本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

万引き主婦から警察に突き出す代わりに恐喝して口止め料を巻き上げる奴

恐喝の鉄則は、まず相手の弱みを握ることにある。中ボウのころ、格下の不良連中だけを狙ってカッアゲしていた私は、ずいぶん前からこの不文律に気ついていた。
弱々しいマジメ君を狙ったところでサッにチクられるだけ。狙うべきは、常に悪さを働き、後ろめさを抱えた悪たれどもだ。
中学を出て以降、私は先物取引や訪問販売、新聞専売所などを転々としつつ全国を流浪した。どの職も長続きしなかったなか、唯一1年以上腰を落ち着け働いたのは興信所探偵業だろうか。
探偵といえば今でこそ人気稼業の一つだが、まだまだ日陰の商売である。職場は流れ
者の受け皿と化し、客や調査対象者の弱みにつけ込み金をむしり取るなんてのも日常茶飯事だった。
しかし、根が元々悪い私のこと。この環境は実に性に合った。特に脱税や狼雲など犯罪に絡む弱みを握った場合などは、ここぞとばかりにむしり取らせてもらったものである。
そもそも、悪さを働くヤシを見つけて警察に突き出したところで、誰も得などしない。示談という形で金銭的な決着を付けた方が互いにメリットがあるというものだ。間違っているだろうか。例えば、テレビのドキュメント番組でお馴染みのこんなシーンを見て、皆さんはどう思うか。
「すいません、もう二度と万引きなんかしませんから、警察だけには・・・」
「でも店の決まりだからねえ」
「お願いです」
「じゃあダンナさんに警察まで連れてってもらおうか」
こんなことをして誰が喜ぶというのか。それが人の道などと説く輩は、相当お目出度いバカだ。私なら、まず万引きした奥さんからいかに金を取ろうかと考える。
それが私の常識である。

目が泳いでいれば警備員のブリをし、スーパーやデパートで万引きしている主婦を捕まえて金をゆすったら、どうだろう。貧乏人ならいざ知らず、相手が金持ち奥さんなら、百万単位で引っ張れるはず

ただ、言うは易しで、いくつか問題点も浮かび上がってくる。まず、そんなに万引きしているヤシがいるのかとい一つ点。いたとしても、それが見つけられるのかもわからない。
そこで、試しに近くの郊外店へ足を運んでみたところ、これがいるわいるわ。少し大きめの手提げを持った女、一見落ちついてはいるが目だけは泳いでいる主婦風。
そんな女の後をつけていくと、見事にやっちゃってくれるのだ。
一方、万引きバスターの姿はほとんどお目にかからない。最初は判別が付かないだけかとも思ったが、そうじゃなさそうだ。スーパーごときでは人件費を払う余裕がないのだ。
ただ一度だけ、それらしきおばちゃん警備員を見つけたことがあるのだが、これがもうバレバレ。やたらと目つきが鋭い上、メシでも食うのか店の事務所に堂々と入っていく。注意して見ればすぐに判別可能だ。
想像以上に万引き犯が多いことはわかった。では、ヤシらに猪疑心を抱かせず確実に金を脅し取るにはどうしたらいいか。きっちり絵を描いておかないと、成功はありえない。当初考えていた、警備員のブリをして金を取るという方法は避けた方が賢明だろう。

「警察には黙っておくから口止め料を払え」などとストレートに攻めたところで、逆に通報されるのがオチ。もっとスマートにいかなければ。
私は次のような仕掛を考えた。ターゲットの万引き現場を発見するのはあくまで店に来ていた仕込みの男性客。彼が警備員に通報するのだ。もし、彼が自分は地域の風紀委員的な立場だと主張して主婦を強く非難すれば、本人はきっと後ろめたさを抱くはず。金銭の授受が発生するなら、この瞬間ではないか。
後のストーリーは、実際に行動に移したときの様子を読んでもらった方が早いだろう。ともかく、私は昔のワル仲間を犯人ほどを計画に誘い、候補の地域や店のピックアップにとりかかった。瞥呆の県庁所在地S市。その外れにKという町がある。昔からの持ち家が多く、また死角がいっぱいありそうな大型スーパーが3軒ほど音蕊している.そのうち1軒はすぐ横に選挙事務所のプレハブが建っており、もうすぐその役目を終えようとしている。
条件としては申し分ないこの街で、私と仲間は取りかかった。
まずは2週間ほど内偵。正午前から夕方まで、2人1組で店内をグルグル回り、万引き犯を探す。2時間ほど探して見つからなければ、店員に顔を覚えらてしまう前に次の2人に交替だ。
万一、万引き犯がいた場合はこっそりその現場を宜首宝かビデオに撮影。ただし、その場では捕まえずに女を尾行し、自宅を突き止める。万引き自体、非常に常習生の高い犯罪だから1度見逃しても、必ず2度、3度と盗みを働くもの。要は泳がせておくのだ。
自宅が貧乏そうなアパートだったらすぐさま引き返し、逆に広めの一軒家や豪華マンションだと、ターゲットの資格十分だ。
皆さんは不思議に思うかもしれない。果たして、そんな裕福な家の奥さんがスーパーで万引きなどするものか、と。
しかし、現実には㈹人に2,3人がこのタイプだ。ストレス解消かスリルか。本当のところはわからないが、いずれにせよ万引きが、金のない人間だけが犯す犯罪でないことは確かだ。
総勢、人がかりで張り込みと尾行を繰り返すこと1カ月、約加入のリストができあがった。昔からの地主、マンション経営者、医者の妻などなど、どれもそこそこの金と地位、そして盗癖を持った女ばかり。ビデオには最低5回分もの証拠映像が収めてある。
候補を上げた後は、準備段階の仕上げとして部屋を2つ用意しておいた。
ひとつはニセの警備事務所。これは地主に話を付け、スーパー一塁にある選挙事務所のプレハブを借りることにした。
ゼンリンの住宅地図の下圭自きをやる業者で、地域の小中学校の通学路の地図を作成するため、と偽れば地主も疑いようがない。
もちろん、ワープロやら段ボール箱など搬入して、ソレっぽい雰囲気を演出。また、事務員らしきオバチャンも1人用意した。万が一、〃離れ″である点を突っ込まれたら「本店が工事中でして」とでもゴマかせばいいだろう。
そしてもうひとつが、通報者の自宅に見せかける部屋である。こちらは石田建材というメーカーのオートロックが使われているマンション物件の空き部屋を事前にチェック、同時にオートロックを解除する暗証番号を探していつでも空き部屋に入れるようにしておいた。最初に捕まえた女。あれは確か、菊池という呉服屋の奥さんだったと思う。夫は2代目の店主、息子2人は有名私大に通っている。本人は田舎にしてはちょっと上品かなというぐらいの、ごく普通のおばさんだ。
準備段階でわかったのだが、どういうわけか、金を持っていながら万引きしてしまう奥さんは、まず食料品には手を出さない。豚バラーパックを思わず手提げに突っ込んでしまうのはほとんど賃貸に住む貧乏人だけだ。
対して、金のある人間は必ず雑貨へと足が向く。この菊池という奥さんも例外ではなく、あるときは口紅、またあるときは乳液といつたふうに化粧品を主に失敬していくクチだった。
そして決行日。昼過ぎ、化粧品をカバンにサッとしまい込んで店
を出た菊池の奥さんに私と通報者役の吉嶺が近つき、声かけた。
「あの、お客さん」
ビクンとした顔で振り返る奥さん。すでに顔が震えている。
「あの失礼ですけど、まだ会計済ましてない商品、ありますよね」
「勘違いじゃないです?」
毅然と答える菊地夫人。
「いやね、このお客さんから前に通報がありましてね、その後、私どもで独自に調査させていただいんですよ。店内のビデオカメラにも証拠が映ってるんですよ。ごらんになりますか」
すかさず、呆然と立ち尽くす彼女を引っ張ってデッチ上げのプレハブ事務所へ。案の定、店のビニール袋とは別に持ったハンドバッグを逆さにしてみると口紅とシャンプーが出てきた。
「オイ、ちょっと店長呼べ!」
面倒臭そうな顔をして出てきたエプロン姿のオッチャンは、店長に扮する三宅だ。
「またですか」
「あの、この2品、会計したかどうか調べてもらえますか」
その間に本人から自分の名前、住所の他、これまでの盗犯の状況、などを聞き出す。事務所内に置かれたワイドテレビ2台には、人目を盗んで化粧品を洋服の袖に入れる菊池夫人の姿が映った。
「このビデオ、間違いなくお宅さんですよねえ」
「…もう二度としませんっ。主人にだけは…」
まるで、絵に描いたようなセリフが出た。
「まあね、初めてだからね。ここは大目に見て・・・」
私がそう言いかけた瞬間、吉嶺が吠えた。

「警備員さん、ナニを言ってんだよ!こないだなんかこの人、ウチの子供の前で堂々とやってたんだぞ。こんな人、許していいのか。ここで見逃したらアンダら警備員の方を警察に突き出すぞ」

「あなたに、そこまでする権利はないでしょう」

「もういいよ!近くに××署があるからオレが引っ張ってくよ」
吉嶺はあくまで、生ぬるい処置では絶対許さないという態度を貫くわけだが、本来は関係ないはずのこの男がどうしてここまで怒っているのかは、ヤシの次のセリフにより明らかになる。
「オレはね、仕事とは別にここら辺の消防団やってるの。わかる?地域の保安も任されてるようなもんなんだよ。そこへこの人が万引きしてるのを2度、3度見かけた。黙ってられるかつてんだ。まあいいよ、また明日来るからな!」
吉嶺は、実にお目出たい厄介者を、見事に演じきった。
「奥さん、しょうがないねえ。じゃあまた明日にでも出直してさっきの詫びを入れてもらえませんか。もう二度としない。地域の保安を乱してすいませんでしたって。ね、私らも一緒に謝りますから」「…わかりました」
この時点で、人間関係の力点はすっかり変わっている。本来は奥さんが対して向けられる陳謝が、いつの間にか通報者である消防団員に向かっているのだ。
ここは重要なポイントである。翌日の昼下がり、私は菊池の奥さんを連れ、とあるマンションへと向かった。
実はここ、前記したオートロック付きマンションの空き部屋。吉嶺をその日の朝から待機させ、玄関口にクッを並べ人が住んでいる気配を作らせておいた。
「あのう、ここの奥さんがちゃん
と謝りたいとおっしゃってまして」
「あ、わざわざワリィね。今、女房が来てるからさ、その辺の喫茶店で話しましょうか」
「いいですか、奥さん」「…はい・・・」
菊池の奥さんはもうなすがまま。謝り通して何とか切り抜けたいと思っているはずだ。
私と吉嶺の話し合いは打ち合わせどおり進んだ。奥さんくらいの立場のある人なら、地域に対して責任があるはずだ。われわれ市民のためにも、地域に何か金銭的に償うべきだろう。吉嶺の実にお節介な主張も、もはやこの場においては正論になっていた。そして、いよいよ最終段階。何となく打ち解けた雰囲気になったころを見計らい、私がおもむろに切り出す。
「ところでオタクさん、消防団の他に普段はどんな仕事やってるんですか」
「宝飾品関係の営業ですよ。まあ、最近は不景気で儲かりませんけど」
「へえ、宝石なんか見たことがないなあ。ねえ菊池さん、ちょっと見せてもらいましょうよ」
ここまで言って、さすがに気ついたのだろう。奥さんが宝石の中から指輪を一つ選び、これを買いたいと自ら申し出た。金額は実に300万。原価3万にも満たない代物だ。
奥さんにしてみれば、口止め料の代わりになればと判断したのだろうが、それは彼女の勝手。こちらは、あくまで商取引に応じたに過ぎず、法律上は何ら問題ない。
しかし、ここで安心してはいけない。金を受け取る前に吉嶺には何度も念押しさせ、加えてこんなセリフを言わせる。
「見損なってもらっちゃ困るよ。このお金は全額、女房がやってる児童福祉の団体に寄付させてもらいますから。もちろん、名義人は奥さんにするし、まあ地域の風紀を乱した繊悔ってことで、これでいいんじゃないですか」
かくして、翌日には300万の金が菊池夫人から吉嶺の手へ、その翌月にはほぼ同じ手口で捕らえた8人の常習犯たちから、約3千万の金が私たちグループの元へと渡ったのだった。

この成功に気をよくした私たちは、以降、まるでサーカス団のように一つの場所に2カ月ほど根城を張っては仕事をこなし、全国各地をまわった。
1エリアで同時に何店舗分も仕掛けて、そのうち金が引っ張れるのが約佃件。1件あたり最低でも200万は引っ張っただろうか。ただ、中にはこんな信じられないケースもあった。四国のとある地方都市でのことだ。
下見をしていると、バッグコーナーで商品タグを切っている中年女を発見。手の内に隠し持った小さな爪切りで片っ端からパチンパチンやっては小物をごっそり自分のバッグにしまい込んでいる。端から見るとモロバレだ。
さっそくその一部始終を撮影、彼女の後をつけて行ってみたところ、なんとベンツに乗り込んだ。
「オイ、ありや間違いなくマル栄(金持ちのことを仲間内ではこう呼んでいた)だぜ」
「こりや500はカタイんでねえの?」
案の定、その後の尾行と調査で、当の女性が弁当屋のチェーン店の社長夫人であることが判明。ターゲットとしては申し分ない。こりや内偵もクソもないとばかりに、その数日後、盗みを働いた彼女が店を出たとたん、いつものように通報者を装った私と吉嶺のコンビが声をかけた。
「あのうお客さん、ちょっと待ってください。まだ払ってないものがありますよね。実はこちらのお客さんの通報で、ちゃんとした証拠も押さえてあるんですよ。ま、ひとまず我々の車の中で…」
いつもの口上だが、これに対し奥さんが言ったセリフがこれ。
「小切手書くから許して!いくら害けばいいの?ねぇいくら」

さすがに我が耳を疑った。捕まえた瞬間、金の話。しかも小切手なんて単語が出てきたのは後にも先にも初めてだ。
「いやあの、そういうことじゃないんですよ」
はやる気持ちを抑えつつ、まずはマニュアルどおりに相手を一洛ちつかせたものの、このオバサン、またもや信じられない言葉を口にした。
「おたくさん、本当は警備員なんかじやないでしよ」
「は」
もしやこの女、サッの手先。白いワイシャツの下でどっと脂汗が
吹き出てくる。もはやこれまでか。しかし…。
「うちの前にクルマがとまってたり、ヘンな電話がかかってきたりしておかしいと思ってたのよ。本当はうちの主人に頼まれた興信所の人なんでしよ。私、もう何年も客商売やってるから目見ればわかるもの。ねえ、どういう依頼受けたの?」
誰だって生涯に一度はこんな偶然に見舞われるものだ。そのチャンスをモノにできるかどうかで人生は決まるのかもしれない。方向転換するべきか、このまま突っ張るべきか

迷った末、私は賭けに出た。
「ってんなに奥さんが言うんならしょうがないですね。ま、我々も依頼人の秘密は明かせませんよ。ただね、それとこれとは別でしょう。人間、やっていいことと悪いことがあるでしょう。私も一人の人間として奥さんのさっきの行為が許せなかったんですよ」
言ってることはムチャクチャだが、この際論理なんか必要ない。万引きの証拠を押さえている以上、立場はこっちの方が強いのだ。
「あんたにお説教される必要はないわよ・さっきから小切手って言ってるでしよ。こんなもんでいい?」
とっさにケタの榊雰齢藷する。4,5,6…ゲゲゲ、なんと1千万円。一瞬、ニセモノかと思ったが、ノリシロの跡や挟んだ下敷き、割り印などから見て間違いなく本物の小切手帳だ。マジかよ、このババア。
「あのねえ、奥さん。だからお金の問題じゃないんですよ」
そう言いながら、頭の中で必死に都合のいい殺し文句を考える。が、どうにも浮かばない。こうなりやカワザでいつたれ。
「女性からこういう小切手帳をぶつけられること自体、男として憤りを感じるんですよ!」
私は涙をボロボロと出した。食いしばり過ぎたせいか、唇からは血まで流れている。
「あんたの言うことはもうわかったよ。でも、私にはお金しか出せないの。これでカンニンして1.あなた方の好きに使えばいいでしょうが」
彼女が1枚の小切手に2500万の数字を書き残し、愛車のベンツで去っていったのは、その5分後のことだ。
☆そんなこんなで5年間、日本のあちこちでこんなことをやらかし
て、よくもお縄にならなかったものである。
まあそれも当然といえば当然。
何でもカンでも金を出せば済むと思っている万引き奥さんが、自分の過ちをさらしてまで被害届けを出すとは思えない。彼女らの虚栄心がある限り、私の身は一生安泰だろう。仕事から手を引いて率丈壬今は貯めた金で自営業に就く私である。悪さは当分やらない、そのつもりだ。