本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

17人の愛人とセックスするために19億円横領した男

「ねえねえ、あの話ってホントにホントだよね?」愛知県豊橋市のスナックに勤めるホステスのミチコ(仮名)は、念を押すように石井の背中に聞いた。店が終わった後、アフターに繰り出し腹を満たすと、初めて男を自宅マンションに引き入れた。
「ん、店を出してやるって件か。もちろんだよ。とりあえず500万円もあれば十分だろ?」「うれしいマーさん素敵」

わざとらしい声を上げ、抱きついてきたミチコの重さを感じながら、石井はネクタイを緩め彼女の唇を吸った。新しい肉体を手中にした瞬間を楽しむように…。石井が大学を卒業後、地元の製パンメーカーに就職したのが1972年。

直後から健康保険組合に出向となり、黙々と仕事をこなして周囲の信頼を得た。結婚し、一男一女をもうけた。豊橋市内に二階建て住宅を構え、自分の両親と同居する6人の生活。豊かではなかったが、幸せな毎日だった。ところが80年に入り、父親の死をきっかけに石井の心に転機が訪れる。

クラブのホステスに熱を上げ、女遊びを始めたのだ。まるでタガが外れたかのように、給料や貯金はおろか、サラ金から借金してまで遊び狂い、83年には愛人との間に生まれた子供を認知する。もっとも、それだけならまだ引き返す道もあったが、石井はその後も何かに取り想かれたように次から次へとホステスを口説き、抱き、そして金やプレゼントを注ぎ込んでいったのだった。

普通なら金が尽き、遊びは終わる。石井も90年にパンク寸前に陥り、正気に戻るはずだった。しかし、会社での立場がこの男をさらなる地獄に誘う。82年、組合の事務長代理に出世していた石井は、自ら管理する組合費用に手を付け始めたのだ。組合の口座には、子会社の社員分も含め年間約7300人分、計26億円あまりの健康保険料が入金される。組合員や家族が医療機関を利用すると、そこから組合に請求書が届き、口座から支払いがなされるという仕組みだ。

事務を執り仕切ってきた石井は、請求書を偽造して額を水増しし、その差額分を懐に入れる手口で着服を繰り返した。組合側は年に1度、内部監査を行っていたが、預金残高を確認するだけのごく形式的なもの。最初こそおっかなビックリ悪事をはたらいていた石井も、徐々に罪悪感は薄れていった。

95年、事務長に上り詰めるとバレるわけがないと確信するに至った。事務長と言えば、26億あまりの金を管理する最高責任者。高級車・セルシオを購入した石井は、車のトランクを金庫代わりに使った。中に現金を詰め込み、100万円を切るたび組合の口座から引き出し補填したのだ。

一応、決算書類などを偽造して金額の辻棲合わせをしたが、それすら必要ないほどズサンな管理は相変わらず。組合口座の残高が少なくなった年度には、自らの提案で保険料を引き上げたというから、開いた口がふさがらない。石井の行動を聞く限り、ギラギラ脂ぎった中年男の姿をイメージするが、実像はそうではないらしい。関係者の1人は言う。
「身長は170センチぐらいで、やや小太り。頭はハゲていて銀縁のメガネをかけています。ショポくれたオジさんですよ。性格は真面月だけど面白みがなく、付き合いも悪い。窓際の地方公務員てな風情ですかね。だから事件を知ったとき、だれもが仰天しましたよ・カネの面でもオンナの面でも「まさかあの人が…」って」会社では、いたって地味で真面目な石井だが、午後5時キッカリに仕事を終えると、名古屋や豊橋の繁華街をめぐり『クラブ活動』に直行。

「ボクね、資産家の息子なんだよ」「君に店を持たせてあげる」と目を付けたホステスの耳もとでつぶやいた。相手がどんなにサエないオヤジであろうと、こう言われて拒む女は少ない。石井が17年ほどの間に囲った愛人は15人。大半はホステスで、20代から50代まで。巨乳が好みだったらしく、最初に認知した子供に加え、別の2人にも子供を産ませていた。

金の成る木を手にした石井は、別れた愛人にも金を振り込み続ける一方、同時期に何人愛人がいようが『新規開拓』を厭わない性豪ぶり。もはや異常というよりないが、奥さんは奥さんで自給800円のパートで家計を支えていたという。石井が着服したカネを我が家のために使わなかったのは、そんな妻に対する良心の呵責があったからだろうか。関係者によれば、石井は結婚後、本籍地を6Mも移動していたらしい。転籍すると戸籍謄本から認知の記戦が消えるトリックである。

ハーレム生活は、ひょんなことから崩壊する。愛人の1人が勤める名古屋市内のスナックに国税当局の税務調査が入った。と、経営が悪化しているはずなのに、異常に売り上げが多い。調べてみると大半が石井の支払いだった。愛人のためせっせと援助していたのである。

「石井って奴は何者だ」「はい、製パン会社の健保組合で事務長やってますね」「それじゃ、給料なんてたかが知れてるな。こりや裏のあるカネに違いない」
国税当局は名古屋地検特捜部に情報を提供。地検は手早く内定を進め、7月7日、石井を業務上横領容疑で逮捕した。保険料約2千万円を着服した疑いだった。ところがその後、調べれば調べるほど横領額は増えていく。7月の起訴段階で9億7900万円になり、9月には横領分の所得税を脱税したとして所得税法違反で追起訴されるオマケまで付いた。

結局、初公判時点では時効分も含め18億9千万円にも膨れ上がっていたことが判明・検察側は冒頭陳述で、愛人に多い人100万円から300万円ほどを渡し、うち2人がそれぞれ累積で2億円以上となることを指摘した。明らかにされた石井の供述も驚くばかりだ。

いわく、動機は「たくさんのオンナと性交したかった」ためであり、「組合員は、愛人への手当てを出してくれるスポンサーとしか思っていなかった」等々。これを受けた組合は損害賠償を求める意向で、愛人たちからもカネを取り戻せるかどうか検討しているというが、もはや後の祭り。消えた金が戻るアテはない。

ときおり、ビックリするような多額横領が発覚する。役者が揃ったためスキャンダラスに報じられたアニータ事件は例外にしても、みずほ銀行の男性行員が5年にわたり、顧客の預金10億円超もの横領が発覚している。この行員は支店で営業担当の課長代理をしており、顧客に「定期預金を振り替える」などとウソをついて口座の中身を懐に入れる単純な手口だったという。

発覚を遅らせるため、着服したカネの一部を別の顧客の口座にまわしていたものの、最終的には約2億5千万円分の穴埋めができず、顧客の1人が定期預金の運用状況を照会してアウトに。こんなズサンなやり方はいつかは必ずバレるに決まっているのだが、ギャンブル狂いがたたって周囲が見えていなかったようだ。

ちなみに、この行員は懲戒解雇されて業務上横領容疑で警視庁に告訴されたが、いまだにパクられていない。捜査員の1人は漏らす。「別の重要案件が山積しているから、犯罪事実がガチガチなこんな事件はどうしても後回しになってしまう。逮捕におびえて首でもくくらなきゃいいとは思ってるが…」

8月には、メガバンクの東京三菱で似たような犯罪が明らかになった。三菱系の人材派遣会社から横浜市の「港北ニュータウン支店」に派遣されていた女性行員が、12年間にわたって9億9千万円を着服していたのである。こちらも手口は同様で、渉外担当として顧客十数人の家を訪問。

「金利の高い特別な商品がある」とインチキ商品を薦め、その場で預金口座から金を移す手続きを済ませていた。女性行員は、預かったキャッシュカードで引き出すだけだ。もともと別の銀行に勤務経験があり、金融商品に詳しかったためデタラメ話にリアリティがあったのだという。

定期的に利息分を払い込むなどの偽装工作も行っていたそうだ。ところが今年5月、「特別な商品」が満期を迎えたにもかかわらず、多額の現金が引き出されたままになっているのを不審に思った客の1人が銀行に問い合わせ、ジ・エンドとなった。地元記者によると、着服分は土地投機や消費者金融への返済などに充てていたらしいが、「背景にオトコの匂いもする」という。