本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

ヤバ過ぎる街だった大阪・西成で生活してた頃のリアル

とりあえず近くの作業服専門店で、
ビニール製のヤッケ、ナイロンパ
ンッ、帽子、デッキシューズ諸々
を買い込んだ。

来る前からさんざん気をつけろと言われていただけ
に、普段着で歩き回って目立ちた
くなかったからだ。

幸いにも、上から下まで全部5千円弱と、物価はかなり安い。
パチンコ屋のトイレで着替えを
済ませて変身完了。僕はさっそく
三角公園を探すべく、赤と緑にラ
イトアップされた通点閣タワーの麓に向かって歩き始めた。

雰囲気からしてこちらに違いない。
が、予想に反してこの辺りに無
法地帯の匂いは一切せず、将棋セ
ンターや串カツ屋からのどかな空
気が流れてくるのみ。

大阪のディープなムードこそたたえていると
はいえ、危険さとはほど遠い。
アテがはずれたかと、そこから
西、環状線の新今宮駅方向に足を
伸ばすと、今度はあまりに健全な
建物が目に飛び込んでくる。最近
できた遊園地らしい。真上を走る
ジェットコースターから聞こえて
くるのは女子供の脳天気な悲鳴。
う-ん、まさかこんなところで裏ビデオやシャブは売ってまい。


となれば東側かと反対方向に回
るも、そこにあるのはただの動物
園。三角形の公園はない。
どこをどう歩いても見つけられ
ないので、じゃんじゃん横丁
と呼ばれる通りの入り口で気持ち
良さそうにハーモニカを吹いてい
たホームレス風のおっさんに尋ね
てみた。


「三角公園?」
意に反し、おっさんは通点閣と
反対側の、南へと伸びる商店街を
指さす。それと同時に洩らされた
気になる一言。
「兄ちゃん、あっちは、行かんほうがええ」
苦笑いの奥に潜む恐怖の色。聞
くと、どうやら同じホームレスで
もはっきりした住み分けがなされ
ているらしく、じゃんじゃん横丁
界隈をねぐらにしているこのおっ
さんは、三角公園などとても怖く
て近づけないらしい。さらに最近、
公園を仕切る人間が代わってから
ますます近寄りにくくなったのだ
そうだ。


道端でハーモニカを吹いている
おっさんですら近づけない公園とはいったいどんなところなのか。
僕にしてみれば、このじゃんじゃ
ん横丁のオヤジ臭い雰囲気だけで
も十分すぎるほどのインパクトな
のだが。
大げさに脅かすおっさんのせい
で少し戸惑ってしまった僕は、夜
が遅くなってきたこともあり、そ
の日は近くの簡易宿舎に泊まることにした。

1泊2千円。わずか3畳ながら男1人寝るには十分な広
さである。翌日、ハーモニカのおっさんに
教えられたとおり、商店街を抜け
てパチンコ屋の辻を右に折れると、
周囲のホームレス濃度はより一層
高まってきた。いや、濃度が高い
というよりは質が違うというべき
だろうか。


ワンカップ片手に奇圭駕発する
オヤジ。立小便しながらブッブッ
と呪文を唱えているオヤジ。商店
街のド真ん中でぶつ倒れている男
の右手には紐が握られ、その先に
主人を失って動きの取れなくな
った犬が、突っ立ってベロを出している。
商店で働く人々に交じってごく
当たり前のようにそこにいる彼ら
は、新宿や代々木にいるホームレスたちと違い、疎外されている様子がない.

無数の露店を発見。路上のいたるとこ
ろにゴザが引かれ、古い時計やラ
ジオ、あるいはケン玉やボタンなどといった商品が脈絡なく並べら
れている。あまりにお粗末な品揃
えのせいか立ち止まる人はおらず、
店主であるおっさんたちは暇を持
て余しているようだ。
とある小学校の横のゴザでは、
どうやって入手したのか、隣の学
校の教材と思われるクレヨンや教
科書までもが商品として並んでい
る。ご丁寧にも持ち主の名前が書
かれたままなのが苦笑ものだ。
どうしようもない店ばかりが並
ぶ中、あるゴザの上にビデオテープがズラつと並んでいた。

見ると、ラベルには一世を風廃した裏ビデ
オ「援助交際白書」の文字が。
「おっちゃん、それいくら?」
「ああ、これは500円」
本物かどうかわからないためそ
の値段が妥当なのか判断しかねる
が、他のビデオが200円という
ことから考えれば信用してもいい
のかもしれない。
青空の下、裏ビデオが堂々と売
られていることに大げさながらカ
ルチャーショックを受けつつ、とりあえず千円で2本を購入。
その後、商店街の辻を折れたと
ころでようやく三角公園の前に出た。

廃材を燃やしてもうもうと煙
を上げる焚火のそばに数人の人だかりがある。
縦に2本並んだ大きなドラム缶
の上に真新しいベニヤ板が乗せら
れ、そこに1人の男が黒マジック
で大きな字を書いている。

書き慣れているのだろう、きれいにレタ
リングされた文字はみる
みるうちに黒く塗りつぶされてい
った。その2文字は遠目にもはっ
きりと見てとれる。
路上で、しかも白昼堂々と丁半
博打の準備をする男たち。さすが
三角公園、いきなり痛快な光景を
見せてくれる。
古い電話帳、サイコロ2つ、
そして壷の代替としてみかんの缶
詰の空き缶が置かれた。いよいよ
スタートだ。ルールは簡単。壷振りがサイコ
ロ2つを同時に振り、子は合計出
目が奇数か偶数かを当てるだけ(
奇数が半で、偶数が丁。当たれば
倍になり、はずせばそっくり親に
持っていかれる。
ただし、ベニヤ板中央に書かれ
た但し書きには、
「1.1(ピンゾロ)」
「1.6(ジュウロクサイ)」の
担裂口は親の総取り、とある。
勝ち分から数パーセントといっ
た形ではなく、何回かに1同かは
出るその2つの目によって、親
(胴元)はテラ銭を稼いでいるわ
けだ。むろん、その出目に対して
子は成す術なしというわけではな
く、「1.1」「1.6」に賭けて
いれば5倍の配当となって返って
くる。
場にはこぎれいな格好をしたヒ
ゲ面の壷振り以外に2人の補助役
がおり、彼らはどちらに幾ら賭け
られたかをチェックし、配当金の
受け渡しなどを行っている。
僕はポケットから取りだした千
円札を補助役に渡して両替しても
らい、100円玉1枚を「半」に
置いた。セコイとは思うが、慣れない賭事に大金をつぎ込むわけに
もいかないし、周りのおっさん連
中も小銭で勝負しているのだから
問題はない。
「もうないか-、もうないか-」
壷振りの独特のしゃがれ声が客
を煽り、「勝負やで」の一声で缶
が開けられる。
「よっかいち(4.1)の半やで」
幸先のよいスタート。僕の10
0円は200円になった。調子に
乗り、その200円を再び「半」
に置く。
「もうないか-もうないか-」
千円札と100円玉が板のあち
こちに置かれ、数秒後、動きが止
まる。壷振りが缶に手をかけた。
「勝負やで。サンゾロ(3.3)
の丁」
200円はあっけなく回収。ト
ータルで100円マイナス。とな
れば次は100円を賭けててもし
ょうがない。プラスにするには最
低200円は張らねば。
という思考がマズかつたのか、
どんどん進行する場に合わせて思
いのままに賭け続けるうちに、千
円はすぐに溶け、2千円、3千円
と両替は進んでいった。客は僕を含めて5人ほど。当然
ながらみんな日雇い労働者風情だ。
必死の思いで稼いだ金を巻き上げ
られまいと必死の形相だが、やは
りそこはギャンブル、そうそ毒?つ
まくはいかない。
負けが込んできた僕も頭を悩ま
せた。そのうち奇数が5通りで偶数
が6通りだから丁のほうが出やす
いのだろうか。いや、ちょっと待
て。そんな単挫純なわけがない。4
は「2.2」「1.3」の2通り
だけど、3は「1.2」のみ。
ん?「2.1」は「1.2」と別
に考えるべきなのか?
あれこれ頭を巡らせて、どちら
に張るのが有利かを考えていた僕
だが、しばらく賭け続けるうちに、
そのような確率論がまったく無意
味であることに気づく。なぜなら、
壷振りは自分の思いのままに出目
を操れるからだ。
それが証拠に、壷振りは缶を開
ける前から「ようわかったな」だ
とか「ここは丁やで」といった声を発するし、場がヒートアップし
て盤上に置かれた金額が増えたと
き、スッと「1.1』「1.6」
が出るのも、やはり意図的なもの
と捉えるのが自然だろう。
つまり丁半博打とは、単なる確
率2分の1の運試しではなく、壷
振りが次にどちらの目を出そうと
しているかを客が読む、心理ゲー
ムなのだ。
と、ここまではすぐに理解でき
た僕だったが、その心理を読む術
を持たない以上はやはり運に頼る
しかない。
僕は賭け金を3千円と100円
の2種類に使い分けて、大きく勝
って小さく負ける戦法を採ること
にした。
「もうないか、勝負やで」
丁が3回続いたこの流れ、次も
丁のはず。
「シゾロ(4.4)の丁」
どういうわけか3千円を張り出
してからはヨミが面白いように当
たりだし、理想的な流れで持ち金
は増え続けた。左手の千円札の束
は握りきれなくなるまでに膨らん
でいる。
単なるビギナーズラックか、それとも最初はわざと勝たせて後で
巻き上げようとの魂胆か。僕が賭
けるのは缶が振られた後だから、故意に勝たせているとは考えにく
いのだが、もし僕の素人独特の思
考をあらかじめ壷振りが読んでい
るのだとしたら、有り得ない話ではない。
いずれにせよ、引き際さえ間違
わなければこのまま逃げきれるは
ず。しかし無法地帯と呼ばれるこ
の町で、ふらっと現れた若造が勝
ち逃げするなんてことが許される流れが断ち切られたのは突然だ
った。

5度連続の「半」をヨミ切
って左手の千円札が40枚ほどにな
ったそのとき、いきなり壷振りが
サイコロを握り隠し、ベニヤ板を
ひっくり返してしまったのだ。
周りの連中もパッと脇に散り、
残されたのは2つのドラム缶のみ。
隣の焚火だけがあいかわらず煙を
上げている。


何事かとキョトンとする僕に隣
のおっさんは「よっぽど暇なんや
で」とつぶやいた。

どうやら私服の警官が巡回に来たらしい。どの
男のことなのかよくわからないが、
皆が見据える方向にいるのだろう。
トボけた空気が一帯を包む。

やはりいくら西成でも違法は違法、警
察には気を遣っているようだ。
「そこで時間潰しときな」と補助
役のおっさんに追いやられたのは
雑居ビルの1階。メシでも食える
のかと入ったそのスペースは、外
の喧喋とはまた違う独特の熱気に
満ちていた。