本当にあったリアルな怖い話・恐怖の事件 ~現代の怪談~

なんだかんだで生きている人間が一番怖い・現代の怪談ともいえる本当にあった怖い話や恐怖の未解決事件です。

身代金目的の女子小学生誘拐事件

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一九九九年一二月二〇日、大阪府摂津市に住む小学二年生・今村由香子ちゃん(仮名、七才)が行方不明になった。自宅から四〇〇メートルほど離れた小学校に通っていた由香子ちゃんは、同日午後三時半ごろ下校。校門前で同級生の女の子と別れ、一人で家方向に歩いていった姿を最後に、ぷつりと消えた。

娘の帰りが遅いのを心配した母親の明子さん(仮名、三六才)から連絡を受け、担任の女性教諭(四五才)が由香子ちゃん宅へ急行。心当たりを探し回ったが見つからない。事故か誘拐かと青ざめていた午後五時五〇分ごろ、今村さん宅の電話が鳴った。とつさに、電話近くにいた女性教諭が受話器を取る。

「ザー…ザー…ザー」雑音がひどく、何を言ってるのかわからない。聞き返すも、相手は一方的にしゃべるだけでほんの二〇秒ほどで切ってしまった。間違い電話か、それとも由香子ちゃんに関する連絡だったのか。母親と女性教諭が顔を見合わせていると、五分も経たず再び電話が入る。相変わらず雑音はひどい。が、かろうじて

『上新庄の東淀川郵便局前の赤い…』という言葉が聞き取れた。録音した音声を、テープで流しているようだった。娘は誘拐されたのだ。明子さんはすぐさま管轄の摂津署に通報する。

「確かに東淀川郵便局と言ったんですね」「はい」

午後八時二分、母親に確認を取った大阪府警捜査一課の刑事が東淀川上新庄郵便局に向かい、周囲を探す。と、ポストの底に八つ折りのコピー用紙がガムテープで貼りつけられていた。

子供を預かっている。二一日午後四時一二〇分に四二〇〇(死に)万円と携帯電話を用意して待て。子供の命とお金どちらが重たい。死んだら取り返しつかへんで。悲しいで。警察に連絡したら、この子は意地でも必ず殺す

さらに、今後の連絡手段としてNTTの伝言ダイヤルをあげ、メッセージのやり取りをする際に必要な暗証番号などを指定していた。

〈若奥さんの携帯電話の番号を伝言ダイヤルに必ずいれておくこと〉

由香子ちゃんは、身代金目的に誘拐されたのである。
「身代金目的誘拐容疑事件対策室」が設置された。誘拐事件では、警察の動きを犯人に知られないようマスコミと報道協定を結び、秘密に捜査をするのが原則だ。NTTに協力を要請した捜査員は今村さん宅へ裏口から入り、犯人から電話が入るのを待った。

大人数がいることを悟られないよう、必要最低限の部屋以外、明かりは消されている。警察が注目したのは脅迫状に記された若奥さんという表現だった。確かに明子さんは近所でそう呼ばれることがあった。

脅追状には他にも

〈金は今の財産から見れば、またすぐに出来る〉

〈家の者は兄弟から主人まで全部顔を知っている〉

などと書かれていた。犯人は、今村家をよく知る人物と思われた。さらに、脅迫文には重要な手がかりがあった。分析の結果、指紋がう残っていることが判明したのである。警察は、この指紋が大阪府北部に住む男性のものであることも割り出していた。男性が犯人である可能性は高い。

が、へタに動けば由香子ちゃんの命が危ない。犯人逮捕の最大のチャンスである身代金の受け渡しを待つことで方劃が固まった。二一日午後二時、明子さんが伝言ダイヤルにアクセスし、

「金は用意できた。必ず行く。娘の声を聞かせて」というメッセージとともに携帯番号を吹き込む。二時四五分にタクシーで自宅を出発。午後四時過ぎ、脅迫状で指定された大阪・梅田の喫茶店に入る。

携帯電話の電波が着信しやすいよう、窓際に着席した明子さんの周りを、客や掃除夫を装った捜査員が取り囲んだ。しかし、指定の四時三〇分になっても犯人は現れない。携帯電話にも連絡がなかった。

五時三八分、ようやく携帯電話が鳴る。が、それは自宅で待機していた夫の幹夫さん(仮名、三六才)からだった。

「犯人からこちらに『奥さんの携帯番号を教えてくれ』と連絡があった。上新庄駅に移動し、南出口横にある公衆電話付近で待てと言っている」

ただちに警察は、別の捜査員をL新庄駅付近に派遺し、張り込みを指示。準備が整ったところで明子さんがタクシーに乗った。駅に到着したのは六時三〇分だった。七時二〇分、公衆電話付近で待つ明子さんの携帯が鳴る。
「どこにいる。上新庄か」

「はい。娘の声を聞かせてもらえませんか」

犯人はそれには答えず、新たな指示を出した。

「コインロッカーの横の電話ボックスの後ろにカギがある。それを使ってロッカーを開けると携帯がある」

指定のロッカーには、携帯電話とカバン、二通目の指示書が入っていた。

〈カパンに現金を入れ、摂津市役所前のバス停まで持って来い。以後、連絡はその携帯電話に入れる〉

明子さんは、指示に従うことを受け入れた。一方、警察はこれらの電話を逆探知した結果、発信番号の割り出しに成功する。しかし、それはプリペイド式携帯。所有者が特定できない電話だった。警察は別の捜査も試みた。携帯から発信される微弱電波をたどって持ち主にたどりつくのだ。発信源が梅田付近であることは突き止めている。
捜査員が現場に向かった。が、犯人は用件を話すと同時に電源も切っていた。捜査は失敗に終わった。ベンチの裏に貼ってある指示書を見よ午後八時二五分、七回目の電話で、明子さんは事件後、初めて由香子ちゃんの肉声を聞いた。

「お母さんよ。わかる?」「わかる」

九時三分、母親は犯人に叫ぶ。

「由香子を、由香子をいつ帰してくれるんですかー」「今晩帰すから」

「今晩っていつですか」

「一五分ぐらいしたら帰すから」

九時七分、バス停前で幹夫さんと合流した明子さんの電話が鳴る。

「主人と一緒に、シオノギバス停のベンチ裏に張ってある指示書を見よ」

名神高速を走り現場に着くと、〈京都市南区の桂川パーキングエリアに移動せよ〉との貼り紙があった。桂川パーキングエリアに到着。

今度は「そこにベンチがあるだろう。裏を見ろ」と電話が入る。すぐに確認したところまたもや〈大阪方面の名神高速高槻バス停へ行け〉との指示が出されていた。犯人は、まるで「グリコ・森永事件」をマネるように現金の受け渡し場所を転々と変更し、その後も高槻バス停→吹田パーキングエリアと走らさせる。吹田でまた電話。

「名神に戻り再び西へ走れ」夫婦が高速道路に入ってから、犯人の電話は指定した場所に着くのを見計らったようなタイミングで鳴った。所要時問を計算したのか、それとも指示書を置きながら先回りして夫婦の様子をうかがっているのか。

捜査本部は、七〇人を現場周辺に投入し夫婦の動きを見守っていた。

「千里山トンネル付近に管理施設の看板がある。その横で止まれ」

六度目の指示を受けて、夫婦が看板前に着いたのは午後二時五三分。犯人からの連絡を待ったが、この後、電話はなぜか一時間二〇分近くも鳴らないままだった。
警察がたくさんいたじゃないですか
今村さん夫婦が名神高速で待ちぽうけをくらっているころ、犯人はおかしな行動を見せていた。今村さん宅とーキロも離れていない民家に、一八回も電話をかけていたのである。犯人の携帯番号を割り出し、その後も電話会社の協力で発着信情報を得ていた警察は、その事実をキャッチ。何か事件と関連あるのではないかと、捜査員をその民家に派遣する。が、家族四人とも

「無言電話ばかりだったため、間違いだと思って気にしていなかった」と声を揃える。この家の番号が今村さん宅と下ニケタ違いのため、間違えたのか。それとも捜査の撹乱を狙ったのか。なんとも謎の行動である。犯人が、ようやく今村さん夫婦に現金引き渡しを要求してきたのは、二二日午前一時一〇分のことだ。

「ガードレールと防音壁の隙間の穴にバッグの持ち手の部分を一般道側に向けて置け」幹夫さんが指示どおりバッグを投下。捜査員らに緊張感が走った。犯人が現金を取りに来たときが身柄を確保できるチャンスである。高速下の捜査員に無線連絡を入れると、瞬く間に包囲ブロックが完成した。と、その直後、ミニバイクに乗った不審な男が現れる。
バッグの前を少し行き過ぎた後、突然Uターンし、そのまま金を拾わず東へ走り去った。「6141だ」捜査員らはナンバーをメモり、あえて追跡しなかった。複数犯で、バイクをオトリにして警察がいないか動向を探っている可能性もあったからだ。しかし、それっきり現金を受け取りに来る人間は現れなかった。

東淀川上新庄郵便局で見つかった脅迫文(抜粋、表現は原文のまま)

子供を預かっている警察に言うな警察に言うと子供は必ず殺す死んだら取り返しつかへんで悲しいで21日午後4時30分に4200(死に)万円と携帯電話を用意して新阪急ホテル1階喫茶店花みずき(携帯電話の入るように窓際)で若奥さん1人で待て(顔はよく知っている)

休みの時はその前で待て

警察に言わずにこちらの言うとおりすれば子供は必ず明日中に無事帰す

金は今の財産からみれはまたすぐ出来る調べてある

財産か有る家の子供に生まれたためにこの子も早死にやな

そんな事したくないその財産を子供のために有効に使ったり

こちらはプロや数人いる家の回りを見張っているもし警察が動いたらすぐわかるそれで取引は中止や一切連絡はしない子供の命とお金どちらが重たい警察へ連絡しなかったらもう一度子供の声を聞かせたる

それから考えても遅くないさっきも言った通り約束は守る

ただしその時すでに警察に連絡してれば一切連絡しないそれで終わりや

こちらも捕まるわけにいかない子供を殺して解散や

警察へ連絡するな・変なまねはするな4200万円・お金は揃える事(もし子供を助けたければこれだけは用意しろ)

携帯電話の番号はしたの伝言ダイヤルに午後3時までに必ず入れておく事

これなかったら連絡出来ない終わりや子死ぬ

伝言ダイヤルの連絡番号××××××××もし重複の時××××××××××暗証番号××××
午前四時二五分、自宅に戻っていた今村さん夫婦に犯人から電話が入った。

「警察がたくさんいたじゃないですか。もう少しで捕まるところだった」

それを聞いた両親はゾっとした。

〈警察に連絡したら絶対に子供は生きて返さない〉と脅追してきた犯人である。娘はどうなるのか。まんじりともせず朝を迎えた午前八時、犯人から耳を疑う連絡がある。「もう金はいらん。子供は必ず返す」

そのころ由香子ちゃんは摂津市鳥飼三丁目の公園にいた。午前九時三〇分、ランドセルを背負った女の子が“人でベンチに座っているのを近所の女性(二五才)が発見し、声をかける。

「どうしたの?」

「知らないおじちゃんに連れて行かれた。私はイマムラユカコです」

この時点では誘拐事件に関する報道は一切ない。が、女性は「イマムラユカコです」と繰り返す女の子を不審に思い、コンビニの公衆電話から摂津署に保護を依頼した。

「本当ですか」

府警の捜査員がすぐさま飛んでいき、写真などで由香子ちゃんを確認。無事保護した上で、両親に引き渡した。報道協定は、この時点で解除された。
犯人の動機は金以外にある
由香子ちゃんによると、二〇日に学校から帰る途中、白い車からオモチャが落ちるのを目撃。拾おうとしたところ、いきなり抱きかかえられ、車のトランクに押し込められたのだという。その後、ジュースなどを飲ませてもらうと急に眠くなり、誘拐中のことはほとんど覚えてないらしい。

ただ、犯人は1人で、ベージュの服を着た髪の薄い四〇ー五〇代のオジさんだったらしい。捜査本部はまず、脅迫状に指紋が残っていた大阪府北部の四〇代の男性を事情聴取した。男性は、大阪市東淀川区のコンビニ店長だった。聞けば、二〇日午後四時ごろ、コピーに来た中年男性に「紙が詰まっとるで」と言われ用紙に触ったという。

由香子ちゃんも「このオジちゃんとは違う」と証言、無関係とわかった(店長は犯人がこのコンビニでコピーした可能性が高いとみて防犯ビデオの提出を求められている)。由香子ちゃん保護の翌日、京都府四条畷市で犯行に使われたと見られる白い盗難車を発見。手がかりを探したが、消火剤がまかれ指紋採取は不可能だ。有香子ちゃんを押し込めたとされるトランクのカーペットやナンバープレートも取り外されていた。

さらに、犯人が残した携帯電話は九九年三月に梅田のショップで販売したものと判明したが、それを買った人問は偽名を使用、上新庄駅のコインロッカーに入っていたカバンも大量生産品だった。

いずれも所有者を割り出すのは不可能である。遺留品からの追跡に行き詰まった捜査本部は《怨恨》の線で犯人を絞ることにした。今村家はもともと地主で、幹夫さんは父親(六四才)と共有名義でかなりの不動産を所有しているが、父親は婿養子のため、過去には本家争いもあったらしい。

内部事情に精通している上、脅迫状で執勘に両親を脅していること。さらに、金にこだわらず由香子ちゃんを解放していることから、動機は金以外のところにあるというのが捜査本部の読みである。

ところが、今村家に近い人間を片っ端から洗っても全員にアリバイがあり、不審な人物は浮かんで来なかった。その後も、必死の捜査にもかかわらず、一向に有力な手がかりは出てこないのである。

二一日深夜、犯人が高速道路近くにいた可能性があると料金所の車両通過状況を分析してみてもそれらしい不審車は皆無。どころか、犯人の携帯の通話記録を調べると、あの日、かかった二五件の脅迫電話のうち、約七割が摂津市外の吹田や豊中市から発信されていたことがわかった。

ミニバイクの男も関連は不明のまま、犯人が立ち寄ったとされる公衆電話付近で聞き込みをかけても収穫はない。

「犯人は警察の捜査内情に精通したOBではないのか」こんなとんでもない意見が飛び出すほど、捜査本部は混乱していた。カツラを取った男の写真を少女に見せた途端…事件からニカ月後、摂津署捜査本部は最後の手段に出た。

由香子ちゃんの証言を元に作成した犯人の似顔絵、コンビニの防犯カメラに写った不審な男、脅迫電話の声などをインターネットやテレホンサービスで公開したのである。その結果、寄せられた情報は二二四件。それぞれ裏付けを進めるうち、事件発生時の行動が暖昧な三人の男が浮上した。

最後の望みをかけ、由香子ちゃんに面通しを実施する。しかし、写真を見た山香子ちゃんは「違う」と、即座にクビを横に振る。これもダメか。意気消沈の捜査本部に、一人の捜査員が起死回生の情報を持って飛び込んできた。

三人のうちの一人、河合幸男(仮名、五一才)がカツラを常用していたというのだ。さっそく、捜査員が摂津市内の河合宅に急行。屋内が覗ける位置に張り込み、河合がカツラを外す瞬問を見事カメラに収める。果たして、その写真を見た由香子ちゃんは叫んだ。「このおっちゃんやー」件のコンビニ店長も「よく似ている」と証言。

さらに河合の親族らを事情聴取すると、「自分と別の男の二人でやった、とほのめかされた」「ミニバイクで金を取りに行ったが失敗したと聞いた」などの情報が飛び出した。念のため行った声紋鑑定でも脅迫電話と河合の声は一致する。もはや問違いはない。捜査本部は逮捕状を請求、二〇〇〇年四月六日、河合の自宅を捜索するとともに本人を摂津署に呼んで事情聴取を開始した。

「私は関係ありません」

河合は犯行を否認した。が、マジックミラーを通し再び由香子ちゃんに「このおっちゃんに間違いない」と断言されると、ようやく腹をくくる。

「借金に困ってやりました」

ギャンブルに狂った河合は、裕福だった先祖代々の資産を食いつぶし、当時、勤めていた茨城市役所資産税課でも同僚に借金を依頼。結果、「公務員にふさわしくない」として退職勧告を受ける。その際、二四〇〇万円の退職金をもらったにもかかわらず、まだ四〇〇〇万円近くの借金が残っていたらしい。

「昨年春頃に建築中の今村さんの家を見て、すごい家だと思ったんです。車のナンバーから今村さんのことを調べ、犯罪マニュアル本を参考にしました」

捜査員を悩ませた民家への電話は、単なる押し間違いであることも判明。脅迫状と裏腹、由香子ちゃんを解放したのは情が移り、かわいそうになったからと自供した。

確かに供述どおり、河合の自宅からは犯罪マニュアル本や粘着テープ、帽子など約三〇点が押収されている。が、事件に直接結びつく物証ではない。この事件、最終的に市民情報がなければ解決にいたらなかったといえよう。
地裁で懲役九年の判決を受け、その後、大阪高裁に控訴するも棄却され、二〇〇〇年四月に懲役九年が確定した。河合が逮捕されてーカ月後の九九年五月、神奈川県横浜市でもプリペイド式携帯電話を駆使した誘拐事件が起き、この二つの事件がきっかけとなり、プリペイド式携帯電話の販売手法そのものが見直されることになった。ちなみに、戦後、身代金目的誘拐事件は約二四〇件発生しているが、未検挙は七件し1かない。