亡といえば大げさだが、
長期の貧乏旅行と考えればいいのだ。頭に、リゾート地で安穏と過ごす自分の姿
が浮かぶ。心は決まった。
こうしてオレは、あらゆるツテを頼りかき集めた300万円を手に、日本を去る。

高飛びの地に選んだのは、アジアでもアメリカでもない、北欧・スウェーデンだった。
どうせなら、まだ訪れたことのない地に行きたかった。世界で最も美人が多い
国という評判に心が動いたのも事実だ。
が、首都ストックホルムに入り、すぐにその選択が間違いだったと気づいた。異常なまでに、物価が高いのだ。タバコー箱400円、定食屋のランチが1000円。ほとんどボッタクリである。
もっと暮らしやすい国はないのか。観光所に足を運び、調べた結果、浮かび上がったのがブルガリアだった。
長期の不況でデフレが進み、宿の相場は1晩たった6レフ(約600円)。そのくせ、隣国のユーゴやマケドニアほど治安は悪くない。申し分のない環境だ。
さっそく、船と寝台車を乗り継ぎ、ブルガリアを目指した。ウクライナ、ルー
マニアを経て、首都ソフィアに着いたのは3日後のことだ。
街中に出て驚いた。そこら中で野良犬が糞を垂れ、道端には浮浪者の群れが列
を作っている。想像以上の貧しさだった。
物価が安いのも当然である。
それに安心したのか、生来の放蕩癖がプリ返し、ホテルのカジノで遊びまくった。毎夜毎夜、バカラの一点張り。所持金は2カ月で無くなった。
自分のバカさ加減を呪いつつ、町外れのバーのカウンター席で安酒を煽っていたある晩、見知らぬ男が声をかけてきた。
「アンダ日本人だろ。オレと働かないか」
男は柔和な口調で言った。自分はこの近辺で金貸しをやっている。債権回収の
人員が足りないので、手伝ってほしい…
…………………ワケがわからなかった。
なぜいきなり見知らぬ日本人に、仕事を頼んだりするのか。何を企んでる。
改めて男を見れば、こざっぱりとした
ポロシャツにジーンズ、人なつこい笑顔。
そうそう悪人にも見えない。
「安心しろ。別にカモろうなんて思っちゃいない。もちろん給料も出すぜ」

報酬は月に10万円。日本ならはした金だが、この国では公務員の月給に等しい。

「でも、なぜオレを?」

「おまえ、ヤクザだろ」

「・・・……」

冷や汗が吹き出した。まさか、こんな 所まで追っ手が・・・・・……。

「ソフィアで2カ月もカジノに居座る日本人なんて、ヤクザ以外ないだろ。オレも同じ人種だからそれぐらいわかるぜ」

唐突に男は正体を明かした。

自分は、 プルガリア全土に支部を持つ、『ゾディアック』なる広域組織の一員。つまり、 「そう、マフィアだ」

思わず疑わしげな視線を男に送った。ブルガリアにマフィアなんていたのか。 聞いたこともないぞ。

「知らないんだな。ここはマフィア大国なんだぜ」

「・・・……」

男の説明は続く。 10年前、ソ連崩壊の煽りで東欧の経済が低迷。

時を同じくして、民主化の波がプルガリア政府を襲った。

貧困と政乱。これを好機と見た周辺諸国が、大量の構成員をソフィアに送り込み、結果いまのプルガリアには、首都だけでも200以上の組織が存在。

イタリアやアメリカに劣らぬ裏社会の激戦区となっているらしい

「どうだい?オレたちと手を組んでみないか」

予想だにしない展開だが、債権回収なら専門分野だ。

何より、今は食う手段を確保するのが重要だ。

「わかりました。やります」

「オー、サンキュー。オレはドラガンだ。 よろしくな」

鉄製扉の向こうに マシンガンを構えた男たち 

ドラガンはやけに親切だった。

所有す るアパートの一室を無料であてがってく れた上、ヒマを見てはブルガリア語まで レッスンしてくれるという。

「気にするな。オレは親日派なんだ。それじゃ、まずはボスに紹介するから付いてきて」

言われるままタクシーに乗りソフィア市外へ。着いた先は、プルガリアでは珍 しい打ちっ放しのマンションだった。

最上階。鋼鉄製の扉が開いた向こうに、 20代とおぼしき男たちが4人。オレの姿 に気づくや、一斉にsSR(小型軽量の・ サプマシンガン)を腰だめに槽えた。

「大丈夫。オレの部下崖 ドラガンの指示に、男たちが銃口を下 げ左右に退く。と、その奥で、白髪の老人が満面の笑みを向けていた。

「例の日本人か」

「ええ。おい、ヒ口。ちらがボス」

「は、初めまして・・」

緊張ぎみに頭を下げるオレの両手を、 老人が強く握る。

「カミル・ズラブスキーです。ゆっくり してください」

ゆつくり、などできるわけがない。12 畳ほどの部屋に8台もの防犯カメラ。全 ての窓に鉄格子。周囲の男たちは終始無言な上、ノックのたびマシンガンで扉を狙

警備が厳戒すぎやしないか。 疑問に筆えるょつに、ドラガンが

「実は、いま抗争中なんだ」

「えー」

何でも、ここ数年ドイツ系移民の組織 が勢力を広げており、ヘロインのルート を巡って争いが耐えないと

「勢力拡大に、ヤクザの力が欲しい」

というわけでま ボスが説明を始める。合法的企業を装 い経済犯罪を行っ暴力団、すなわち日本の経済ヤクザは、金儲けの達人とし て世界的に名高い。噂では、既に他の組織も日本人にアプローチを始めている。 我々としても、ぜひ早めに日本とのパイ プを繋ぎたいー。

「協カをお願いしますよ」 「は、はい」 このとき、自分は三下ヤクザだと正直 に告げればょかったのかもしれない。が、 金欲しさに加えて、下心が大きく働いた。 (ここでマフィアとコネを作れば、帰国 しても・・・……) 
オレはまだ日本に大いに未練を持っていた。 

イタリア系が相手なら硫酸で溶かされてるぞ 
仕事は翌日から始まった。

ドラガンに付いて、台帳片手にソフィ ア中の店舗や事務所へ日参。特に難しい 客はおらず、みな素直に金を差し出す。 拍子抜けするほど簡単だ。 が、マフィアの世界がそこまで甘いハ ズはない。2週間後、事件が起きた。 回収相手は、古びた木造アパートに住 む中年女性。妊娠9カ月の物入りで、返 済に回す金がないという。

「お願いします…。子供が生まれたら必ず返します」

涙ながらに頼み込む妊婦に、ドラガン は容赦ない行動に出る。丸々と突き出た腹を、カまかせに蹴り上げたのだ。

「ギャアーこ 悲痛な叫びを上げすくまる女。両足 の間から、網目状の鮮血が広がった。

「手術終了だ。帰るぞヒ口」

「・・……」 2週間後、さらにダメ押しのアクシデ ントが発生する。

「ヒ口。悪いが、今日はおまえ1人で行 ってくれ」

「オレ1人で?」

「問題ない。相手はいつも酒場でべ口べ 口だ。肩をかついで、オレの車まで連れ てくりゃいい」

「わかりました」 数えられた酒場のカウンターに、グラ スを揺らす大柄な黒人がいた。ヤツだ。

「すみません。ドラガンの使いなんです が」

声をかけた瞬間、黒人の肩がピクリと 跳ねた。続いて潰身のエルボーがオレの みぞおちで弾け、全身が2メートル後方 に吹っ飛ぶ。

「キャーー・」

ギャラリーの悲鳴にも黒人の攻撃は止 まらない。一足飛びに間合いを詰めるや、 オレの左脇腹にナイフをズプリ・-・……。 (なんだコレ?し 自分に起きた出来事がまるで理解でき ない。オレはただ店を飛び出し、血まみれでドラガンの車に転がり込むしかなか った。 「運が良かったな。コーザノストラ(イタリア系の巨大犯罪組織)が相手だった ら、いまごろ硫酸で溶かされてるぞ」

何の慰めにもならないジョークを口にするドラガン。オレの意識はしだいに遠のいていった。病院で巧針を縫う大手術を終えると、債権回収の代わりに新しい仕事をあてがわれた。
資産持ちの老人に、新築アパートとの等価交換を持ちかけ手数料を入手、さらに不動産登記を組織名義に変えて住居も奪う。暴力沙汰とは無縁の安全なシノギだ。すべて、ドラガンの計らいだった。彼がオレをそこまで優遇する理由は痛いほどわかった。一刻も早く日本ヤクザとのパイプを築きたいのだ。
このまま甘え通しでは、ドラガンも早晩、オレを見切るに違いない。時間がない。とにかく、実績を作らなければ。
ワラにもすがる思いで、オレはヤクザ時代の同僚に電話をかけた。
「おお上ロ!どうしたんだよ。アニキが滅茶苦茶キしてたぜ」
「ああ、実はな…」
全てを打ち明けると、果たして同僚は言った。「力にゃなれそうもないね。だいたい、
ブルガリアってどこだよ」
「やっぱ、そうだよな…」
ガックリと電話を置こうとした瞬間、ヤシが妙なコトを口にした。
「そうだ。いま、組にクズ鉄が余ってんだけど、持ってくか?」
同僚は言う。昨年から、自分の仕切りで、原発が出す金属製の放射性廃棄物を金と交換で引き取るシノギを始めた。こいつを真鉄と偽り、周辺国に売りさばいたらどうか。
「そんなモン売れんのか?」
「ま、ダメ元で試してみるよ。ダダみたいなもんだから」
「あ、ああ…」
こうして、大した期待もなく引き取ったクズ鉄。信じられないことに、これが当たった。当時の東ヨーロッパは軍需開発が花盛りで、鉄産業の需要が増加。自然、違法品のチェックが甘く、放射性のクズ鉄が買値の100倍でサバけたのだ。
「おいおい、ヒロ。スゲエじゃねえか!」
大喜びするドラガン。月500万も転がりこんだのだから、ムリもない。オレの胸には、ようやく期待に応えられた安堵感が広がっていた。